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マークの大冒険 百年戦争編 | シャルル7世との密会



ジャンヌ・ダルクとリッシュモン率いるフランス軍は、その目覚ましい快進撃によりパテーの戦いで大勝利を収めた。その後も彼らは連戦を重ね、ついにランスへの道も開かれる。ジャンヌ・ダルク一行はランスまで進み、王太子シャルルはランス・ノートルダム大聖堂で念願の戴冠式を果たした。そんな喜ばしい出来事から、ほどなくしてのことだった。



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「これからは外交で穏便にことを済ませたい。それなのにジャンヌは攻撃一択で、こちらの立場が全く分かっていない。戴冠式までは良かったが、これ以上の勝手は正直迷惑だ。彼女の身勝手な行動で、これまで地道に積み上げてきた交渉が全て白紙になる危険性もある」

シャルル7世は、部屋の中を行ったり来たりしながら、落ち着かない感じで言った。

「そうだね。北部とボルドーの完全奪還が理想だが、互いにちょうどいい落としどころ見つけた妥協案が得策かもしれない。向こうも、きっとそれを望んでいる。結局、イングランドもフランスも元を辿れば、家族なのだから」

マークは落ち着きないシャルル7世を目で追いながら言った。

戴冠式
伝統的にフランス国王の戴冠式は、フランス北部に位置する都市ランスのランス・ノートルダム大聖堂で行われた。この地で戴冠式を挙げない限り、王太子シャルルは国王として認められないわけである。パテーの戦いでのフランス軍の大勝利により、ランスでの戴冠式は無事果たされた。ジャンヌ・ダルクは王太子シャルルの傍らで軍旗を持ちながら戴冠式に参加した。この時、ジャンヌの父ジャック・ダルクと母イザベル・ロメも式に招かれた。だが、ジャンヌらと共に戦って功績を残したリッシュモン大元帥はこの時まだ王太子シャルルから過去の行いを許されておらず、式への出席も許されなかった。ジャンヌの死後、最終的に二人は和解を果たし、後にこのコンビが百年戦争を終結させることになる。

フランス北部
百年戦争の時代、フランス北部はイングランドの支配下にあった。王太子シャルルは、フランス南部の都市シノンに身を潜めていた。伝統的に王の戴冠式が行われるランスはフランス北部に位置し、王太子シャルルは戴冠できずにいた。北部には首都パリも含まれており、フランスはイングランドによって消滅の手前まで来ていた。

ボルドー
フランス西部の対岸都市。ワインの生産地として有名。長らくイングランドの支配に置かれてきた地域で、イングランド支持者のフランス人も多い都市。そのため、奪還が最も困難な都市だった。北部の完全奪還後も、ボルドーの奪還には難航した。アルマニャック派のフランス軍は、大元帥リッシュモンと勝利王シャルル7世のコンビで何とかこの地を取り返した。だが、ボルドー住民にはイングランドによる支配を望む者も多く、再びイングランドに占領された。その後、再度フランスがボルドーの奪還を果たし、イングランド勢力を完全制圧。1453年に百年戦争がついに終結した。ちなみにだが、1453年はオスマン帝国にビザンツ帝国が滅ぼされた年でもある。よってこの年を中世の終わり、近世の始まりと分類する学者もいる。



「ああ、だから兵も物資も充分に与えず、ジャンヌをパリに向かわせるつもりだ。そこで心折れてくれたらいいが。心苦しいが、それが彼女のためでもあると思う。現実を知って、できれば故郷に帰ってもらいたい。そこで相談なんだが、キミをジャンヌの見張り役として派遣したい。協力してくれるかい?もちろん、報酬は約束する」

「ああ、もちろんだ。引き受けよう」

「マーク、頼んだ。ジャンヌの暴走を止めてくれ」

「分かった。どんな方法であれ、一日でも早くこの戦争を終わらせよう。たとえ弱腰の外交政策と言われても、国民の命がひとつでも救えるなら、それが王の定めなんじゃないか?王の責務は国民を守り、国を継続させることにある」

