のび太は世界にただ一匹!/絶滅動物を救え③
「絶滅生物を救え」と題して、全くアプローチの異なる2作を検証してきた。「ドラえもん」の『モアよドードーよ永遠に』と、読切短編の『絶滅の島』である。
それぞれの記事は以下。
この2作を続けて読むことで、絶滅に追いやる側と、絶滅に追いやられる側の両面から描いた表裏一体の物語を堪能できる。(しかもこの2作はほぼ同時期に描かれている)
それは、藤子F先生の児童漫画家としての顔と、大人向けSF作家のそれとの、二つの顔を交互に覗き込むような意味合いを持つ。
そんなF先生の深淵に触れたところで、もう一本の「絶滅」作品を見ていきたい。これは、何とも力の抜けた作品ではある。だが、種を絶滅させてしまう人間への批判精神は、しっかりと感じ取ることができる。
「ドラえもん」『のび太は世界にただ一匹』
「小学四年生」1981年3月号/大全集10巻
冒頭、のび太がトキを捕まえたという新聞記事を読んで、「なんで捕まえたりするのか」という疑問を持つところから始まる。ドラえもんは「放っておけば絶滅してしまうからだ」と答える。
ここで一応トキのことを確認しておくと、学名がニッポニアニッポン。日本や朝鮮半島、中国内陸などに生息していた、赤い顔が特徴的な鳥である。既に1920年代頃には個体数が激減しており、絶滅の危機に瀕していた。
その後、朝鮮半島や中国で姿を消し、本作が描かれた時点では、新潟県佐渡島での5羽が、世界最後のトキとなってしまっていた。本作にあるように、この5羽は人間によって捕獲され、「野生絶滅種」(現在のレッドリストの上から2番目)となった。
その後、本作が掲載されたあたりで、一度は絶滅したと思われた中国大陸で野生のトキが再発見される。そして、この後何年もかけて、日中共同によるトキの再繁殖が行われることになる。
日本産のトキは絶滅してしまったが、中国のトキを借りるなどして、人工繁殖や放鳥などに成功し、今では佐渡島の野生下での繁殖も確認できている。これにより、トキは「レッドリスト」では上から4番目の「絶滅危惧IA類」に分類されることになった。
藤子先生も危惧したトキの絶滅は、何とか避けられたのである。
本作に戻ると、のび太はドラえもんから、最後の5羽と聞いて、「それは大事にしなくては」と驚く。ドラえもんは真剣な表情で、
「そうなんだ。もっと前から気をつけていれば、ドードー鳥やニホンオオカミも絶滅しなくてもすんだんだ」
と強く語る。
当然、このセリフは、藤子F先生の心の叫びに他ならない。人間の都合で、種を次々と絶滅させてしまったことを嘆くとともに、今後はこのような事態を避けなければならないという、思いの詰まったセリフである。
そんなドラえもんが取り出した道具は、「国際保護動物スプレー」。珍しい動物を見つけたら、このスプレーをかけることで、体に国際保護ガスが染みついて、敵に襲われなくなるというもの。
国際保護に値する動物を個人レベルで見つけるのは難しいとは思われるが、まあ便利な道具に違いない。のび太は面白がって借りていくが、道具を出したドラえもんにも「滅多に珍しい動物はいないよ」、とたしなめられる。
のび太が外に出ると、飼い犬を棒で殴っている少年に出くわす。「珍しくはないけど保護しなくて」は、とスプレーを犬にかけると、飼い主は「これからは大事にする」と言って、手厚く犬を抱いて帰っていく。
続けて捨てられた子猫にもスプレーをかけて助けてあげる。ところが、汚い感じの野良犬を無視して通り過ぎると、ムカっとされて噛みつかれてしまう。動物でもえこひいきはわかるのである。。
のび太は、その後ジャイアン・スネ夫に人間ボーリングだと言って、ボールを足もとに転がして、転ばされるというゲームの標的にされる。逃げ回っていると、今度は先生に見つかって、「成績が悪いのにフラフラして・・」と叱られる。
のび太は、「どうしてトキばっかり大事にして僕は大事にされないのだ」と嘆く。
「世界中にトキは5羽。野比のび太はボク一人。もし僕がいなくなったら、僕は絶滅するんだ!!」
ということで、自分を保護しなくては、とスプレーを自らに掛ける。
すると、「お前はボウリングのピンだ」と襲い掛かってくるジャイアン・スネ夫が、急に態度を変えて、「大丈夫か、ケガはないか、一人で帰れるか」と労ってくる。
いい気分になったのび太は、そのまましずちゃんの家に遊びに行くと、「あらっのび太さん!」と、しずちゃんは喜んで迎え入れてくれる。そして、「世界で一人ののび太が珍しい」と言って、ジロジロと見つめてくる。
そうしていると、のび太のお腹がグーと鳴る。それを聞いたしずちゃんは、ママに対して、
「お腹を空かせて絶滅したら大変。何かエサをあげて」
と、完全にのび太を絶滅寸前の動物扱いする。
たっぷりおやつをいただき、大事にされるのは良いものだと思って外へ出ると、町中から「本物ののび太だ」と注目を浴びて、人が大勢集まってくる。
「あれが世界で一匹ののび太よ、よく見ておきなさい」
と、ここでも完全に野生の保護動物として、好奇な目で見られるのび太。
さらに保護動物化がエスカレートし、のび太は中年のオヤジに網を被せられて「こういう珍しい動物を飼いたい」と、「不法狩猟」される。狩猟者は警察に捕まって、なんとか家へと逃げ戻るが、家の周りを見物人がとぐろを巻く事態に発展する。
「何とかしてえ」とのび太はドラえもんを頼るが、「保護を取り消す薬はなかったなあ」と、いつものように投げっぱなしジャーマンのような結末を迎えるのだった。
人間ではなく、のび太を絶滅危惧種にするというナンセンスなお話で、終わり方も事態を収束させずに未解決のままという、ドラえもんによくあるパターンとなっている。
しかし、ドラえもんのセリフを借りて、絶滅危惧種への思いを語っている点、厳しいドラえもんの表情に人間への強い批判精神を表現している点に、しっかりと注目してもらいたい一作なのである。
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