北斎かける百人一首@すみだ北斎美術館
2月に入りましたがまだまだ気分は年明け、年明けといえば百人一首! ということで、すみだ北斎美術館「北斎かける百人一首」展に行ってきました。
この展覧会は、葛飾北斎が描いた大判錦絵「百人一首乳母かゑとき」を中心に、江戸時代中期の人々に浸透していた百人一首にまつわる浮世絵を紹介するものです。
「百人一首乳母かゑとき」は北斎最後の大判錦絵シリーズで、「乳母が絵解きをする」ように大人が子供に作品を見せながら百人一首の内容を説明する、という趣旨で制作されたものです。本来100図ぴったり制作する予定が、天保の大飢饉による版元への経済的打撃などの理由で完成品は27図にとどまりました。その27図のうち、すみだ北斎美術館が収蔵している23図が本展で一挙公開されています(前期のみ展示の作品もあり。)
作品には、歌に詠まれた景色が北斎によってさらに発展され、様々な景色が描き込まれており、場面設定も歌人と同時代のものから江戸時代(当時の現代)のものとバリエーションがあります。個人的に印象に残った作品を2点ほどご紹介します。
百人一首乳母か絵説 中納言家特
「かささぎの渡せる橋」とは、七夕の夜、天の川にかささぎが集まって翼で羽を作り、織姫を彦星の元に渡すという伝説からきているそうです。
北斎はかささぎの別名・朝鮮鳥から発想し、朝鮮通信使の船を作品の前景に描きました。船の縁から船員がかささぎと思しき鳥に手を伸ばしています。
更に、画面右奥に見える船は、大伴家持が生きていた時代に日本と唐のあいだを行き来していた遣唐使船です。「かささぎ」の語を通じて、和歌の時代と(北斎にとっての)現代が交差する趣向が非常に印象的です。
百人一首うはかゑとき 春道列樹
この歌は、京都から志賀の里(滋賀県大津市)に抜ける山道の中、川面にたまっている紅葉を「しがらみ(柵)」に見立てて詠まれたものです。
一方、北斎の作品で目を惹くのは、画面左側で巨大な木材にのこぎりを入れる木挽(こびき。材木を製材する職人のこと)です。画面下側で紅葉を飲み込みながらうねる川の波とは対照的に、すっくとした直線で構成された木材。人が自然を人工物へと変えていく瞬間の形への北斎の純粋な興味が現れているように思います。
ガスタンクや風車などの産業建造物を撮影したドイツの写真家、ベッヒャー夫妻の作品を連想したり。
北斎による「百人一首乳母かゑとき」、百人一首を足掛かりに北斎がふくらませたイメージの豊かさを楽しめる作品群です。他にも江戸時代の百人一首解説書やカルタの様子を描いた絵など、当時の風俗も紹介された楽しい展示でした。会期は2月26日(日)まで。
参考文献+こぼれ話
谷知子『カラー版 百人一首』角川ソフィア文庫, 2013.
本記事の百人一首の内容に関しては、上記の本を主に参照しています。
光琳歌留多の絵柄と一緒に百人一首の作品・訳・解説がまとまった本で、北斎の「乳母がゑとき」とはまた違う大らかな線で描かれた歌人たちがとてもかわいいです。
実はすみだ北斎美術館のミュージアムショップで表紙に「画・尾形光琳」とあるのを見て、思わずジャケ買いしてしまいました。値段も480円+税でけっこうお手頃。高校を出てからほぼほぼ洗い流された百人一首の記憶、この本で取り戻そうと試みています。
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