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千面相、完全に良い人。『ひったくり犯にワナをかけろ』/新パーマンVS怪人千面相③
パーマンのライバル怪人千面相は、「怪人二十面相」のパロディキャラで、変装の名人という設定。主に装飾品や美術品を狙って、わざわざ犯行予告を出す目立ちたがり屋。
ところが、極悪人というわけではなく、『わがはいの脱獄』では、脱獄する日を予告し、警備が甘いと警戒を強めるよう要求してみたりする遊び心が見られる。
前稿で取り上げた『千面相とペカソ』では、美術品を愛するがあまり、その性格を利用したパーやんに最後は捕まってしまう。悪になり切れない様子が伺えた。
これまでの千面相に関する記事はこちら・・・。
本稿では、『千面相とペカソ』の翌月号に掲載された作品を取り上げる。二カ月連続での登場となるが、本作では脱獄はするものの、悪だくみは一切行わず、むしろパーマンの味方として行動する。
もはや悪人ではなく、良い人である。そんな千面相の善人エピソードを見ていきたい。
『ひったくり犯にワナをかけろ』
「てれびくん」1984年1月号/大全集7巻
物語は、千面相と全く関係ない事件から始まる。
最近町では、女性・子供・老人ばかりを狙ったひったくり事件が頻発。同一犯の仕業と見られ、パーマンたちも「これは卑怯で許せない」ということで、パトロール体制を強化する。
ただ、闇雲に町を周回しても埒が明かない。盛り場近くの人通りの少ない道を重点的に回り、ターゲットとなりそうな女の人や子供やお年寄りをこっそりつける作戦を取る。
パーマンは一人の初老の男性に目をつけるが、「お金を持っていそうに見えない」という理由で監視対象から外してしまう。一通り、パーマンたちが見て回ったが、引ったくり犯は見つからず、今日はもう出ないだろうということで、それぞれ帰宅する。
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ところがパーマンが家に帰ってテレビをつけると、後ろから付いてきた男に殴られて500万入りの封筒を奪われてしまう引ったくり事件が報道されている。しかも被害者の男性は、パーマンが見張るのを止めてしまった初老の男であった。
自分があの時帰らなければと酷く後悔するみつ夫。バカバカバカと自分を責め立てるパーマンだったが、ブービーとパー子が「過ぎたことは仕方がない」と慰めてくれる。落ち込んだ時に必要なのは、友なのだ。
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被害者の話を聞いて、何か手がかりを得ようと言うことで、先ほど500万を奪われた男性を探す。交番で尋ねると「仙珍居」というラーメン屋の亭主であるという。「仙珍居」は小さくて汚い店構えではあるが、ラーメンが大人気で有名人なんかも遠くから食べにくるという。
ちなみにパー子はその店を良く知っているようだが、パー子の中の人星野スミレも、芸能界で噂を聞いていたのだろうか。
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「仙珍居」の亭主に伺うと、奪われた500万が戻らなければ、お店を人手に渡すことになるという。何とか取り返して欲しいと懇願され、困ったところにあの男が突然姿を現す。それが怪人千面相である。
千面相は、久しぶりにここのラーメンが食いたくなって、客として来たという。お客として来店する分には問題ないが、千面相は先月の『千面相とペカソ』のエピソードでパーマンたちに捕まって、投獄されているはず。つまり、わざわざラーメンを食べるために、脱獄してきたのである。
千面相は「脱獄ではなく外出だ」と悪びれない。ところが、パーマンたちから、引ったくり犯にラーメン店の回転資金を奪われてオヤジが困っているのだと聞くと、急に激昂する。
「何! ひったくり!? 老人や女子ども専門のひったくり!? 卑怯な奴!! 許せん!!」
本作の冒頭で、パーマンたちが卑怯で許せないと怒っていたが、全く同じように犯人に対して怒りを爆発させる千面相。
千面相は弱者相手に泥棒を働いたりするような男ではない。むしろ困難な相手、困難な美術品を狙うのが千面相の美学で、女子供狙いの引ったくり犯などもっての外ということなのである。
よって千面相はパーマンたちに、自分も犯人探しを手伝うと協力を表明する。泥棒の力を借りるのは不本意ではあるのだが、パーマンたちだけでは捕まえる自信はない。
千面相は犯人に罠を掛けようと提案する。それはパーマン3人が、普通の子供に「変装」して犯人に襲われるように仕向け、そこを捕らえようという計画である。
変装の小道具は、千面相が公園のマンホールの下などに常時隠してあるものを使用。パーマンたちはマントを服の下に隠し、さらに千面相特製のゴムマスクをパーマンマスクの上から着用する。
するとブービー含めて、3人のパーマンは小さい子供たちに変装完了である。さらに、千面相が用意した札束をポケットに目立つように入れて、犯人の出そうなところを歩くことにする。
千面相は「ラーメンが食えないならしょうがない」ということで、刑務所へ帰ることに。まるで刑務所を自宅のような気分で捉えているようである。そして「成功を祈る」と一声かけて、爽やかに去っていく。とても刑務所に戻るような雰囲気ではない・・。
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ともかくも、千面相のおかげで引ったくり犯逮捕の準備は整った。3人手分けして、歓楽街近くの人通りの少ない道を歩き出す。札束は不自然なほど周囲にチラつかせてアピールするが、この時藤子F先生のような男性も見て驚いている。
そして目論見通りに、犯人がパーマン扮する男の子に目を付け、後ろからアタックして札束を引ったくる。奪われたところでパーマンがバッジを鳴らしてブービーとパー子も集結。子供だと舐めてかかってきた犯人をあっと言う間に返り討ちにする。
千面相のおとり作戦は、まんまと大成功したのであった。
後日談。刑務所の千面相のもとへ、パーマンたちが出前を届ける。それは「仙珍居」のオヤジがお礼にと、心を込めて作ってくれたラーメンであった。千面相は念願のラーメンにありつけ、「いつもより一段と美味い」と破顔して、ラーメンを食する。
この時の千面相の表情や、パーマンたちとの間のほのぼのした空気感から、千面相が今後パーマンと戦うイメージは浮かばない。孫悟飯とピッコロが共闘して、もうピッコロが敵で無くなったような感じである。
そして実際に、本作を最後に、千面相は「パーマン」(漫画版)から姿を消す。ラーメンを食べに気軽に脱獄できる千面相なので、時々はパーマンたちの厄介になるのかもしれないが、もう激しくぶつかることも無かったのだろう。
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ただし、本作で千面相から譲ってもらった変装道具は、また意外な形で登場する。これも近日記事化の予定なので、その時にまた。
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