千面相の変装グッズ再び・・!『パーマン大ピンチ』/怪人千面相関連作③

長らく続けてきた「怪人千面相」についての記事はようやく今回で最終回。「新パーマン」での登場話3本と、「パーマン」以外の藤子作品に「怪人五十面相」として登場している作品2本を紹介した。

せっかくなので、全てここにリンクを貼っておくので、もし未読あれば飛んでみて下さい・・。


本稿では再び「パーマン」に戻ってくるのだが、今回は『ひったくり犯にワナをかけろ』(84年1月)の続編的作品となる。ただし、「怪人千面相関連作」という枠組みにしたのは、本作は千面相本人が登場しないからである。

登場してないのに関連作?と思った方は、是非とも続けてお読みくださいませ。


『パーマン大ピンチ』
「小学三年生・小学四年生」1984年9月号/大全集8巻

なかなか物騒なタイトルだが、今回の敵は「爆発魔」を名乗る男。

ある日突然みつ夫の家へパーマン宛ての手紙が届く。もうこの世界では、須羽家がパーマンの受付窓口として、悪者連中には浸透しているのだ。

その文面は下記。

「パーマン 午後三時六角ビルの屋上へこい 爆発魔」

「たまには宿題を」と思っていたみつ夫だが、とても気になる内容なので、約束通りの場所へ飛んでいく。すると屋上には、サングラスを掛けた男が立っていて、「久しぶりだなパーマン」と話しかけてくる。


ところが、久しぶりと言われてもパーマンにとっては覚えない人間なので、「どなたでしたっけ」と質問すると、「何っ忘れた!?」とまるで信じられないという表情。

男曰く、三年前にパーマンのせいでピストル強盗をやりそこなって捕まったのだという。その逆恨みを果たそうというのである。

警察ものなどに良くある話だが、犯人からすれば自分を捕まえた人間に恨み骨髄なのだが、捕まえた側からすると、凡百の悪人の一人なので、まるで覚えていないのである。

ちなみに、この男が以前本当に「パーマン」に登場していたかもと思い、これまでの作品を読み返してみたが、それらしい人物は見当たらなかった。どうやら、マンガにもなっていないザコキャラであったようだ・・。


男は、来る日も来る日も恨みをどう晴らそうか考えてきたという。パーマンはそれを聞いて「へえ・・そんなこと考える暇に真面目に働いたどうですか」とグサリ痛いところを突く。

男は考え抜いた結果、パーマンに仕返しする方法を思いついたという。それは、パーマンからマスクとマントを取り上げ、パーマンは普通の少年になり、男は悪の世界のスーパースターになるというもの。

パーマンは呆れて返答にも窮し、その場を去ろうとするが、男は「待て」と言って、「無線起爆装置」なるものを手にする。おもむろにスイッチを押すと、近くのビルが大爆発を起こす。なんと、間抜けそうに見えたこの男は爆弾使いであった。


男はさらに言う。今壊したビルは取り壊し予定の空きビルで、爆弾はもう一カ所設置してある。場所は教えないが、大勢の人が集まっている場所だと。そして、「マスクとマントを渡さないと、大爆発を起こす」と脅してくるのである。

男のやり方は非常に卑劣だが、悪人側からすると理にかなった作戦である。特にパーマンのように道具に頼ったヒーローは、悪事をすることを盾に道具の引き換えを迫られてしまうと、対抗手段が限られてしまうのだ。

そんなわけで、パーマンは追い込まれ、その場からとりあえず逃走する。しかし逃げても事態は収まらない。空きビルが爆破されたことでマスコミも動き出し、六角ビルの屋上にいた男は、大々的にパーマンセットを要求し、叶わなければ大爆発させると喧伝する。

男は猶予は一時間で、一秒でも過ぎたら何万人もの犠牲者が出ると騒ぎ立てる。こういう事態こそ、ヒーローマンガで一番盛り上がる場面であるが、実際どのように解決をしたらよいのだろうか・・。


パーマンの窓口が須羽家であることは、悪人だけでなくマスコミや一般人にも知られているようで、この時から須羽家にはパーマンに何とかしろという電話がジャンジャン鳴りだし、マスコミも大勢駆けつけてくる。

ママやガン子にとってははた迷惑な話で、こんなことになるのでパーマンがママに嫌われてしまうのである。なお、ママのパーマン嫌い説は下記の記事にまとめているので、是非お楽しみください。。


みつ夫はたまらずパー子とブービーに助けを求めるが返事はない。居ても立っても居られなくなり、パーマンになって飛び立つが、そこへ頼れるバードマンが姿を見せる。

ところが、パーマンの指南役とも言えるバードマンは、「爆発はさせてはならない、犠牲者は出すな、マスクとマントも渡すな」と一方的に命じてくるのみ。その板挟みで困っているのに、「そこを何とかするのがパーマンの務めだろ」と突き放してくる。

そして、「君ならやれる」と一声かけてどこかへ飛んで行ってしまう。「無責任だ!!」と騒ぐパーマン。この場面を読んで、いるよね、こういう上司・・・と、大人になった自分は、強く思う次第・・。


ところで、なぜこのタイミングでバードマンが現われ、無茶なことを言って去ってしまうシーンが描かれたのか。物語上それほど必要なさそうなシーンに思われるのだが・・・。

これは、大ピンチになったパーマンに対して、読者の方から「バードマンに頼ればいいのでは?」と疑問を浮かぶのを、先んじて制止しているものと考えられる。パーマンたちの手で何とかピンチを脱しなくてはならない状況を強めるために、少々取っ手つけたようにバードマンを登場させたのであろう。


さて、ここでパー子とブービーも合流。今まで爆弾を探してくれていたようだが、探しきれなかったという。そこで取るべき道は一つと、パー子たちは言う。それは、マスクとマントをあげちゃえという、投げやりなアイディアであった。

果たして、パーマンが爆弾魔の前に現れる。報道陣がヘリコプターを飛ばして、二人の様子を中継している。「ついにパーマンがマスクを取る」と報じており、マスコミは犯人逮捕ではなく、パーマンの正体の方に気が向いているようである。

パーマンは、犯人の要求通り、マスクとマントをポイと投げ出す。「やりました!!これがパーマンの素顔です」と、どっちの味方か分からない報道陣が湧き立つ。ところが、マスクの下からは、みつ夫とは全く違う人間が姿を見せる。これはどういうことなのか・・・?


マスクとマントを着用した犯人。「実はもう爆弾はないのさ」と言って、ビルから飛び立とうとする。もう一個爆弾があるというのは、ブラフであったのだ。

ところがそこで、パーマンの正体とされた少年の顔が実はマスクであることが判明。パーマンマスクの上に、少年のゴムマスクを被っていたのである。さらにマントも服の下に着用している。

犯人が奪ったマスクとマントはコピーで作ったニセ物で、男は飛ぶことができずビルから落下してしまう。これで犯人は無事確保。

ここでパー子は言う。

「千面相のマスクをしまっておいてよかったわね」

パーマンが被っていたマスクは、本作の8ヵ月前に発表された『ひったくり犯にワナをかけろ』において、事件解決のために千面相から譲ってもらったマスクであったのだ。


怪人千面相は、マンガでは『ひったくり犯にワナをかけろ』が最後の登場であったのだが、その時残した変装グッズは、このようにもう一回使い回しされていたのである。

本作は「てんとう虫コミックス」に収録されていない作品だったが、その後、大学生になって藤子不二雄ランドで本作を読むことができた。少し得した気持ちになったことを思い出す、懐かしい作品である。



「パーマン」紹介・考察中。


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