身の安全は買ってでも!?『世界平和安全協会?』/町のカツアゲくん②
ヤクザの世界ではお馴染みの「みかじめ料」。主に飲食店や個人商店などが狙われ、ヤクザがその店の治安を守ってあげる代わりに、ショバ代を寄こせ、とやるアレである。支払いを断ると、逆にそのヤクザから嫌がらせを受けるので、狙われたら最後というわけだ。
この方式を取り込む不良たちが、つい最近まで全国的に存在していた。ある程度のお金を貢いでおけば、他の不良勢力に絡まれても守ってやるという仕立てである。
ただし、この貢ぐ金額の設定が大事なところで、多すぎると警察沙汰になってしまうし、少額では脅す方も割に合わない。
さて、そんな善良な少年たちにとっての身近な魔の手である、金を要求してくる不良どもは、頭を悩ます厄介の種でしかない。先生や親にチクろうものなら、仕返しは必至だし、かと言って、なけなしのお小遣いを取られるのも痛い。
子供の世界の問題を取り上げることの多い藤子作品では、そうした子供たちの憂鬱の原因である「カツアゲ」をテーマとした作品が複数存在する。これを「町のカツアゲくん」と題して、まとめて紹介していくことにしたい。
本稿は、2本目の記事で、前回の記事は下記をご参照下さい。
本作はいつになく不穏な立ち上がりが印象的。
のび太がママに、一年分のお小遣いを前借りしたいとお願いし、その用途を聞かれると、「もういいよ!」と言って出て行ってしまう。何かあると察知したドラえもんは、自分だけにも事情を教えて欲しいと告げる。
のび太は、「実は・・・」と困った表情を浮かべるのだが、「ダメだ、やっぱりしゃべれない」と口を割らず、頭を抱えて走り去ってしまう。
家の外では、スネ夫、安雄、ハル夫、そしてしずちゃんまでもが、怪しげな顔のモチーフをしたバッジを付けている。のび太が「もう入会したの?」と尋ねると、
とスネ夫が脅してくる。
どうやら、のび太だけでなく、町の子供たちみんなが何か身の危険を感じているようだ。ドラえもんが近づいてきて、何のバッジか聞くと、みんなは何も答えず、そそくさとどこかへと去ってしまう。
ドラえもんは、何か隠し事があると確信。「探ってやる」と言ってのび太の後を付けていくと、いかにも迷惑そうなのび太は「ネズミ」とドラえもんを脅かして、追い払ってしまう。
・・・とここまで、通常のドラえもんとは違って、事件性を感じさせる雰囲気の序盤となっている。本作は「てんとう虫コミックス」には収録されなかったが、そうした異色な感じが他の作品と融合しなかったからだろうか?
のび太はクズレ荘という、今にも崩れそうなオンボロアパートへと入っていく。ノックして入った部屋には、高校生くらいと思われる半グレな男が二人座っている。タバコをふかしており、ぱっと見で悪いやつらだとわかる。
のび太に対して、男はにこやかに言う。
のび太が答えを濁らせると、にこやかだった男の様子が変わる。
と、言葉遣いは丁寧だが、その表情はかなり険しい。「ドラゴンボール」のフリーザのようなテイストである。
のび太は、「無理に入れていただかなくてもと・・・」と声を絞り出すと、輩どもは、慇懃無礼な言い回しで、静かにのび太を脅す。
入会すると安全になる、つまり入会しないと危険な目に遭わせると言っているわけで、典型的なヤクザのみかじめ料取り立てのやり方である。
そこへ、ようやく金ができたと言いながら、ジャイアンが部屋に入ってくる。町の暴れん坊と言えばジャイアンのはずだが、彼もかなりのビビりようで心なしか小さく見える。
二人はジャイアンに対して、「もう災難に遭うことはない」と言ってバッジをつける。そこに、典型的な口封じの脅しも忘れない。
細かい所だが、先ほどは全治三週間と言っていたので、数字がインフレしている。これはまた後程の伏線にもなる。
のび太は今日中に入会金を渡すと約束したが、当然当てはない。空き地の土管に座って家出をしようかと考えていると、ドラえもんが背後から現われ、「白状ガス」を振りかける。
何でもしゃべってしまうこのガスによって、のび太は一部始終をドラえもんに説明。それを聞いたドラえもんは、「そんな奴らに脅されるなんてだらしがないぞ、断固戦え!」とのび太に発破を掛ける。
そしてドラえもんが取り出した道具が、「安全カバー」である。大きめのビニール袋のような形状で、この中に入ると、外部からの攻撃は全て無効化されるという。たとえ爆弾(原爆)が落ちてもキズ一つつかないとう、最大値の防御力を持ったアイテムである。
なお、「安全カバー」という名称は、「世界平和安全協会」という名ばかりの団体名と対になっている。
のび太は安全カバーに身を包み、カツアゲ二人組に対して、ビビりながらも、バチっと入会を断ってくることにする。男たちは、のび太の「断る」という返事を聞いて、逆上。「のぼせるなっ」と一人の男が殴りかかるのだが、ガンと叩いても自分の手を痛めるだけ。
完全にキレた二人組は、「全治六か月の刑を宣告する」と言って、バットと竹刀を手にする。小学生相手に武器を取り出すほどの悪い連中なのである。
しかし、安全カバーの威力は凄く、二人の攻撃を全く寄せ付けない。手出しした方が、逆にボロボロとなってしまう。対処を諦めた二人は、「入会しなくていい、帰れ」とのび太に告げるが、ここからのび太の反撃開始。
のび太は、「友だちの払ったお金も返して」と言って、部屋に座り込む。何とかして動かさそうとする二人だが、逆に電気ショックを受けて弾かれてしまう。近寄れなくなった二人だが、のび太は部屋を散歩すると言って、ふたりに体当たり。
さらに二人がラーメンを食べだすと、どんぶりの中にゴミをばら撒く。部屋から逃げ出す二人をさらに追いかけて、「どこまでもついて行くよ」と言って水を掛ける。
見事のび太の反撃によって、協会は解散となり、みんなへ会費の返金をさせるのであった・・・。
本作はヒネリの少ない直球タイプの「カツアゲ」話である。典型的な「みかじめ料」を要求するカツアゲコンビにのび太たちが支配されるが、それをドラえもんの道具を使って逆襲する流れである。
「金を払わないと痛い目に遭う」「しゃべったら酷い目に遭う」という、脅しで子供たちの財布を付け狙う悪者たちが憎たらしく描かれており、その分のび太の逆襲が気持ちよく決まる構成となっている。
ただゲストキャラととして悪者が出てくる「ドラえもん」の短編は珍しく、全体的に異色なテイストとなっているのは確か。何となく、単行本未収録というのが納得できるのが不思議である。
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