【短編小説】失われた愛を待っています
「失われた愛を待っています」
手紙にはそう書いてあった。
私は失われた愛を待っているので、あなたと先に進むことはできないのだ、と。
手紙を読みながら、彼女の周りを重たく生ぬるい鉛色の水が包み込んでいるような、そんな光景が浮かんだ。
僕は海が見えるお気に入りの喫茶店の窓辺の席にいる。
店内は、ショパンのノクターン第一番変ロ長調がかかっている。
待ち合わせだろうか、見たことのない女性客が本を読んでいる。どこか楽しげに見えるのは、好きな人でも待っているからだろうか。
店のドアチャ