「そうだ。ジャンヌにも、それを理解して欲しい。相手の立場になって考えてほしいんだ。だというのに、神のお告げの一点張りで、私の話に耳を傾けようとしない」

「お告げねぇ。でも実際の彼女は、自分が見たいものを見ているだけだよ」

「ああ、全くの同感だ。マーク、前金として報酬を少し先に渡しておこう」

シャルル7世はそう言って、マークの手のひらに数枚の金貨を差し出した。

「キミが言っていた状態の良い金貨を選んだ」

「助かるぜ。打たれた当時は、こんなにも綺麗だったんだな。最高鑑定も狙えるかもしれない。これできっと救われる人がたくさんいる」

最高鑑定
コイン業界の専門用語。鑑定会社に提出された同銘柄のコインの中で、最も状態が優れた個体を指す。70段階のシェルドンスケールによって状態のレベルが格付けされ、状態が良いものはオークション等で高額で取引される。中でも最高鑑定品はその状態の良さとネームヴァリューから特別視され、コレクターからも投資家からも非常に好まれる傾向にある。


「なら良かった。それで、キミはこの戦いが終わったら、どうするつもりなんだ?」

「国に帰るさ。やるべきことがある」

「そうか。でも、もし気が変わったら、その時は歓迎しよう。キミのポジションは用意している。実は今、常備軍の新設に向けて動いている。常備軍こそ、強さの秘訣。外交で戦争はなるべく避けても、抑止力としての軍は必要だ」

「かつてのローマ帝国の強さの秘訣は、常備軍にあった。臨時徴収じゃ、集まる兵士のレベルもそれなりってことさ。常設の職業軍人は、命令もよく利くし、訓練されていて戦闘力も高い。とはいえ、ローマは常備軍の維持費がネックになって、最期は崩れていったから、その扱いは容易くはない」

「分かった。それは考慮しておこう。礼を言う。我々は常備軍を新設した上で、武器や装備の統一化も図りたいと思っている。砲台をもっと生産して、砲隊を新設したい。そして、砲台の形状や弾の大きさを揃える。城壁の突破に砲台は欠かせないからね。砲台については、ビューロー兄弟に任せている。彼らなら、必ず私の期待に応えてくれるだろう。だが、その実現には税制改革が必要だ。国民から税金を今以上に取るには、彼らを納得させるだけの理由がいる。そしてそれには、三部会を開く必要がある。一筋縄では行かないが、常備軍の新設と税制改革こそがフランスが生き延びる道」

「間違いないね」

「オルレアンの奪還とパテーでの奇襲攻撃に対するキミの臨機応変な対応を私たちは高く評価している。だからキミさえ良ければ、軍師としてぜひ迎え入れたいと思っている」


三部会
第一身分(聖職者)、第二身分(貴族)、第三身分(平民)の3つの身分の代表者が国家の命運を決める重要事項について議論・議決する会議。1302年に初めて開かれたが、よほどのことがなければ開かれず、絶対王政が開始されてからは事実上消滅状態にもあった。だが、ルイ16世の治世に第一身分からの徴税を巡って開かれたことは有名である。

オルレアン
フランス中部の都市。イングランド軍が狙っていたが、強靭な城壁に囲まれた都市で制圧には難航していた。そのため、イングランド軍は兵糧攻め作戦に出た。都市の周囲をイングランド軍の砦に囲まれたオルレアンは、時間の問題で陥落するところまで来ていた。そんな窮地の中、ジャンヌ・ダルクが登場し、オルレアンを包囲するイングランド軍の砦を全て制圧し、奪還を果たした。

ビューロー兄弟
兄ガスパール・ビューローは発明家で、大砲製作と弾道計算の天才だった。弟ジャン・ビューローは大砲の扱いに加え、会計士としても天才的な腕前を持っていた。二人は大砲の口径を始めとした規格を統一することで、武器としての大砲、軍隊として砲隊を洗練した。彼らによる大砲用の車輪の開発も、戦闘における大砲の移動スピードと自由度を飛躍的に向上させた。ちなみに弟ジャンの方は乱射狂で、大砲を連発することに異様な快楽を抱く性格だったという。この狂った大砲の天才にイングランド軍は、恐れおののいた。ビューロー兄弟によって洗練された大砲部隊はカスティヨンの戦いで実力を発揮し、イングランドに圧勝した。当時の騎士たちは伝統的な武器である剣で戦うことにプライドを持っており、大砲などの新兵器を嫌う傾向にあった。シャルル7世の軍隊は、剣に拘らず、積極的に新兵器を導入したことが勝利への要因となった。


「それは嬉しい誘いだね。帰れなくなった時は、マジでお願いするかもしれない。まあ、ボクは性格的に戦いには向いてないけどね」


To Be Continued...


ヴァロワ王家紋章を描いたエキュドール金貨
シャルル6世の治世 モンペリエ造幣所




Shelk 🦋

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