パーマンの原形!「スーパーじろう」/ちょっぴりマイナーな幼児向けF作品⑬
本稿では初期の幼児向け連載作品「スーパーじろう」をご紹介。まずは本作の位置づけから確認しておこう。
藤子不二雄両先生が上京してトキワ荘に住むようになったのが1954年のこと。紆余曲折がありつつ、膨大な短編・中編を発表し続けて、1959年には初の週刊連載となる「海の王子」がヒットを飛ばして、本格的に人気作家の道を歩み始める。
1960年には小学館系雑誌で「海の王子」の系譜に連なる科学SF作品「ロケットけんちゃん」の連載が始まり、その後類似作が量産されていく。
1950年代のF先生の主戦場だった講談社系雑誌では同じく1960年に連載が始まった「てぶくろてっちゃん」がヒット。「ドラえもん」に連なっていく日常SF路線が確立された。ドラえもん系の作品が講談社で培われていたという事実はとてもユニークである。
ところが講談社の小学生向け学年誌が休刊となり、藤子先生の活躍の場は、以降ほぼ小学館の独占状態となる。
そんなタイミングの1963年にスタートした作品が「スーパーじろう」である。本作は「ロケットけんちゃん」の系譜のSFヒーロー作品でありつつ、講談社の「てぶくろてっちゃん」の要素も引き継いだ作品にもなっている。
つまり「スーパーじろう」は、SFヒーロー+日常SFの合わせ技のような作品なのである。そして、それは取りも直さず、「パーマン」を先んじたコンセプトのお話だと言えるのだ。
「スーパーじろう」の立ち位置を確認できたところで、本作の概要をまとめておこう。
「スーパーじろう」は、「てぶくろてっちゃん」と入れ替わるようにスタートした作品で、「よいこ」にて3本、「幼稚園」にて7本の全10作が発表された。「よいこ」は1995年に姿を消した幼児向け雑誌で、幼稚園入園までのお子さまをターゲットにしていた。
小さい子向けの雑誌連載なので、お話も明るく楽しく分かり易い作りとなっている。長さは毎話4~5ページである。
主人公はじろう、おそらく未就学児童であろう。お兄さんとパパママの4人家族。見るからに平凡な男の子である。
ある日宇宙人と出会い(!)、真っ赤な手袋と長靴(ブーツ)を貰う。ブーツを履くと空を飛ぶことができて、手袋をはめると強力な力を出せるようになる。「パーマン」における、マントとマスクである。
子供たちにとって、空を飛んだり、スゴイ力を出せたりするのは、非常に心ときめくことだが、藤子先生はそうした子供の喜ぶポイントを真正面から押さえるのが非常に巧みであると思う。
それでは、具体的に10作品の中身をざっと見ておこう。今後の藤子作品に繋がるモチーフも多数散りばめられていることがわかっていただけるものと思う。
1月号ということでお正月のたこ揚げのシーンから。お兄さんが凧をじろうから無理やりに借りようとして揉み合っているうちに糸が切れてしまい、凧はフラフラと飛んで行ってしまう。
後を追っていくと凧が、飛んでいた円盤(!)と激突。宇宙服を着た宇宙人が円盤から姿を見せて、凧のお詫びに赤い手袋と赤い靴をプレゼントしてくれる。
さっそく靴を履いてみると空に浮かび上がり、手袋をはめて木を押すと簡単に倒せてしまう。「パーマン」でもみつ夫君が急に宇宙人であるスーパーマンにマスクとマントを渡されてヒーローになるが、本作はその前哨のような位置づけとなっている。
空を飛べる靴を勝手に履いてしまったじろうのお兄さん。ポンポンと飛んでいくのは良かったが、飛行機に頭をぶつけてしまい、靴が脱げてしまう。落ちてきた靴と手袋で、お兄ちゃんを乗せたことで落下を始めてしまった飛行機をキャッチして事なきを得る。
本作も初回に続き、「スーパーじろう」の設定説明回となっている。ちなみに「パーマン」でも初回において、飛行機が火を噴いて落ちてくるところを、マスクとマントを入手したパーマンが受け止めるというシークエンスがある。これは偶然とは思えない。
