この1杯の価値を

どうせ終わる恋だ
精一杯愛してやろうと思った

ひねくれた真っ直ぐなこの感情は
いつも私を苦しめた

割り切らなければと
自分の中で割り切って

いつしか真正面から信じてやる事が出来なくなっていた

熱を出した
酷い熱だ

熱さと気だるさで頭がどうにかなりそうだ

一通のメール
そこには過去に愛した男だった

手に負えない程、全てがどうにでもなれと思う程
忙しすぎる感情を一つ一つ整理し

行き着いた答えが
この人から得られる安心感の獲得だった

しかし彼は、私の求めていた事には答えてくれなかった
ある意味私は、都合のいい女だ、強欲だと思った

私たち人間は言葉遊びが大好きだ
好きなのに嫌いだとか
興味もないのに好きだと言ってみたり

私たちはまるで中身のない会話を繰り返し
また今日も不足した愛を補っていく

私がこのネオン街に身を染めたのはその頃だった

グラスに滴った水滴を丁寧に拭き取る
ただそれだけの作業さえ億劫だ

眼鏡をかけた真面目そうなサラリーマンが私にこう言った

「君は何故、この仕事を？」

そんなの私にだって分からない
お金のため、スキルアップのため、みんな色々考えながら仕事をしている

もしかしたら私は、不足した愛を補う為に働いてるのかもしれない

こんな所で
愛なんて転がってる訳ないのに

すると男性は何か言いづらそうに言葉を続けた

恋や愛ってさ
与えられるものだと思う？

最初は言ってる意味がわからなかった私は
口ごもってしまった

すると男性は1本のタバコを吹かしたあとこう言った

僕ね、捨て子だったんだ。2歳の頃、里親が僕を拾ってくれた
それから僕は何不自由なく愛を受け続けてた
毎日が幸せだったんだ

しかし高校三年生の頃、父が他界した。
原因は車での事故だった
それからというもの、あんなに優しかった母親は一変して自暴自棄になって自殺しちゃったんだ

酷い話だろ？
でも僕ももう高校三年生だったから自分のことは人通りできたし、就職もできて今がある

でも就職してからというもの、上手くいかないことばっかりでさ、若いから上の人からのパワハラや愛のない言動
僕も鬱になりかけたよ

でもある日、素敵な女性に出会えたんだ。
その人は笑顔が素敵で、行動や言動に愛が満ち溢れていた
彼女は落ち込んでいた僕に手を差し伸べてくれた。

それから僕はその会社を辞めて、新しい会社で上手いことやっていけてる

これまでの経験が
与えられる愛ばかりの僕が

彼女みたいになりたいと
僕も愛を与えられる人間になろうと
そう決意できた

それが今の奥さん。これ、仕事の付き合いで連れてこられてるだけだから内緒にしてね？

その人は気まづそうにそう言った

私はひとつ、成長できたかもしれない
この正解には様々な形の愛がある

人は愛に助けられている

それを気づけただけで成長かなとそう思えた

また私は
ネオンに光るこの街を歩く

もっと様々な愛を知るために

そして、分け与えられる人になるように

そのために私は言葉を使う

また愛を与えて貰えるように

この1杯に、その価値を見いだせるように