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子供たちの身近な恐怖・カツアゲ『こづかいどろぼう』/町のカツアゲくん①

僕の少年時代は、「校内暴力」が蔓延るなど、学校が凄く荒れた時期であった。しかも田舎の、それほど柄の良くない地域に住んでいたこともあり、いわゆる不良たちが目一杯幅を利かせていのである。

今では信じられないかもしれないが、不良な学校の先輩だったり、他校の生徒だったりと町で鉢合わせとなると、お金をせびられたものだった。いわゆるカツアゲ(喝上げ)である。

今の時代がどうなっているか分からないが、少なくとも僕の知っている子供たちの世界では、そうしたお金を取られたり、言うことを聞かないと殴られたりという、暴力が蔓延っていた。カツアゲは、子供たちの日常における身近な恐怖だったのだ。


藤子作品では、実はそうした悪いやつにカツアゲされてしまうお話が非常に多く存在する。子供の日常をテーマとした作品を書く藤子先生としては、子供の身近な恐怖対象であるカツアゲしてくる不良は、格好の題材だったのである。

そこで、「町のカツアゲくん」と題して、カツアゲ野郎どものエピソードをいくつか紹介していく。当時の子供たちの恐怖と、不良たちとの戦いを楽しんで(?)もらいたい。


「パーマン」『こづかいどろぼう』
「コロコロコミック」1983年5月号/大全集7巻

子供たちの世界に存在する暴力。特に非力な者は、力で押し付けられる経験を幾度もして、悔しい思いを抱えている。なので、時おり夢想することになる。自分がもっと強ければと。

平凡な少年が、ある日突然超人的な力を身に着け、ヒーローとなる「パーマン」は、そんな少年少女の読者たちにとって、憧れの存在である。身近な恐怖である力を持った者に、真っ向対峙してくれるからだ。


本作(こづかいどろぼう』)は、簡単に言えば、パーマンたちが子供たちをカツアゲしている不良をやっつけるお話である。ただし、単純にスカッとするテーマであるが、単純なストーリーではなく、少々凝った作りとなっている。

その凝り具合に注目して、本作を読み進めていきたい。なお、本作は「新パーマン」の「コロコロコミック」連載2ヶ月目の作品で、第一話目は先日記事にしたばかりの『箱毛山の山賊』である。


三億円強奪事件を解決したパーマンだったが、マスクを取ったみつ夫は300円のお小遣いにも困っていて、今日発売のコロコロコミックも買えない。ママにねだるのだが、そこにいたガン子に、無駄使いを指摘される。

ガム、タコ焼き、ジュース、ミニカップ麺、おやつ、ソーセージ・・・。ご丁寧にも、ガン子はみつ夫の買い食いリストをメモにしてあるのであった。


・・・ということで、みつ夫は小遣いが貰えず、サブとカバ夫が「発売日だから」と言って連れ立って本屋に行く姿を見て、悔し泣きをするのであった。

ところが、しばらくして半べそのカバ夫とサブが本屋の方向から帰ってくる。二人の頭にはたんこぶ。どうしたのかとみつ夫が聞くと、カバ夫は「聞いてくれ!団地のはずれの林の横に・・」と何かを言いかけるのだが、サブがそれを制止してしまう。

気がつくと、ぞろぞろと同じ方向から、こぶや擦り傷などの怪我をした男の子たちが歩いてくる。何があったか聞くのだが、皆一様に「なんでもないよ」と口が堅い。


みつ夫はカバ夫の言葉を思い出し、団地のはずれの林に向かう。そこは人通りが少ないが、商店街への近道であるという。林にたどり着くが、別に何も変わっていないように思える。

すると、そんなみつ夫をどこからか見ている何者かが、「あんなのにかまってもしようがない。あれは一円も持っていない顔だ」と考えている。みつ夫は、貧乏そうな顔のおかげで、事無きを得たようである。。


その日からみつ夫は、友だちの誰も何も買わないことに気がつく。気になるとパー子とブービーに相談しても、「貯金でもしてるんじゃない」と取り合わない。

納得いかぬまま家に帰ると、コピーロボットの姿がない。「僕を見なかった?」とガン子に尋ねると、「おじさんにお小遣いを貰って飛び出して行ったじゃない」と答える。・・・とここで、妙なやりとりになっていることに気がつくガン子。


