前編:プロダクトの高速グロースを実現する上で直面した、ハードシングスとその先 ~組織編・プロダクト編~ 【イベントレポート】
SHEは「学ぶ」と「働く」の循環型プラットフォーム構築に向け、総額18億円の資金調達を実施しました。プロダクトを支えるCPO候補プロダクトマネージャーやエンジニア、戦略PRリード、BtoB新規事業責任者ほか、様々なポジションでの採用強化やプロダクト開発に充てる予定です。
今回の資金調達を記念し、SHEは全3回の特別イベントを開催しました。本記事では2回目に実施した「プロダクトの高速グロースを実現する上で直面したハードシングスとその先 ~組織・プロダクト編~」の前編をレポートしていきます。お招きしたのは、株式会社ミラティブ様・株式会社LayerX様です。
プロダクトを持つ企業にとって、プロダクトの成長は事業の成長と直結します。成長する上での困難は開発だけでなく、チーム編成や社内でのコミュニケーションなど、組織作りにおいても直面することがあるのではないでしょうか。
本イベントでは、事業目的・内容・プロダクトなどが全く異なる3社が集まりました。三社三様といえるハードシングスや、その向き合い方・乗り越え方は、参考になるものがあるはずです。
登壇者紹介
株式会社ミラティブ 執行役員 プロダクトマネージャー / 坂本登史文さま
株式会社LayerX バクラク事業部 Engineering Manager・Tech Lead / 小峯祥平さま
SHE株式会社 執行役員 CTO / 村下瑛
SHE株式会社 執行役員 VP of Experience / 阿部雅幸
各社が直面したハードシングス
阿部(敬称略):
まずは企業紹介と直面したハードシングスについて、紹介いただきたいと思います。
SHE株式会社
村下(敬称略):
SHEの村下です。よろしくお願いします。
SHEはビジョンとして、「一人一人が自分にしかない価値を発揮し、熱狂して生きる世の中を創る」と掲げています。
事業としてはミレニアル世代の女性向けのキャリアスクールSHElikesを中心に展開しており、時間や場所に捉われない自由な働き方を実現するためのスキルを身に付けられます。そして仕事獲得まで一気通貫してサポートしていくのが特徴です。
またコミュニティの熱狂もSHEの特徴。SHEのなかでロールモデルを見つけたり、受講生同士の繋がりを作ったりすることで学びを挫折しない仕組みを作っています。
SHEは順調そうに見えるかもしれませんが、色々なハードシングスとトライを経て今があります。創業して5年間で5つのサービスをリリースし、2度サービスを一から作り直しました。全7回のリリースをどのように意志決定したのかを中心に、4つのフェーズに分けてお話ししたいと思います。
まずは2017年4月の創業時から2019年10月頃。手作り感満載のオフィスで、CEOの福田が全ての現場を回していました。当時の僕は副業でジョインし、現場での気づきをプロダクトとして実装していました。
この2.5年で2度サービスを作り直したのですが、よりよい形にアップデートしていくスピード感がお客様としては「なんか楽しい」に繋がっていたように思います。収益は大幅に改善できたものの、開発者としては実装が大変でした。副業1名・業務委託1名だったので結構死にそうでしたね(笑)。スタートアップらしい、いい思い出です。
続いて2021年8月まではこのように組織体制を変え、福田が現場を離れて構想や資金調達にフォーカスしていきました。同時に事業責任者を配置してサービスを作る体制になります。
この体制でうまくいったのは、リリースまでのスピード感。1年の実装期間を経て、半年で3つのサービスをリリースできました。一方ハードシングスは、事業部と開発者の間に溝が生まれたこと。「事業部は開発を分かっていない」「開発が楽しくない」「野菜を切っている感じだ」とのメンバーの声があり、離職者も発生していました。
反省を踏まえ、職能横断でインパクトにフォーカスするワンチームを目指すフェーズに移っていきます。
ミッション志向の自律的なチームにしようと、学習体験・お仕事・グロースと3つのチームに分け、開発者がチームを横断する体制にしました。
