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職人大集合!!/小さな山の中で家具職人をしている若者の話[15]

前回の話↑

プチストライキの話↑

シショーの話↑



年始早々死にかけた私は、『もうこんな会社辞めてやる!!』と思った。

でもあと一年、あと一年だけ頑張ろう。

ここで吸収できるもの全て盗んで次のステージに進もう。
そう決意した。


心身共に疲れ切っていたけど、仕事は待ってくれず、次の納品が控えていた。

私は仕事の途中でプチストライキをしたので少しだけ回復していたけど、今度はシショーが倒れた。

元々二人で回すにはしんどいスケジュールだった。(いつもそうだけれど)一人抜けると全然間に合わなくなってしまう。


あと一年と決めた私は少しだけ強気になっていて、プチストライキを申し訳なく思っていたので、シショーがいない間必死に働いた。

それでもやっぱり、迫り来る納品日と残っている仕事量は全然採算が合わなかった。



…さすがにこれは間に合わない。



シショーと緊急会議だ!!



今回の仕事は外注先を見つけるというよりも、とにかく人手が欲しかった。

だから最悪素人でも良い、とにかく人を集めよう!ということになった。


仕事仲間、友達、さらにその友達
ありとあらゆる手段を使って連絡しまくった。


明日からでも来て欲しい!

なんて、そんなに都合よく空いている人は滅多にいないが、それでもシショーの職人仲間二人と私の職人仲間二人、仕事でよくお世話になってる職人さんが一人、そして学生が一人バイトとして来てくれることになった。


学生以外は皆んな他に自分の仕事があるので、その合間を縫って、夕方から0時まで、とか休日だけとか、そんな感じでみんながちょっとずつ助けてくれた。



人の温かさに涙が出そうだった。

本当に本当に感謝でいっぱい。


こんな風に助けてもらえるのも、日頃のシショーの人望のおかげである。


みんなが温かい言葉をかけてくれて、励ましてくれて、たくさん助けてくれて、何より賑やかだったのが救いだった。


活気があると、疲れも感じにくいし、ネガティブな気持ちも持ちにくい。
とりあえず、目の前のゴールに向かって走り続けることができる。


それに仕事を頼んでおいて、私が挫けるわけにはいかなかったし、そういう気持ちもあって最後まで頑張ることができた。




だけど同時に情けなさが押し寄せてきた。
とても不甲斐なかった。


夜はまだまだ冷え込む工場の環境も悪い中、みんなに夜中まで手伝わせて、しんどい思いさせて、


十分な労いも出来ない。


だっせえの。


いつもそうだ、私はこの一年ずっと悔しくてずっとすっきりしない。

この前ふと気づいたことがある。

何がこんなに辛いのってずっと考えてた。


きっと私、プライドがボロボロになったんだ。


みんなを幸せにしたいって思って仕事してるのに、満足してないものばかり世に出して、儲かりもしない。

何のために頑張ったのってずっと悔しかったんだ。



負けず嫌いでプライドが高いこんな性格じゃ

上にはいけないかもしれないけど、

もっと賢く生きる方法は沢山あるはずだけど、


もうちょっと自分を信じてみたいの。


もっと計画的に、もっと現実的に、仕事を受けられれば良かった。

でも中々上手くはいかない。


私の会社はシショーを含むスタートメンバーの3人が大学卒業後に立ち上げたもので、
その頃はまだ会社ではなく個人の集まりとして仕事をしていた。

私が加入する少し前に会社となったので、普通の会社に比べると雇用体制はまだまだ整っていない。


仕事内容も他の家具屋とは違ってて、それが魅力であり、ブラックである理由だ。


だからみんなずっと大変な思いをしてきて、がむしゃらに仕事を続けてきた。
食えなかった時期もある。
貧乏性みたいなところがある。
無理を承知で仕事を受けてしまう。
逆に言えばそうやって来たからこその、今の地位であると言える。


その気持ちはわかっている。


つもりだったな。


私はみんなと同じように、私の人生をこの会社に捧げることができない。
人生を捧げるならば、私の夢に向かってもっと自分が主体でやりたいようにやるだろう。


春が近づき、年度が変わる。


『シショー!私、今年度はもう働きません!』


若造、突然の働かない宣言。



シショーは驚いた顔をして
「えっ辞めるの?!」
と言ってた。



私は冗談混じりに


『いやあ〜もう無理のない程度でしか働きません〜』


そう答えた。


シショーにはわかって欲しかった。
私に限界が近づいてることも、このまま何も変わらないなら続けられないってことも。


できないでもなく、やりたくないでもなく、やらないって言ったことを。


私が自分から変えていければ良かったけど、
そうやってこの会社を良くしていく努力ができれば良かったけど、
そこまでの労力をかける価値を見出せなかったんだ。


良くしていこうと思った時期もあった。
でも結局それは自分が働きやすくする為だから。



だから真剣に相談もしたくなかった。


終わりが見えてたから。
長くても、あと一年しかここにはいられないから。


別に会社に変わってほしいんじゃない。
休みを増やす、給料を上げるって言われたって、私の心はもう燃えてこない。
そもそもそれが大事なら、ここで働こうなんて思ってない。

もっと楽しさや、誇らしさや、頑張った先にある喜びがほしい。

だからこれまでなんだ。


私の心が、そう言ってる。


だけどちゃんと言っておきたいのは、決して後悔はしていないということ。

別に会社も恨んでないし、みんなのことも好き。
毎日が修羅場の連続だったけれど、楽しかったから、ここまでやってこれた。


楽しいから、悔しいのよ。
伝わるかな(笑)


今でもここに来て良かったと思ってる。
この街も好きだし、この山も好き。


何よりもここで得た経験は私にとって大きな力となっている。


私の過去も今も未来も、ポジティブな気持ちで進んでいきたい。


続く

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