「ロボットに勝手に小遣いを使われてたまるか」と、後を追うみつ夫。すると例の林の中でロボットの姿に戻っているのを見つける。帰って、自分のコピーに戻すと、何と小遣いを取られたという。そして、その詳細を語る。

・相手は高校生らしい
・でっかくて強そう
・「持っている金みんなよこせ」
・「このことは誰にもしゃべるな、しゃべったら殺す」

つまりコピーは、高校生の不良にカツアゲされたというのである。カバ夫やサブたちも、同じ男にやられたのであろう。自分の小遣いを取られたとあっては、パーマンはもう黙っておけない。


ところが、犯行現場となる林に行くのだが、不良の姿はどこにもない。そんなパーマンを草陰から見ている何者かが呟いている。

「怖い者なしの俺だが、パーマンだけはな・・・。引き上げよう」

パーマンの目を盗み、どこかへと姿をくらましてしまう。


この件をパー子たちに再び相談する。するとパー子は「おとり作戦」しかないとアドバイス。みつ夫の姿でお金を持ってうろつき、襲われたらバッジでパー子たちに知らせるという段取りである。

無一文のみつ夫は、パー子から「後で返してよ!」と言われながらもお金を借り、翌日作戦を決行することに。しかし、こうなったのもコピーのせいだということで、コピーにお金を預けようとするのだが、怖がってどこかへと逃げてしまう。

仕方なく、みつ夫自身がおとりとなるべく、林へと歩いて行く。パー子たちは、犯人の警戒を恐れて、みつ夫の家の屋根で待機(そのまま昼寝)。また、逃げ出したコピーは、転んでロボットに戻り、犬にクンクンと匂いを嗅がれている・・・。


みつ夫はビビりながら林を歩いていると、茂みがガサガサしてドキッとするが、出てきたのは、先ほどコピーをクンクンしていた犬。「脅かすな!」とみつ夫が叱りつけると、そこへ噂のカツアゲ高校生がついに姿を見せる。

モヒカン頭に時代を感じさせる長ランの制服姿。コピーから聞いていたように、「痛い目に遭いたくなければ、金を出しな」と脅してくる。「出た」と、驚き慌ててバッジを鳴らすが、「おかしな真似するな!」と殴られてしまい、みつ夫は一発でノックダウン。

モヒカン男がみつ夫のポケットを探ると、出てきたのはたったの500円。他に何かないかと物色していると、先ほどの犬はガブと噛みついてくる。そして、遠くからパー子たちが飛んでくるのが見える。


パー子とブービーが倒れているみつ夫を見つける。その辺に犯人はまだいるはず。空から見ていたので、遠くに行ったとは思えないが、探し物の名人であるブービーでも見つからない。

ここで犯人はどこへ消えたのかという、ミステリ要素が加わるのが、本作のポイント。さらに、そこへ先ほどから姿を見せている犬が、二本足で立ち上がり、「僕知っているよ」とじゃべりだす。この意外性も、本作の特徴である。


犬が地面の中を指し、「隠れるのをみた」と告げる。犯人は、地面を掘って中を空洞にして、そこに身を隠していたのである。「バレたか」と言って高校生が出てきて、パー子を全力で殴り続けるが、全くビクともしない。

男が殴り疲れたところで、パー子の反撃開始。デコピン一発で何メートルも吹っ飛ばし、その上からブービーがズシズシと飛び跳ねる。あっと言う間に不良撃退である。


さあ、次なる謎は、なぜ犬がしゃべれるのか。すると、実は自分はコピーロボットだと種明かしをする。ロボットをクンクンしていた犬が鼻を押してしまい、犬のコピーとなったのである。

事件が解決したところで、気絶していたみつ夫が「さあ犯人出てこい」と目を覚ます。今回はコピーロボットは大活躍したが、みつ夫は殴られただけでほとんど活躍はなし・・。


みつ夫がカツアゲされて、パーマンになって逆襲するという流れが、良くあるヒーローものの構造であるが、本作はそう簡単に事は運ばない。コピーロボットを絡ませて、話をミステリ仕立てにすることで、意外性のあるストーリーを作り上げている。

ただのシンプルストーリーから、このように少しだけひねって凝らせるのが、藤子F流の創作術である。


さて、「パーマン」に続き、次項では「ドラえもん」のカツアゲくんストーリーをご紹介する。


藤子作品をあらゆる角度でご紹介!


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