2ヶ月くらい試した結果、体験の一貫性や連携の強化はできたなと思った一方で、「インパクトが出ない」というハードシングスがありました。全員で意思決定していたためコミュニケーションコストがかかり、事業KPIは伸び悩みました。
そして現在の体制、戦略と実行の分離をしていくことになります。インパクトを出すには質の高い意思決定が必要で、そのためにどのようなプロセスが最適なのかを整理しました。チーム分割はそのままに、意志決定と仮説検証を担う「Discoveryチーム」と、構想を具現化する「Deliveryチーム」を作っています。(紺野真悟著『リーンマネジメントの教科書 あなたのチームがスタートアップのように生まれ変わる』参考)
現時点でもインパクトの向上はあるかなと思っていて、質の高い仮説にエンジニアのリソースを注げるようになりました。ハードシングスは未知ですが、何かしらあるとは考えています。
以上がSHEの変遷ですが、様々な試行錯誤を経て見えてきたのは「検証」「責任」「やり切り」が大事だということです。ファクト十分集め、意志を持ってリスクを取り、決定事項をやり切って具現化する。そのサイクルが強いプロダクト組織を作ると思います。
SHEが考える組織のゴールは「創業当初の無邪気でパワフルな意志決定の流れを、再現性高く組織に実装していく」ことです。
株式会社ミラティブ
坂本(敬称略):
ミラティブの坂本です。
ミラティブは、スマホひとつでアバターを使ったゲーム配信ができるプラットフォーム「Mirrativ」を開発・運営しています。
ゲーム配信と聞くと「ゲームが上手い人やインフルエンサーがやっている」イメージを持つ方が多いですが、ミラティブはSNSのような気軽さで「友だちの家でゲームをする」感覚を目指しています。全ユーザーのうち、配信者の割合が多いのが特徴です。一般的な動画配信サービスの場合、配信者比率が1%に満たないくらいですが、ミラティブの配信者比率は約30%です。
先日、総額34億円の資金調達を実施しました。今まで以上にサービスの改善やプロモーションに投資していこうとしているフェーズです。それを踏まえて何がハードシングスだったかを紹介していきます。
まず、売上が伸びにくいフェーズがありました。ユーザー数が伸びたので、視聴者が配信者にギフトを送る「スーパーチャットモデル(※)」を導入したものの、売上が想定通りに伸びませんでした。要は、アイドルのライブには毎回差し入れを持っていくけど、友だちの家には毎回差し入れを持って行かないのと同じで、「友だちの家でゲームをする」ミラティブのコンセプトには合わなかったんです。
そこで行動指針に立ち返って、「ユーザーから学ぶ。それしかない。」と行動し始めました。
定量面・定性面からとにかく調査をした結果、Mirrativのユーザー間で「ギフトを贈ってくれた人に対してギフトを贈り返す」連鎖が生まれていることが分かりました。その連鎖を支えるプロダクトを開発しようと、ギフトを送るとアバターがもらえる「ギフトガチャ」を考案し実装しました。このあたりからミラティブの成長は加速し、広告にも投資するようになりました。
重要だったのは、「誰が何のためにお金を使っているのか」に立ち返ること。立ち上げ当初は苦労しましたが、ユーザーから学ぶのは重要だったなと思います。
二つ目のハードシングスは組織体制でした。部署が違うプロダクトマネージャー(PdM)の間で分断が起きたことがありました。ミラティブにいるメンバーはみんな良い人だし、コトに向かう姿勢を欠かさない集団ではありますが、それでも分断が生まれました。
ランキングで売上が出るようになってきた頃、素早い意思決定ができるようにプロダクト系からBizDev系の所属に移行させ、それぞれにPdMを配置したのです。
すると、Twitterでの発信が部署ごとに行われることで統一感を保てない状態になったり、PdM間での訴求面の取り合ったりと、同じプロダクトなのに互いの企画を「知らない」状態が常態化しました。。そのためユーザーから見たときのプロダクト体験がちぐはぐになったんです。
