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後編:プロダクトの高速グロースを実現する上で直面した、ハードシングスとその先 ~組織編・プロダクト編~ 【イベントレポート】

SHEは「学ぶ」と「働く」の循環型プラットフォーム構築に向け、総額18億円の資金調達を実施。プロダクトを支えるCPO候補プロダクトマネージャーやエンジニア、戦略PRリード、BtoB新規事業責任者ほか、様々なポジションでの採用強化やプロダクト開発に充てる予定です。

今回の資金調達を記念し、「プロダクトの高速グロースを実現する上で直面したハードシングスとその先 ~組織・プロダクト編~」と題した特別イベントを開催しました。本記事では、イベントの後編をレポートしていきます。


前半では、登壇いただいた株式会社ミラティブ様・株式会社LayerX様、そしてSHE各社が直面したハードシングスやその向き合い方、乗り越え方を紹介してきました。

後編では組織編・顧客編と分けて、ハードシングスについてトークセッションを行っています。最後には、参加者からいただいた質問にも回答するなど、各ビジネスモデルやフェーズで試行錯誤する3社の取り組みが見えてきました。


登壇者紹介

株式会社ミラティブ 執行役員 プロダクトマネージャー / 坂本登史文さま

2010年京都大学理学研究科修了。大手メーカー系IT企業でSAPコンサルタントとして会計システムの開発に従事。その後、データサイエンティストとしてDeNAで活躍。2014年3月freee株式会社に参画、データ分析チーム・グロースチームの立ち上げ、freeeの人工知能エンジンの発明などを行う。2015年からプロダクト企画の執行役員。 現在はミラティブにて、執行役員プロダクトマネージャー。

株式会社LayerX バクラク事業部 Engineering Manager・Tech Lead / 小峯祥平さま

2015年慶應義塾大学大学院理工学研究科修了、ヤフー株式会社に新卒入社。EC事業でアプリ開発や海外駐在を経験。その後、2社のスタートアップでプロダクトのフルリプレイスや新規立ち上げ、チーム組成、CTOなどを経験した後、2021年8月LayerXに入社。バクラク申請・経費精算のプロダクト開発全般を担当し、現在はEngineeringManagerとTechLeadを兼任。FY22上期ベストマネージャー賞。好きな飲み物はビールと日本酒。

SHE株式会社 執行役員 CTO / 村下瑛

1989年生まれ。東京大学在学中から幅広い開発活動に関わった後、求人検索サービスIndeedの最初の日本新卒としてジョイン。 機械学習を用いた候補者のリコメンド・エンジンの開発に従事し、エンジニアリングマネージャーとして多国籍のチームをリード。 コミュニティと学習を掛け合わせたSHEのサービス設計に感銘を受け、2019年4月から現職。

SHE株式会社 執行役員 VP of Experience / 阿部雅幸

2006年、株式会社paperboy&co.(現GMOペパボ株式会社)へ入社。ネットショップ構築サービスのカスタマーサポートやメディアサービスの広告運用、ショッピングモールの企画等に従事。2011年にハンドメイドマーケット「minne」を企画し新規事業として立ち上げる。サービスは開始から7年でアプリダウンロード数1,000万、利用作家数55万人、年間流通額120億円を超えるサービスに成長。2020年に独立後、スタートアップ等の新規事業立ち上げやアドバイザリーの他、デザイナーとしてデザインも行う。2021年よりSHEにVP of Experienceとして入社。


ビジネスモデルによって意志決定は異なる

阿部(敬称略):
続いてトークセッションに移っていきたいと思います。まずは「プロダクトの高速グロースを実現するうえで直面したハードシングス 組織編」です。


各社の意志決定の違い

村下(敬称略):
社内でどのようにコミュニケーションを取って、組織体制を変更したのか気になりました。

小峯(敬称略):
弊社は、プロダクトごとに職能横断で作るチームを前提としています。社員はお客様の価値を最大化することに意欲が高いので、フロントエンドもバックエンドもアプリも、一つのチームでプロダクトに向き合う方がチームとして集中できるだろうと考えています。

ただ要素技術において全体レベルの底上げが難しいので、イネーブリングチーム(※)を立ち上げて、横軸で底上げを行う取り組みをしています。

※イネーブリングチーム
特定のテクニカルドメインのスペシャリストで構成され、能力ギャップを埋めるためにサポートすること。「QAセッション」で話題に挙がるチームトポロジーの一つ。

村下:
LayerXさんがユニークだと思ったのは、プロダクトの担当者が決まっていることでした。何か理由はあるのですか?

