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第1回宇宙オリンピック東京大会2018!/藤子F世界の金メダル②

オリンピックという響きが、いつしか輝きを失っているように感じられる今日この頃。

少なくとも僕が子供の頃、オリンピックは、4年に一度の貴重なアマチュアスポーツの祭典として、とてもキラキラしたイメージだった。4年に一回と言わず、毎年やってほしかったものである。

「参加することに意義がある」という言葉通りに、結果を求める前に、これまで努力してきた出場選手たちにエールを贈る、気持ちのいい場であった。

そんな美しいオリンピック精神をテーマに描いた作品「海の王子」の『ロケット・オリンピック』を、前回の記事では紹介した。

本稿では、藤子Fオリンピック作品第2弾として、「21エモン」の『宇宙オリンピック』を見ていく。

前回の記事の『ロケット・オリンピック』は、冷戦下における普段の対立と一線を画す清いオリンピック精神をテーマとしていたが、今回の作品は、そうした精神とは反対の、「どうしてもメダルがどうしても欲しい!」といった欲を扱ったお話となっている。

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「21エモン」『宇宙オリンピック』
「週刊少年サンデー」1968年10月20日臨時増刊

「21エモン」は、21世紀の近未来を舞台にした日常系SFギャグまんがである。21世紀の初頭に地球が星間連合に加盟し、以降、宇宙人が大勢観光客として地球にやってくるという、そういう世界観の作品である。

「21エモン」ってそもそも何?という方は、下記の記事などを参照いただきたい。


本作が発表されたのが、1968年の10月で、掲載誌は「週刊少年サンデー」の臨時増刊号。この年は、東京オリンピックの次の大会、メキシコシティーオリンピックが10月12日~27日の日程で開催された。この臨時増刊号は、雑誌全体が「オリンピック大特集」として企画されたものだった。

よって本作は、オリンピックをテーマとした作品という原稿依頼に沿ったものと思われる。ちなみに前回の記事で取り上げた「海の王子」も、ローマオリンピックの開催に合わせて発売された「週刊少年サンデー」増刊号での掲載だった。


宇宙が一つに繋がって、2018年に初めての「宇宙オリンピック」が開催される運びとなる。会場はなんと東京。まさか2020年(実際は2021年)に、東京オリンピックが開かれるとはF先生も予想してはいなかっただろうが、偶然にしては出来すぎている。

テレビで徒競走の中継を見ている21エモンたち。1着はスパイダー星のナガスネ、2着がシリウス星のホットドッグ、3着がチューチュー星のタコカイナ。地球人はというと、表彰式後にようやくダントツのビリでゴールしてくる体たらく。

地球人選手の不甲斐なさに、21エモンたちはテレビの中継を切ってしまう。宇宙人たちとの体格差に圧倒されて、大会10日目にして地球人は一つも金メダルを取れていない。また、ロボット部門でも地球は他の星に勝てないのだという。

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その会話を聞いていた芋掘りロボットのゴンスケは、自分がオリンピックに出場して必ず優勝すると言い張る。「イモ掘り」種目でもできたのか、と大笑いされるゴンスケ。

すると電話が鳴って、ゴンスケが対応すると、何とテレビ電話の主は、オリンピック委員会会長のブランコーである。これは結論から言えば間違い電話だったのだが、電話の相手を見た21エモンとモンガーは、ゴンスケの冗談を本気だと思い始める

次にゴンスケが「選手村に行く」と言って出ていく。それを聞いて、21エモン一家は、ゴンスケが選手だったといよいよ思い込む。ゴンスケは選手村には、注文を受けていたイモを届けにいっただけだった。

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これで勘違いのスイッチが完全に入り、後は冗談が本当になっていくという落語のような展開に入っていく。ちなみに、似たようなF作品に「エスパー魔美」の『うそ×うそ=?』などもある。


オリンピック選手であるゴンスケの体調を万全にしてもらうべく、家族皆でもてなすことに。つづれ屋で一番いい部屋に住まわせ、栄養をつけさせるために特別電池を入れてあげる。

ゴンスケの世話にかかりっきりとなり、珍しく現れたお客に対しては、狭くて汚い部屋に通すなど、相手にしない。皆にチヤホヤされたゴンスケは、「もうしばらく勘違いさせておけばよい」と寛ぐ。


先ほど接客を蔑ろにされていた男が、実は新聞記者であることが判明。オリンピック選手のゴンスケが滞在していることを知って取材をすることになる。出場する種目を尋ねると、ゴンスケは堂々とイモ掘りだと答える。

「そんな種目あったかな」と思いつつ、インタビュー記事は翌日掲載され、それを見たライバル紙たちは特ダネを取られたと、慌ててゴンスケの取材にやってくる。軽い嘘が、どんどんと既成事実化し、今さら本当のことを言えないゴンスケは、テンパって倒れてしまう。

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ゴンスケは一躍時の人となり、そのニュースはオリンピック会長の耳にも届く。イモ掘り競技の存在を当然知らないわけだが、宇宙オリンピックとなって種目が増えたので「忘れていたのかも・・・」と思い始める。

忘れていたとなると責任問題に発展しかねない。イモ掘りスタジアムを一晩の突貫工事で完成させるべく動き出す。


一方、追い詰められたゴンスケは夜逃げを図ろうとするが、21エモンたちに見つかってしまう。明日の競技は絶対に金メダルを取らなくてはならない、ということで、鉄板を掘り抜くスパルタ特訓を行うことに。

すると、鉄板にゴンスケの腕が負けて、グニャリと変形してしまう。「軽はずみなことをした」と後悔する21エモン。「これでオリンピックに出なくて済みそうだ」とホッとするゴンスケ。

すると21エモンの父、20エモンが、「オリンピックは参加することに意義がある、負けても悔いのないよう頑張ってこい」とゴンスケに活を入れて、大会へと送り出す。

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金メダル候補の呼び声高いゴンスケを一目見ようと、イモ掘りスタジアムは満員御礼。ところが、当たり前の話だが、他の星の選手は一人も現れない。何せ正式種目ではないので・・・。

誰もこないということで、棄権とみなされ、ゴンスケの優勝(不戦勝)が確定する。疑問マークが浮かぶ中、ゴンスケは大会委員長から金メダルを授与される。

高らかに響く地球星歌! 偉大なるゴンスケ、鉄の男ゴンスケ、根性のゴンスケが、地球に金メダルをもたらしたのです! 良かったねえ・・・

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無理のある話だが、金メダルが欲しいとなると、道理も引っ込むと言うことなのかもしれない・・。


藤子作品の考察・紹介やっています。


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