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戦争は金ばかりかかって、虚しいもの『ラジコン大海戦』/藤子不二雄と戦争③

「藤子不二雄と戦争」というテーマで、2本の「戦争」作品を見てきた。それぞれ1行でどういう話かまとめると、以下のようになる。

『ぞうとおじさん』 → 一匹のゾウを助ける話。
『戦場の美少女』 → 一人の特攻隊員を救う話。

2作品とも、大勢の命が失われた太平洋戦争を舞台にしながら、救えたのはそれぞれ一匹と一人だけというお話であった。

しかし『戦場の美少女』では、たった一人しか助けられなかったとしても、その行為は尊いものだと、主人公(=読者)は学びとる。たった一匹、たった一人の命に目を向けることが、尊い平和を生み出す力となることを、作中で語っているように僕には思える。


さて、「藤子不二雄と戦争」シリーズも3本目となるが、本稿ではだいぶライトな「戦争」作品を鑑賞していきたい。ラジコンを使って戦うという「ドラえもん」らしい作品だが、不意に藤子先生の戦争論が挟み込まれるユニークな名作となっている。

「ドラえもん」『ラジコン大海戦』(初出:ドラえもん大海戦)
「週刊少年サンデー」1976年9月10日増刊号/大全集20巻

冒頭、のび太が苦労して買ったラジコンボートを手に取って感慨に耽っている。小遣いを切り詰めるなどした努力が報われたのだ。さっそく、進水式をしようと川へ向かう。

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人気のない川辺にラジコンを浮かべて動かし、改めて感動するのび太。すると、巨大な戦艦大和のラジコンが姿を現す。のび太のボートに向かって進水してくるので、舵を切って避けようとするのだが、大和は躊躇なくボートの脇からぶつかってきて、何と、沈められてしまう。

ヘタヘタと座り込むのび太。そこへ後ろから「さすが大和や強いなあ」とスネ夫がヘラヘラと現れる。

怒り狂うのび太とドラえもん。するとスネ夫は、

「いやあ気の毒だったね。偶然にも君らのボートが大和の前をうろうろしちゃって…」

と全く悪びれない。謝りになってないと抗議すると、

「かりかりするなって。弁償してやるよ、あんな安物」

と傷口に塩を塗ってくる。

スネ夫の戦艦大和は、ラジコンの天才・いとこの大学生(スネ吉)が作った、全長1.75メートルの大模型。スネ夫は謝らずに、自分の自慢ばかり。これに激怒したのび太、屈指の名言が飛び出す!

「スネ夫を殺して、僕も死ぬ!!」

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ドラえもんは、そんなのび太のためにある秘策を思いつく。スネ夫の大和を乗っ取ってやろうという作戦である。

スモールライトで体を小さくして、タケコプターで大和に乗り移り、改造を施し、舵を奪ってしまう。スネ夫は急にコントロールが効かなくなり大慌て。そこにドラえもんが「戦艦大和はあずかった」とアナウンスし、スネ夫はショックを受ける。

スネ夫は、いとこのスネ吉に電話を掛ける。「大和が乗っ取られたので、すぐ来てほしい」と。

電話口のスネ吉は、最初はスネ夫が何を言っているのか理解できなかったが、ドラえもんが大和を奪って勝手に航海を始めたと聞いて、「それは面白い!」と喜びの反応を示す。スネ吉曰く「こういうチャンスを待っていた」と。

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スネ吉は車でスネ夫と合流。何を言い出すかと思えば、ゼロ戦のラジコンに魚雷発射装置を取りつけ、大和を撃沈しようというのである。


のび太たちは、軍艦マーチなどを歌いながら、大和での遊覧を楽しんでいたのだが、そこへゼロ戦が4機飛来してくる。いよいよラジコン大海戦の始まりである。

スネ吉は12チャンネルで4機をバラバラに動かすという離れ業を見せて、魚雷を大和へと撃ち込んでくる。さすがはラジコンの天才。

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魚雷は大和の船底に命中し、ドドッと艦を真っ二つにして、轟沈させてしまう。溺れそうになりながら、岸へと戻ってくるのび太とドラえもん。ドラえもんは、いよいよ怒り爆発!

「重ね重ねの乱暴! もう許せぬ!!」

そこでドラえもんが取り出したのは「ミサイルつき原子力潜水艦」。ラジコンだが乗り込んで操縦できる優れものである。

さあ反撃だ、と行きたいところだが、このラジコン潜水艦をみたのび太はドラえもんに猛抗議。

「そんないいものを持ってて…。だったら何も苦労して貯金しなくても…。コーラも飲まず、クリームも舐めず。いじわる!けち!」

怒りの矛先がドラえもんへと向けられる。ドラえもんは「自分で苦労して買う方が喜びも深いんだ」とその声を無視する。

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再び小さくなって潜水艦に乗り込み、これを使ってスネ夫たちが乗っているボートを沈めようというのである。

スネ夫は、ゼロ戦の操縦にも慣れてきて「自分も天才だ」と得意顔。そこへ、水中からミサイルが飛び出して、ゼロ戦を次々と撃ち落してしまう。呆気にとられるスネ夫とスネ吉。水上に姿を現したドラえもんたちが乗った潜水艦から、次はそのボートを沈めると予告される。


大慌てでボートを漕いで逃げ出す二人。潜行して後を追うのび太たち。スネ吉は、ゼロ戦用の魚雷が手元に残っていることに気がつき、これを水中に投げ込んで潜水艦を沈めようと反撃してくる。

「模型といっても本物なみの強度がある」ということでドラえもんは冷静沈着。そして、相手が撃ち終えたところで、魚雷を発射! ドガとボートの船底を撃ち抜き大破させてしまう。


ずぶ濡れで岸へと戻るスネ吉とスネ夫。そこへ、ボート貸しのオヤジが現われ、壊したボートを弁償するよう告げる。ここでスネ吉が、ドラ史上に残る名言を残す。

「戦争は金ばかりかかって、虚しいものだなあ」

なお、この一コマは単行本収録時に足されたものらしい。このセリフが追加されたことで、本作は単なるラジコン遊びのお話から、一気に「非戦」作品として成立したように思う。重要な一コマである。

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ドラえもんでは本作以外でも、非戦作品と認定したい作品がいくつかある。例えば『ご先祖さまがんばれ』では、

「どっちも自分が正しいと思ってるよ。戦争なんてそんなもんだよ」

というドラ史上随一の名言が突然登場する。戦争の本質をズバッとえぐる素晴らしい一言である。

他にも、『ペンシル・ミサイルと自動しかえしレーダー』などは米ソの冷戦構造を思わせるギャグ篇となっている。

戦争を真っ向から描かずとも、作品の端々で非戦メッセージを巧みに組み込むのがF流と言えるのではないだろうか。


他にも「ドラえもん」の考察やっていますので、チェックお願いします。


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