小峯:
SHEさんは「戦略と実行の分離」をするとおっしゃっていましたが、LayerXは「分けない」と明確に決めています。理由は当社が提供する法人支出管理サービス「バクラク」のお客様の詳しい課題を深ぼったときに、エンジニアやデザイナーの知識、つまり「どうやって作るか」が合わさることでいいものができるだろうと考えているからです。具体的な解決策を深いものにできると思っています。この取り組み方の効果が高いのはBtoBならではかもしれません。

村下:
ビジネスモデルによって意志決定は全く違うんだろうなと思いました。SHEは「コミュニティ」と正解がないなかでプロダクトを作っています。エンジニアが考えるだけでは、限界があるんですよね。

坂本(敬称略):
今日の3社は各社違っておもしろいなと思います。

LayerXさんは業務が決まっていて、効率化などで理想の仕事の進め方があるのに対して、ミラティブは正解がないんですよね。例えば「子どもがすくすく育つような場をつくりたい」から、そのために学校や病院を作っていく。学校があったとしても交通網がないと意味がないという世界観なので、ビジョンドリブンなんです。

SHEさんは真ん中かなと。コミュニティっぽさは正解がないものの、コース受講などでは明確に便利だと思える機能がある。組織は様々な形のハイブリッドになっていくような気がします。


メンバーが同じ方向を向くために

小峯:
ミラティブさんとSHEさんはPdMと開発者のチームが離れているなか、全員が同じ方向を向くために取り組んでいることはありますか?

坂本:
月に一度の全社会でCEOが話したり、PdM・エンジニア・デザイナーを毎月集めて振り返りと今後の戦略を示したりしています。「子育てしやすいまちづくりをする」という大きな流れは納得されているので、「こういう学校を作りたい」というデティールを各PdMがキックオフで話す仕組みにはなっています。

村下:
SHEもビジョンの構想と言語化は進めています。2025年に向けてどういう体験を作っていきたいかは明文化して、全社総会やキックオフで言うようにしています。

戦略と実行を分離したときに「なぜこれをやるべきなのか」の理由付けがないと、分断が起きると思っています。なので戦略チームは「何を・どう意志決定したのか」全部可視化して整理していて、仮説検証も「どのKPIを使って・何を試すために・どうするのか」を明文化して振り返る、というのを型化しています。

小峯:
過程が分かるとエンジニアのやる気が湧きそうですね。


オーナーシップの在り方

村下:
ミラティブさんは、運用はどうされているんですか?エンジニアがチームごとに別の業務を行うなど変化が多いなかで、オーナーシップが曖昧にならないのか気になりました。

坂本:
PdMが判断しています。例えばランキング制度を作ったとして、ミラティブでいう「運用」は商品は何にするか・どういう人がエントリーできるようにするか・設定はどうかを考えること。どの企画が誰の持ち物なのかは、その時点でゆるっと決まっているんです。

それに、エンタメのサービスなので使いづらいと使っていただけないんですよ。「この橋、通りにくいな」と思ったら誰も通らないので、PdMが自発的に直していきます。


顧客体験をより良くするための分析・目標

阿部:
続いてのテーマは「顧客編」です。ユーザーと向き合うという話が前半のミラティブさんの発表からありましたが、インサイトはどのように掴んでいるのでしょうか。


インサイトの優先順位

坂本:
配信サービスの場合、プロダクトを見に行けばユーザーさんが使っている機能は分かります。ユーザー行動に関わる情報はたくさんあるので、それらをどう抽象化してインサイトにするかが求められます。PdMのスキル依存になっている部分は一定あるかもしれないと、今話しながら気が付きました。

阿部:
インサイトの優先順位はどのように決めていますか?

