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アンティークブックの世界 | ヒース・ロビンソンが手掛けた『十二夜』

今回は、20世紀英国の挿絵画家ヒース・ロビンソンが手掛けた『十二夜』を紹介する。本作はシェイクスピアによる劇作品で、最初の上演は1602年2月2日と記録されている。イリリアと呼ばれる海岸沿いの都市で繰り広げられる、4人の男女の恋を描いたラブストーリーである。それでは早速、ヒース・ロビンソンの挿絵の世界を観ていこう。画像はクリックすると、拡大して閲覧できるようになっている。限りなく現品の繊細さと色味を再現するため、キャリブレーションと画像処理ソフトを用いたレタッチを行なった。

オリジナルのペーパーカバーが残った稀少な保存状態。大抵の場合、100年以上前の古書であることから、脆いペーパーカバーが既に紛失しており、クロスの表紙が剥き出しの状態になっている。

カバーを外したグリーンクロスの表紙。箔押しが施されている。

誕生にプレゼントとしてこの本が手渡されたことがインクで示されている。当時のイギリスでは、プレゼントにこうした豪華本を渡す風習があった。

シェイクスピア『十二夜』1908年初版。ヒース・ロビンソンによって挿絵が手掛けられた、英国挿絵黄金期の代表作。当時のペーパーカバーが残った稀少な状態で、カバーを外すとグリーンクロスの箔押し表紙が見られる。少女ヴァイオラが身を隠すために男装したことから始まる名作ラブストーリーである。

少女ヴァイオラは嵐による船の難破で、兄セバスチャンと離れ離れになってしまう。運良く海に打ち上げられたヴァイオラは、身を守るために男装した後、シザーリオと名乗って漂流地イリリアのオーシーノ公爵に侍従として仕える。そして、男装したヴァイオラは公爵に密かな恋心を寄せるようになっていく。

だが、公爵は伯爵令嬢オリヴィアに恋しており、彼はヴァイオラにそのことを打ち明ける。ヴァイオラは公爵の好意がオリヴィアにあることを知って悲しみに暮れるが、公爵の命令通りオリヴィアに公爵の気持ちを伝えにいく。だが、オリヴィアの答えはノー。ヴァイオラは公爵の失恋に自身の気持ちを重ねた。

一方、ヴァイオラの兄セバスチャンも運良くアントニオ船長に救出されていた。その後、セバスチャンもアントニオと共にイリリアに赴き、この地で兄妹は再会を果たす。それから、ヴァイオラ、セバスチャン、オーシーノ、オリヴィアの4人の恋物語が展開され、最終的にはここから2組のカップルが誕生する。というあらすじである。物語の簡単な流れを頭に入れた上、以下、本書の挿絵の一部を観ていこう。

ペーパーカバーの表紙に採用されている挿絵。

個人的にこの作品の中で最も好きな挿絵。道化を描いた場面である。道化は伯爵家に仕える者で、名をフェステという。

ヒース・ロビンソンは、ロビンソン三兄弟の次男で兄弟の中では彼が最も人気があった。父は版画職人であり、三兄弟とも挿絵画家の世界に進んだ。ヒース・ロビンソンは、当時の英国挿絵画家の中でも一際仕事が早い画家だった。そのため、膨大な数の作品が残されており、彼の作品の収集は困難を極める。だが、作品が多い分、ヴァラエティにも富んでおり、収集・鑑賞の楽しみも多い。

以上、至極簡単にだが、ヒース・ロビンソンと『十二夜』について紹介した。ヒース・ロビンソンは国内ではまだまだマイナーな挿絵画家であり、ほとんど知られていないと言っても良い。彼に関する邦文の書籍がほとんどないことがその原因にひとつとして挙げられると思うが、これを気に少しでも興味を持ってもらえれば、筆者として幸いに尽きる。

挿絵の掲載に至っては、筆者私物の初版を自身で撮影し利用した。ヒース・ロビンソンについては著作権が切れているため、自身が撮影したものであれば、画像の使用が許されている。



Shelk🦋

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