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【短編小説】湖を含有する、町で。

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短編小説。 季節は夏の名残がまだ残る初秋。 美しい湖を見渡せる神社でわたしは不思議な生き物をみた。 どうやらこの生き物はわたしにしか見えないらしい。 彼女たちとの交流の中、わたし…
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【短編小説】湖を含有する、町で

【短編小説】湖を含有する、町で

その生き物の腕はとても長く、細く伸びていた。
もう片方の生き物は、脚がとても長く、細く伸びていた。

爽やかな秋の風が吹く湖で、脚の長いほうが、腕の長いほうを背負って、なにかを取っているようだ。貝か魚だろうか。
夏の名残の太陽が湖を照らし、時折、湖面をキラキラと輝かせた。

わたしは湖を見下ろせる神社の階段に座り、古びた双眼鏡を使ってその様子をずっと見ていた。
神社の境内にも湖からの心地よい風が届

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湖を含有する、町で。第1話

湖を含有する、町で。第1話

その生き物の腕はとても長く、細く伸びていた。
もう片方の生き物は、脚がとても長く、細く伸びていた。

爽やかな秋の風が吹く湖で、脚の長いほうが、腕の長いほうを背負って、なにかを取っているようだ。貝か魚だろうか。夏の名残の太陽が湖を照らし、時折、湖面をキラキラと輝かせた。

わたしは湖を見下ろせる神社の階段に座り、古びた双眼鏡を使って、その様子をずっと見ていた。
神社の境内にも湖からの心地よい風が届

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湖を含有する、町で。第2話

湖を含有する、町で。第2話

<前回までのお話>
季節は夏の名残がまだ残る初秋。
美しい湖を見渡せる神社でわたしは不思議な生き物をみた。
どうやらこの生き物はわたしにしか見えないらしい。
彼女はわたしを家に来ないか?と誘う。
躊躇するわたしだが、あまりに嬉しそうな彼女の誘いを断れず付いて行った先は。

<第2話>

「いや、それは駄目ですよ、わたし怒られますよ、あそこに住んでる人に」
と社務所のほうを指さした。
「そうですか、

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湖を含有する、町で。第3話

湖を含有する、町で。第3話

<前回までのお話>
季節は夏の名残がまだ残る初秋。
美しい湖を見渡せる神社でわたしは不思議な生き物をみた。
どうやらこの生き物はわたしにしか見えないらしい。
家に来ないか?というあまりに嬉しそうな彼女の誘いを断れず、付いて行った先に居たのは、彼女の夫であるという、これまた不思議な生き物であった。

<第3話>

夫君との挨拶もそこそこに、本殿の中に案内されると、
獲ってきたらしい貝をバターで蒸し、

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湖を含有する、町で。第4話(最終話)

湖を含有する、町で。第4話(最終話)

<前回までのお話>
季節は夏の名残がまだ残る初秋。
美しい湖を見渡せる神社でわたしは不思議な生き物をみた。
どうやらこの生き物はわたしにしか見えないらしい。
彼女に誘われ行った先に居たのは、彼女の夫であるという、これまた不思議な生き物であった。
二人に饗応された翌日、神社にもう一度向い宮司に話を聞いたわたしは”観光”の本当の意味を知った。

<第4話(最終話)>

”観光”とは何なのか?その問いを

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