小峯:
LayerXは「裏のニーズを探る」というのが、会社として「何をしたいか、どうありたいか、どんな価値を提供したいか」をまとめた羅針盤に掲げられています。

日頃からいただく要望を集計したうえで、大事そうなものをピックアップし、開発者がお客様の商談に同行するなどニーズを掘り下げるようにしています。まずは一つひとつの課題をクリアにして、多い要望から課題汎用化して機能にしていきますね。

村下:
難しいテーマですよね。コミュニティの体験設計はニーズを深掘るだけではなく、強い仮説をこちらからぶつけていくのが重要だと思っています。

今トライアルしているのが「チームを組んで毎週同じ時間に学習を進めていくと学びが軌道に乗りそう」という知見の検証。SHEの受講生さんも気が付いていない学習の伸びしろをいかに伸ばせるかを重視しています。

坂本:
私は最近、優先順位の意志決定は「ストーリーに対して」していかないといけないんだなと思っています。

例えば「子育てがうまくいくまちづくり」には、「病院を作って、医療費を安くして、学校を作る。6年生が卒業して評判が拡がり、他県から子育てをしたい人が引っ越してくる」というストーリーがあります。そのストーリーが曖昧なまま「病院と学校、どちらを先に作るべきか」を議論しても、意味がありません。

ストーリーと「いつまでに実行していくか」によって、優先順位やスピード感が決まるんだろうと思います。


長期指標と短期指標の見方

阿部:
高速グロースを実現するために、長期指標と短期指標がありますよね。その見方や扱い方はどうされていますか?

村下:
SHEは「キャリアが働いて終わりではなくてずっとアップデートしていくものだから、寄り添っていくことがいいよね」という考えや長期指標はブレずにいるのですが、短期指標の追い方は試行錯誤しています。現状は仮説に対してKPIを個別に設定し、意志決定していくようになりましたが、お二人の意見を伺いたいです。

小峯:
LayerXにとって、分かりやすい指標は「契約日」ですね。長期指標は解約率で測っています。そもそも成約に至るまでには「セールスがついて・トライアルし・導入する」流れがあるので、短期指標はセグメントごとに分析し、成約率に違いがあるかなどで決めています。これもBtoBっぽい回答ですね。

坂本:
ミラティブの長期指標は「熱量指標」を置いています。毎日配信者の数や配信時間ですね。使っていただかないとサービスを大きくできないので、コアなファンがどれくらいプラットフォームに来てくださるかを見ています。短期指標は売上や足元のマーケティングで獲得したユーザー数でしょうか。

村下:
なぜ毎日配信者にフォーカスしているのですか?

坂本:
生活の一部としてミラティブを使ってほしいという思いがあります。SNSって誰かとコミュニケーションを取りたいときに開くものなので、ハマっている方は毎日使っていただけるのかな、と考えているんです。

「じゃあ旅行に行っているときはどうするのか」となったので、有休の制度を作りました。何日間か配信すると「お休み券」がもらえるので、機能をを上手く使うことで毎日配信を途切らせないようにすることができます。

小峯:
有休制度、めっちゃ面白いですね(笑)

阿部:
面白いですね(笑)1日配信できないだけでも、モチベーションが下がってしまいそうですからね。

小峯:
社会を作っていますね、本当に。

坂本:
小学校の放課後のようなものです。学校が終わったらイツメンで遊ぶ、ミラティブはそのインターネット版かなと思います。


開発スケジュールの決め方

村下:
LayerXさんはアクティブに開発されていますが、スケジュールを立てるうえではどのように合意形成をしていますか?

