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個性豊かなコレクターたち「美をつくし」展@サントリー美術館

9/14(水)~11/13(日)まで開催のサントリー美術館「美をつくし」展に行ってきました。「紀元前から近代まで」の名に違わず、幅広い年代の日本・中国美術が見られる展示です。

「美をつくし 大阪市立美術館コレクション」展

この展覧会は、現在改修工事中(2925年春まで)の大阪市立美術館が収蔵している、日本中世~近代の美術工芸・中国美術・仏教美術を一堂に会して展示するものです。
タイトル「美をつくし」は、文字通り「美の限りをつくす」のほか、港で水深や水脈を船に知らせるために立てられた標識「澪標」(大阪市章のモチーフでもあるそうです)など、様々な意味を込めてつけられたものだそうです。

落語家さんによる楽しい音声ガイド

大阪市立美術館のコレクションということもあってか、音声ガイドは上方落語家の月亭天使さんが担当されています。
オーソドックスな作品紹介の折々に落語の話題もはさまれ、聞いていて楽しいガイドです。例えば、こちらの作品の解説。

原在正・四辻公説賛「猫図」江戸時代・18-19世紀、

この作品の解説では、落語では猫が冷遇されがちなので、猫が出てくる噺ばかりを集めた寄席を企画されたという話(うろ覚えなので内容は違うかもしれませんが……)をされていて、こんなにすやすや安らかに寝ている猫が落語ではいったいどんな目に……!?と気になることしきりでした。

盗難事件解決でも大活躍! エピソードの濃いコレクターたち

展示では、「中国美術」や「仏教美術」などジャンルごとに章分けされ、各ジャンルごとにそれらの作品を大阪市立美術館に寄贈したコレクターたちも紹介されていました。関西の実業家や貿易会社社長など、地元の名士だったであろう人名がコレクターとして名を連ね、いずれも波瀾万丈な人生を送ってきたのだろうなと想像させられます。

その中でも、仏教美術コレクターであり弁護士・政治家としても活躍した田万清臣氏は、なんと1937年に盗まれた東大寺法華堂の「不空羂索観音像」宝冠化仏の奪還に一役買った人物でもあるというエピソードは衝撃的でした。


田万コレクションの収蔵品
「銅造 誕生仏立像」白鳳時代・7~8世紀

盗難から数年、警察による捜査は続けられていたものの事件の時効が迫っていたある日、当時から著名なコレクターであった田万氏の自宅に老人が訪れます。なんと、その老人は「不空羂索観音像の宝冠を買う気はないか」と打診してきたのです。田万氏はすぐに警察に通報しましたが、急に動きを見せれば老人と窃盗犯たちが逃げてしまうということで、表向きは話に応ずるふりをしつつ、裏では警察と連携して捜査に協力すること1か月。ようやく犯人グループを逮捕し、無事に宝冠化仏も東大寺に返還されたそうです。
展示室にはその時のお礼として東大寺から田万氏に贈られたという「大般若経」もありました。
そのほかにも、田万氏は1949年の法隆寺金堂火災で失火責任を問われた工事現場監督者の弁護を無報酬で引き受けたりと、様々なエピソードを残しているそうです。一個一個のエピソードの濃度がすごい。

また、近世~明治の漆工品や根付を収集したスイス人コレクター、U.A.カザール氏(Ugo Alfonso Casal)も、当時あまり顧みられていなかった近世工芸品を中心に4000点余り収集し、それぞれに通し番号を付け独自に分類するといった入れ込みようが印象的でした。
カザールコレクションは本来、1941年に日本からアメリカへ輸送されるはずでしたが、太平洋戦争勃発によって日本に留まることとなったそうで、戦時中も戦火をかろうじて免れ、大阪市立美術館のコレクションに加わったそうです。

さて、そのカザールコレクションの中で特に惹かれたのは、蓋に象牙製の水車がはめこまれたこちらの「橋姫蒔絵硯箱」(江戸時代・18-19世紀、大阪市立美術館蔵)。

公式Twitterにもあるように、なんと蓋を動かすと水車がくるくる回る仕組みのようです。ものすごい凝りよう! (破損の可能性もあって難しいのかもしれないですが)これはぜひ、傾けたところの動画が見てみたい……!!
展示の搬入で保存箱からこの作品を取り出したりする時もくるくるするのでしょうか。それとも水銀だし、よっぽど傾けないと回らないのかな。学芸員さんに聞いてみたいです。

いつもながらに3F展示室のしつらえが美しい

引用した公式ツイートの左側、緑色の糸を天井から垂らしてパーテーションのようにし、同じように垂らした白い糸をカーテンのように絞ってアクセントをつけているのですが(語彙力)、ほの暗い室内に浮かび上がる緑と白がとても洗練されています。白い土が象嵌された韓国の青磁みたい。

この展示に限らず、サントリー美術館の3F展示室は毎回とても凝ったインテリアで、行く度に感嘆しています。
前回の「歌枕」展も、展示されている「吸坂焼武蔵野皿」になぞらえて壁面上半分を瑠璃色、下半分を柿色にし、さらに壁に白色の光で大きなスポットライトをあてて月に見立てる……という、武蔵野皿が展示空間全体に拡張したような仕掛けに心を射抜かれてしまいました。

イラスト: 「吸坂焼武蔵野皿」(筆者作成・再掲)

「美をつくし 大阪市立美術館コレクション」は、作品はもちろんコレクターのエピソード、会場インテリアのすばらしさ等々さまざまに楽しめる展覧会でした。
11/13(日)までと閉幕まで1か月以上あるので、お時間ある方はぜひ。金・土は20時まで開館しているので、お仕事帰りにもおすすめです。


てへぺろだるま。カザールコレクションの根付は全点撮影可能です。
「達磨牙彫根付」明治時代・19世紀 大阪市立美術館蔵

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