近所で火事が発生。川に浮かべていた貸しボートを使って水を汲んで、消火活動をお手伝いする。消防隊に感謝されて帰宅すると、自宅から煙が上がっており、じろうはこれを火事と判断。
タライに水を汲んで被せると、お兄さんが庭でゴミを焼いていただけだった・・・というオチとなる。
本作から「学年繰り上がり」の精神で「幼稚園」での連載となる。遅刻しそうになっているパパを空を飛んで送ってあげると、それを見た町中の人たちが自分たちも送って欲しいとじろうにお願いしてくる。
「パーマン」と違って、じろうちゃんは身バレした上でヒーロー活動を行っており、空飛ぶ靴をすごい靴だと言われて「宇宙人に貰ったの」とハッキリ答えたりしている。
以前、「子供の日」作品集の記事の中で、本作はご紹介済み。
電車ごっこに飽きたじろうと友だち。そこでハシゴと板を釘付けして「飛行機」を作って空を飛ぶ。夢がありすぎる一作である。
空き箱を組み合わせてお城を作って遊ぶじろうたち。ところが意地悪なガキ大将とその仲間たちに城を奪われてしまう。そこでじろうが空を飛んで泥水を雨のようにガキ大将たちに降り注いで、城を奪還する。
藤子作品では、「幼稚園」の作品であっても意地悪なガキ大将が登場するのである。
じろうはお兄さんと山にハイキング。そこで二人の意地悪な上級生が、何かとじろうたちに対抗してくるのだが、スーパーパワーを持ったじろうたちには敵うはずもなく・・・。
藤子作品を読んでいると割と頻繁に使用されるモチーフの一つに「ライオンの脱走」がある。動物園だったり、ペットとして飼われているライオンが町中に逃げ出して、主人公たちを襲う・・・という展開が良く出てくる。
本作のような児童向けから、大人向けのSF短編まで幅広くライオンが襲ってくる。「ライオンと藤子F」ということで記事にまとめたいと考えているので、本作については詳細は触れないでおく。
お兄さんと釣りに行くが、まだ子供だとバカにされて釣竿を持たせて貰えない。そこで竹を引っこ抜いて巨大な釣竿を作り、海の真ん中の小島で釣りを始めると、島自体がクジラであった。
お兄さんが魚を釣り上げたとママに報告すると、じろうは僕の方が大きいよと、釣り上げたクジラを家に持ち込むのであった。まだ捕鯨が大手を振って当たり前のようにできた時代である。
藤子作品において、「柿の木」は重要なモチーフの一つ。秋になれば柿の木は子供たちに狙われるし、それに対して柿泥棒を取り締まる大人との対決が描かれる。野比家の庭にも柿の木があって、いくつかのドラマが描かれていた。
本作では柿を買って帰る途中のじろうが、柿泥棒と間違えられて柿の木を生やした家のおじいさんに柿を没収されてしまう。
最近、全く同じネタを使っていた作品を読んだのだが、それを失念してしまったので、思い出し次第、書き留めます。。
パパからのクリスマスプレゼント。箱を開けると、プレゼントの隠し場所を示した謎のメッセージが残されていた・・。最近「宝探し」をテーマに多くの作品をご紹介したが、本作も立派な「謎解き型」の宝探しエピソードではないだろうか。
そして本作で、何の予告も余韻もなく最終回となる。「幼稚園」では2月号から他誌で大人気連載中の「すすめロボケット」が掲載されることになる。そうした連載環境から想像にするに、「スーパーじろう」は思っていたようには人気が上がらなかったのかもしれない。
しかし、先述したように本作は日常系スーパーヒーローマンガというジャンルに挑戦した「パーマン」の原形とも言える作品である。本作の要素をそのまま「パーマン」に取り込んでいる部分もある。
こうした少しマイナーな作品においても、しっかりと藤子F先生の作家遍歴が見て取れる点をここでは強調しておきたい。
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