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スネ夫の弟、留学中。/考察ドラえもん㉖後半

消えた3大初期キャラの一人、スネ夫の弟を取り上げ、なぜ消えてしまったのか、という考察を前回の記事で行った。

スネ夫の弟が登場したのは全部でたったの3話。しかも2話目についてはたった一コマ限りの登場であった。最後に顔を見せたのは、1972年8月の『お返しハンド』で、のび太に泣かされて逃げていって、そのまま行方不明となってしまったのである。

突然消えたスネ夫の弟は、その後幻のキャラクターとされてきたが、ある日いきなり姿を現わす。しかも、消えていた理由もしっかりと明かされるのである。

ちなみにジャイアンの妹ジャイ子も、連載当初に数回登場して消えてしまっていたが、こちらも10年の時を経て再登場している。


『スネ夫は理想のお兄さん』
「小学四年生」1984年9月号/大全集14巻

彼の再登場は、突然であった。前回の登場からなんと12年

スネ夫そっくりの男の子が、ドラえもんとのび太の前に現れる。いつかどこかで見たような…と思っていると、

「ハーイ、ノビタ ドラエモン。ハウアーユー!」

と英語で陽気に話しかけてくる。そこへスネ夫が登場。「勝手に出歩いたら迷子になる」と言って家に連れて帰ろうとする。

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のび太たちはその後を付いていくが、スネ夫たちの前にしずちゃんが通りかかり、

「あーら、スネツグちゃん!」

と名前を呼ぶ。そして、

スネツグ「ハロー、しずちゃん」
しずか「いつ日本へ来たの。いつまでいるの」

と会話を交わす。そのやりとり聞いていたのび太たちは思い出す。

「そうか!スネ夫の弟だよ!! たしかニューヨークに住んでるおじさんに子供がなくて、何年も前、養子に貰われていったスネツグくん。ずいぶん大きくなったなあ」

凄まじい説明セリフだが、これによって全ての謎が解消する。ポイントは下記。

①スネ夫の弟の名前はスネツグ(初めて判明)
②何年も前からNYの親戚に養子にもらわれていた
③なので英語をしゃべる

読者としては衝撃的な新事実ばかりで戸惑うのだが、さも当然のようにお話が進んでいく。特に名前については長年の謎とされてきたのが、しずちゃんが当たり前のようにスネツグと呼び掛けているのには思わずずっこける。

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その後この噂がジャイアンにも広がり、そこでスネツグは夏休みを利用して帰国していることも判明する。

スネツグに久々の日本を堪能させてやればいいのに、スネ夫はスネツグを家から外に出そうとしない。その訳は、スネ夫がドラえもんたちに相談しに来ることで明らかとなる。

スネ夫はNYの弟と長年手紙のやりとりをしていたのだが、誇張癖の悪いところが出て、書いている内容がどんどん膨らんでしまったのだという。例えば、学校の成績はトップ、スポーツ万能、町中の人気者で女の子の憧れの的、乱暴者のジャイアンも頭が上がらない・・・。調子がいいのにも程がある。

そうした嘘によって、スネツグはスネ夫のことを世界一素晴らしい兄だと信じ込んでいるのだという。そういうことで、本物とのイメージギャップを知ってスネツグが兄を軽蔑するのを避けるため、のび太たちに会わせないようにしたのだという。

そこでスネ夫の頼みというのは、弟といる間だけはスネ夫のことを天才と褒めちぎるなどして欲しい、というもの。図々しいにも程がある。

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のび太たちが了解しないので、しずちゃんたちにも同様の頼みごとをして回るのだが、全て断られてしまう。ジャイアンには、俺にペコペコさせる気かとキレられて追い回される。挙句、通りがかった先生には、最近成績が下がっているので家庭訪問したいと言われて震えあがる。

のび太の家にスネツグが一人でやってくる。今夜自分の歓迎パーティーをやるので来て欲しいという誘いであった。そのついでに兄さんが好きかと聞くと、

「大好き!尊敬してる。僕も兄さんに負けない立派な少年になるの」

と細い目を輝かせるのであった。

そんな本気で兄を信じるスネツグのため、ドラえもんは「イメージライト」というライトの付いた帽子を出して、スネツグに「日本にいる間被っているといいよ」と渡す。

このイメージライトは、帽子の前方についているライトに照らされた人は、被っている人のイメージ通りに行動する、というもの。

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スネツグがイメージライトのついた帽子を被って歩いていくと、先生に捕まっているスネ夫がいる。スネツグはそれを見て、先生に褒められているのだと勘違いする。すると先生はライトを浴びて、

「ますます成績が上がっておりまして、今すぐ東大を受験しても合格疑いなし!!」

と天才アインシュタインを相手にするかのような褒めちぎり。

そんな様子をみてスネツグは兄は凄いと感心し、スネ夫は「一体どうして?」と心中穏やかではない。

その後もジャイアンには謝られ、通りがかりの女の子たちにはキャーキャー言われて、スネツグは兄への尊敬の念を深める。そしてスネ夫は、ここでまさかの勘違い

「ひょっとして僕は、自分で思っていたよりずっと、素晴らしい少年だったのかも・・・」

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ところが、スネツグが一人帰ってイメージライトが無くなると、素敵と言っていた女の子たちは素に戻り、ジャイアンにはさっきの続きとばかりに蹴飛ばされる。

スネツグの前だけいいかっこできるとのび太たちに明かされたスネ夫は、家に帰ってスネツグに、「アメリカに帰らないでずっと日本にいないか」と持ち掛けるのだった。

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ジャイ子は、再登場してすぐに漫画家になるという夢を持ち、その夢に向かった努力していくというサブキャラクターとしての地位を確立していった。また妹思いのジャイアンとのコンビネーションとしても使い勝手が良かった。

ところがスネツグは、スネ夫のホラ吹きキャラを補うような使われ方をして、当人の個性があまり引き出せないままとなってしまった感がある。

初期作品で登場していた頃はスネ夫と同じ嫌な性格だったが、再登場後では素直で良い子に育っていたので、もう少しスネツグの主体的な活躍も見てみたかったな、とは思う。


80年代に入ったドラえもんは、初期キャラのジャイ子が復活し、新キャラの出木杉が存在感を示し始めた。そうして次にスネツグの復活が試みられたのだが、この一本でまたまた姿を消してしまう。それでも、スネ夫の弟の本名や行方が分かっただけでも良しとしなければなるまい。


ドラえもん考察など、藤子作品のレビューは他にもありますので、どうぞこちらかお好きなページへ飛んで下さい!


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