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2022年10月の記事一覧
【加筆・修正ver】杉藤 俊雄 は××したい_76_30代編 06
時刻は20時前後。
はーい、という声とともに、ガラガラとガラスの引き戸が開けられた。声の主が現れる前に、僕の鼻に飛び込んできた匂いは、揚げ物の油の匂いがして胸やけに近い不快感が体中でわだかまる。
すっと息を吸って一点集中。顔を崩さないように、ぎりぎりのラインを見極めて匂いを分析して細分化して、必要な記憶と情報のみを取得する。
ガラス戸から現れた中年の女性――名前は、須藤 愛。一応、何度
【加筆・修正ver】杉藤 俊雄 は××したい_77_30代編 07
「それでよかったの?」
暗闇の中でのっそりと現れたのは現在の僕だ。
思い出の中で沈んでいる意識の中で、各年代の僕がパイプ椅子に座って30代の僕をじっと見つめている。
それはいつものこと。いつもの反省会。
語りべとなった年代順に割り振られて、自分自身の傷口を広げながら回顧する。痛みは僕の正気を為つための薬だ。生きるためには必要なルーティンであり、夢と記憶と年代とを紐解くことで僕は客観的に
【加筆・修正ver】杉藤 俊雄 は××したい_78_30代編 08
知っている。知らない。その差は大きい。
知らない人間が真由の顔をみたら、彼女のつんっと上を向いた鼻を見て、愛らしいとも、気品があるとも、お高くとまっているとも見てとれる。
あの鼻が、醜くひしゃげた豚鼻の名残だと知らないからこそ好意的に、そして悪気なく捉えることが出来る。
そう考えると、彼女の整形手術に携わったスタッフたちの美的感覚は一流だ。ただの無個性な美しさではなく、チャームポイントを付
【加筆・修正ver】杉藤 俊雄 は××したい_79_30代編 09
この子はダメだ。
「ねぇ、僕たち別れよう! そうしようっ! 一億出すから、お願い! 僕と別れて! 出来れば君の方から僕を振ったことにして!」
「はぁっ。ちょっとなに言っているのよ」
「一億じゃ不満? 十億がいい? がんばって百億あげるよ。だから、お願いだから、もう消えてっ! 僕をきれいな被害者にしてよ」
これ以上、僕のメッキをはがさないでくれ。この安らかな暗闇から引きずり出さないでくれ。
【加筆・修正ver】杉藤 俊雄 は××したい_80_30代編 10
世界が歪む。
「杉藤君」
「俊雄君」
二人の女が暗闇の向こうから僕の名を呼んでいる。
一人は悲しげに、もう一人は嘲るように。
幾重にも何重にも塗り重ねてきた、鮮やかな油絵のような嘘の記憶。僕の心を守るために造られた、美しくも醜い世界。
そんな都合の良い現実を許さないのが、杉藤の血が僕に発現させた絶対的な記憶力。
夢は現実に起こったことを整理する場所だから、僕が思い込んで塗り重ねた