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濡れ衣覚悟の男気のび太『ナゲーなげなわ』/のび太のちょっとイイ話①

「ドラえもん」の短編は1300本以上あるが、低年齢層向け作品を除くと、かなりの割合で似たような展開が待ち受けている。

パターンとしては、
①のび太に問題が発生
②ドラえもんの道具で問題を解決する
③のび太がもっとその道具を使っていい思いをしたいと調子に乗る
④最終的にはしっぺ返しを食らって痛い目に遭う

というのが定番中の定番となっている。

なので、「ドラえもん」を読むと「のび太って駄目なヤツだなあ・・」という印象が強く残るのである。


ところが、どんな世界でも定番があれば、例外もある。

中にはのび太が最終的に善い行いをして、正しく完結するお話も描かれている。しかしその数は意外にもかなり少ない。一生懸命探さないと見つからないレベルである。

そこで今回は、ドラえもんの短編の中から、のび太がちょっとイイことをするお話を集めてみることにしたい。なるべく普段取り上げられない作品を紹介していくので、是非とものび太のことを見直すきっかけとしてもらいたい。


『ナゲーなげなわ』
「小学二年生」1977年3月号/大全集8巻

それでは先ほど記した「ドラえもん」定番パターンについて思い起こしていただきたい。そして、どこでパターンから外れたのかにもご注目の程を。

①のび太に問題が発生
②ドラえもんの道具で問題を解決する
③のび太がその道具を使ってもっと良い思いをしたいと調子に乗る
④最終的にはしっぺ返しを食らって痛い目に遭う

まず本作も①【のび太に問題が発生】からスタートする。ただし今回は大した「問題」ではない。

部屋でのび太とドラえもんが漫画を読んでいると、スネ夫が借りていた折りたたみ傘を返しにやってくる。ゴロゴロ寝そべっているのび太は、いかにも面倒くさそうに「ドラえもんの方が入口に近いから」という理由で、傘を取りに行ってと指示を出す。

「絶対に行かない」と反発するドラえもん。待たされているスネ夫は「要らないなら持って帰る」とイライラしてくる。

そこで仕方がないと言って取り出しのが「ナゲーなげなわ」である。ここからが定番パターンの②【ドラえもんの道具で問題を解決する】にあたる。

ドラえもんが「傘を取ってこい」と言って縄を投げると、スルスルと器用に伸びていって、玄関にいるスネ夫に到達。そして縄の先の輪っかの部分がスネ夫が手にしていた傘をギュっと掴む。

そのまま縄が縮んでいき、部屋にいるドラえもんのところに傘が届く。これで「面倒くさいものを取りに行かねばならない」という問題は解決である。


さてここからが通常だと定番パターンのび太がその道具を使ってもっと良い思いをしたいと調子に乗る】に移行する。案の定のび太は「それがあれば座ったまま何でも取ってこれるね」と大喜び。面倒くさがりののび太にとって垂涎の道具であるようだ。

いつものように悪用するのび太が目に浮かぶドラえもんは、「これは絶対に貸さない」と言って逃げ出すようにして部屋から出ていき、咄嗟に庭へと投げてしまう。そして、追ってきたのび太に「どこかへしまっちゃった」と告げる。


のび太の悪用が封じられて、ここから定番パターンにズレが生じ始める。庭に投げ捨てられた投げ縄を見たスネ夫が、「要らないならもらっちゃおう」と言って、取っていってしまうのだ。

スネ夫は「ナゲーながなわ」を使って、さっそくジャイアンに取られた漫画を取り返そうと考える。

「行ってこい」といって縄を投げると、スルスルと道なりに伸びていき、ジャイアン宅の二階の窓から入り込んで、一階の部屋でジャイアンが読んでいた漫画をパッと奪い取る。

「泥棒!」と叫ぶジャイアン。もちろん、自分が借りパク上等の大泥棒だとは微塵も思ってはいない。

スネ夫の手元に漫画が戻ってくる。その様子を小さな女の子が見ていて、「それなあに」と質問してくるが、「うるさいっ」と冷たく答えるスネ夫。何気ない2コマであるが、この場面が無いと、ラストでのどんでん返しが利かない仕組みである。


スネ夫は投げ縄を使って自分の奪われた漫画を取り戻すまではまだ良かったと思うが、ここから調子に乗り始める。そう、本作において問題解決後に調子に乗ってしまったのはスネ夫であったのだ。

しずちゃんの宿題のノートを奪ったり、友人のプラモデルやジャイアンのソーセージを取り上げる。さらには草野球のボールを取って試合の邪魔をする。

被害に遭った皆は「許せない」と激怒して、「犯人を探せ」とジャイアンが檄を飛ばす。さすがにこの状況に至って、スネ夫は「何とかしなくちゃ」とビビり出す。


一方、しつこくポケットをまさぐっていたのび太に折れたドラえもん。いたずらに使わないことを約束に、庭に放り出した「ナゲーなげなわ」を貸すことにする。

ところがスネ夫が持って行ったあとなので、庭には落ちていない。「いたずらされては大変」ということで、ドラえもんとのび太はナゲーなげなわを探しにいく。


のび太が歩いているところをジャイアンが見つけて、「お前が一番怪しい」と詰め寄ってくる。確かにあんな不思議なことができるのはドラえもんのいるのび太だけである。

「そんなこと知らない」と答えるのび太。そこへスネ夫が背後から、パッとなげなわをのび太の手に掴ませる。ジャイアンは「何だその縄は」とますます疑いの度を深める。

「なんでもない、ただの縄」と言って、逃げ出すのび太。いかにも怪しいその様子に、被害に遭ったしずちゃんや友人たちまでも集まってくる。のび太は物陰に身を隠すが、これでますます皆から疑われてしまう。


すると「助けてえ!」という声が聞こえてくる。声の先に向かってみると、女の子が川に落ちて溺れかけている。のび太は投げ縄を使って女の子をピックアップしようとするのだが、そのタイミングでのび太を怪しんでいた面々に見つかってしまう。

のび太は一度は「投げ縄の練習をしている」と誤魔化してその場から離れようとするのだが、溺れている子が気にかかって川べりへと戻り、縄を投げ入れる。

無事に子供は救出できたが、後ろではジャイアンが怒りの表情を浮かべている。そこへスネ夫が「そら見ろ、やっぱりのび太だ」と割って入ってくる。

ところが川に落ちた女の子は、先ほどスネ夫の投げ縄を目撃した子だったのである。「さっき投げ縄で遊んでた人だわ」とスネ夫は指さされて、いたずらの真犯人が呆気なく判明する。

怒ったジャイアンたちに追い立てられていくスネ夫。無実の罪を着せられようとしていたのび太に、ドラえもんは「君はいたずらしなくて良かったなあ!」と声を掛けるのであった。


ラストではいつの間にか、定番パターン④【最終的にはしっぺ返しを食らって痛い目に遭う】が出現している。ただし痛い目に遭ったのは、調子に乗ったスネ夫であるが・・・。

今回ののび太は、濡れ衣覚悟で女の子を救うというファインプレーを演じている。時々見せる犠牲心というか、男気がのび太の魅力の一つである。

こんな感じで、次稿以降でも、のび太のちょっとイイ話をご紹介していくので、どうぞお楽しみに。



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