今はPdMは同一の部署に所属し、月に1回の振り返り合宿をオフラインで行っています。また気になることは横軸で気軽に相談できる「よもやま会」を実施できる体制にもして、組織内の分断が改善しました。
株式会社LayerX
小峯(敬称略):
LayerXの小峯です。「圧倒的に使いやすいプロダクトでわくわくする働き方を。」をプロダクトビジョンとして、コーポレート向けのSaaSを提供しています。
バクラクシリーズのラインナップは4つです。例えば「申請と経費精算」ですと、領収書を添付するときに自動でデータ化したり、上長はslackで承認できたりと便利な機能を提供しています。
2年弱で5つのプロダクトをリリースし、組織の変化はこのようになっています。
自分が入社した2021年8月頃は、CTO含め特定のエンジニアがPdMを兼任していました。今は各プロダクトごとにマネージャーとPdMがアサインされ、それぞれで意志決定をしています。
組織が大きく変化するなかで、自分がハードシングスと向き合ううえで大切にしていることがありました。「この困難を乗り切るのに、何にでも効く銀の弾丸はない。あるのは鉛の弾丸だけだ」(ベン ボロウィッツ著『 HARD THINGS』)という言葉です。今日は私が必死に撃ってきた大量の「鉛の弾丸」を紹介できればと思います。
一つ目は「阿吽の呼吸の組織に新入社員が溶け込む」です。1年以上新入社員がいなかった中での入社。仕事に慣れることへの難易度は高く、新メンバーが定着しにくい状態でした。
撃った鉛の弾丸は、一人のメンバーとして早くなれるために「とにかく早く、何度もフィードバックをもらう」を意識し、開発タスクの数をこなすこと。また商談動画などが残っているので、見ながらプロダクトの背景を理解するように努めました。
新入社員目線で開発ポータルを整理したり、既存メンバーが知っているが言語化されていないことをドキュメント化したりすることで、このハードシングスは乗り越えました。
二つ目は「入社3ヶ月後までに一人でプロダクトを回せるようになる」ことです。開発メンバーが3名から自分1名になることが分かり、一人でプロダクトを回せるようになるしかない状態でした。
そこで自分はTechLeadからフィードバックを何度も受けながら、ドメインをひたすら言語化・見える化しモデル図を作成。開発時間を増やすために、運用を安定化させようとも考えました。バグの調査用ログを仕込んで地道に潰すなど行った結果、なんとか乗り越えました。一人で運用しつつ、機能追加も一定できるようになっています。
三つ目は「プロダクトをCTOから完全に独立させ、チーム化する」ことです。そうしなければ、組織がスケールしないということが見えてきました。
当時は「NoじゃなきゃGo」の精神で、一次意思決定は全てPdMと自分で行いました。また開発チームが1名から4名に急増したので、現在のアーキテクチャや今後の指針などをドキュメント化しメンバーが困ったときに参照できる先をつくったり、自分もメンバーに権限移譲したりするようになりました。結果CTOからチームへ完全に権限移譲が完了し、独立したチームとして開発スピードも出るようになりました。CTOも無事に2つのプロダクトをリリースできました。
自分のやり方が正解だったかは分かりませんし、行ったアクションはどれも「鉛の弾丸」に過ぎません。でも撃ち続けることで、プロダクトや組織のグロースを支えていけると思っています。今後は各チームが連動し、最大価値を届け続ける組織を目指していこうと考えているので、ハードシングスはまだあるだろうと思っています。(LayerXの登壇資料はこちら)
続く後編では、組織編・顧客編と分けて、プロダクトの高速グロースを実現するうえで直面したハードシングスについてのトークセッションを行いました。互いのハードシングスを知ったうえで、気になる点を登壇者同士が質問し合っていた様子は次回の記事でレポートします。
また登壇した各社は現在採用強化中です!興味を持った方は各社のサイトからご連絡ください!想いを持った仲間が増えることを、各社楽しみにしています。
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