小峯:
LayerXの場合は、国内外の動きや競合他社さんの動きがあるので「ここでこういう機能を出さないとお客様の不利益になる」というケースが度々あります。例えばインボイス制度など国の制度が新しくできたりすると、対応しないとお客様の不利益になる。やらざるを得なくて決まることが一定多いのだと思います。

村下:
「やるしかない」でチームのモメンタムが出来上がっているのがさすがです。

小峯:
一方でサービスが中長期に提供したい価値を言語化した「ハタラクをバクラクに」というものがあるのですが、これはみんなが目指して取り組んでいます。


QAセッション

阿部:
最後にQAセッションに移ります。事前にいただいていたご質問です。「プロダクトのターゲットを絞ることは重要なのか。絞らない方が顧客は増える?」。

坂本:
フェーズによって、絞った方がいい場合と絞らない方がいい場合はありますよね。どちらにしても「この機能は誰が使うのか」と聞いたときに、特定の個人が答えられないものは作ってはいけないと思います。

村下:
SHEが強みとしている「コミュニティ」で言うと、ある程度絞るのは重要だと思います。それを実感したのは、弊社の事業をコワーキングからスクールにピボットしたときです。「女性なら誰でも来れます。繋がりを作ってください」と言っていたコワーキングの時代は熱量が生まれず、定着もしませんでした。「キャリアを変えたい人が短期で勉強するスクール」としたところ、一気にコミュニティとしての熱量が高まったんです。

コミュニティの価値は、目的を達成するための共通言語があることや心理的安全性が高いことだと思っています。ただ人がいればいいわけではないと思いつつ、時と場合によるので難しいですよね。

小峯:
LayerXのバクラクはコミュニティサービスではなく、お客様の課題を解決するものなので、ミニマムなプロダクトの状態では解ける課題が限られるので、「最初は自ずと絞られている」という表現が正しいかなと思います。事業によって、フェーズによって様々ですよね。

阿部:
ありがとうございます。続いて、「チームトポロジー(※)を成功に導く上での書く登壇者様のお考えや挑戦、失敗について」質問いただいています。

村下:
まず「正解はないよね」とすごく思います。SHEは「顧客に対して、何が響くのかを開拓する」比重が大きいのですが、LayerXさんとミラティブさんが思う価値とは全く違いますよね。あくまでも原則としてチームトポロジーがあって、各組織で最適なチーム構成をしていくのが大事だと思います。

※チームトポロジー
チームの構造と組織構造を進化させるためのアプローチ法。4つのチームと3つのインタラクションモードがあり、書籍でも解説されている。

小峯:
おっしゃる通りだなと思いつつ、個人的にはストリームアラインドチーム(※)だとドメインもインプットも速くなる実感はあります。

イネーブリングチームは我々も取り組み始めたばかりで、正解は見えていないのですが、チームの一人ひとりが各チームにジョインしたときに開発を助けられないとなかなか成り立たないなとは思います。

※ストリームアラインドチーム
ビジネスドメインや組織の能力に沿った仕事の継続的な流れのこと。チームトポロジーの一つ。

坂本:
ミラティブはCTOが非常に細かく設定をして「こういうチームであるべき」という姿を目指して動かしているんだと思います。CTOが安定的かつ変化に強い組織を作ってくれていると我々PdMも日々実感しています。。

阿部:
ありがとうございます。最後の質問ですが「プロダクトの成長度合いを測るためのKPI設計のコツ」を伺えますでしょうか。

小峯:
先ほどの「長期指標・短期指標」の話に補足すると、売上と自分たちが提供しているサービスの価値がズレていないかは強く意識しています。プロダクトが提供する価値は常にお客様の負担する利用料金を上回っていないといけない。利便性や価値をお客様のご負担するコスト以上に返すことはみんな大事にしています。

阿部:
SHEは私から回答すると、瑛さんが言ったように仮説検証をかなり繰り返すスタイルに変遷しました。長期指標を見据えた短期指標については、仮説検証から見えてくる成果をKPIとして置こうとしています。実際に見えてきている成果はいくつかあって、「設計したKPIは確からしい」というのは、今感じているところです。

坂本:
仮にコツがあるとすると「KPIを一段抽象化して考える」ことかなと思います。

例えばバスケットボールが上手くなったことを表す指標として「フリースロー10回中、何回成功したか」があるとします。これって何の指標だっけ?と考えたときに「技術の向上指標」であると日本語での言い換えができるか。単なる数字だけではなくて、日本語で会話ができるかは結構重要かなと思っています。

阿部:
共通認識を作れるかどうかが重要なポイントなんですね。本日はありがとうございました!


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