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「ユーレイはいない」ものの原点『ゆうれいやしき』/藤子F初期作品をぜーんぶ紹介㉓

藤子作品のド定番パターンの一つに、「本当はゆうれいがいない」というお話がある。僕はこれを「しかしユーレイはいない」ジャンルと定義付けている。

そのあたりの話題は以下の記事で詳しく書いているのでご興味あらば。


「しかしユーレイはいない」とは何か、かいつまんで説明しておく。
これは、「幽霊がいる」と噂される屋敷とか船とか別荘に行ってみると、実際に幽霊が出ちゃったりするのだが、すったもんだがあって、結局「幽霊はイカサマだった」などというオチで終わるパターンのお話である。

今回、初期短編をパラパラ読んでいて、そうした「しかしユーレイはいない」パターンの原形とも言える作品が目についたので、今回はそちらを紹介したい。

「藤子F初期作品をぜーんぶ紹介」シリーズ第23弾。『ゆうれいやしき』である。


『ゆうれいやしき』「幼年クラブ」1957年9月号
*やまもとよしお名義

本作でまず特筆すべきは、作者名が「やまもとよしお」と記されている点だ。この理由は、当時の「幼年クラブ」では、『しゃっくり丸』という人気作品が連載中で、同じ藤子不二雄の名前を避けたから、とされている。

まだ「しゃっくり丸」については記事にしていないが、1957年の1月号から12月号まで全12回で連載されていた作品で、当時の藤子F作品としては最長の連載だった。

その人気が高かったことは想像できるが、他の読み切りを別の名前にする理由になるのか、僕にはよくわからない。また、本作の二カ月後に「幼年クラ」では、『消えゆく地球』という作品が「藤子不二雄」名義で掲載されている。この整合性もしっくりこないのである。

と、そういう事情はさておき、本作が藤子作品の「ユーレイもの」の原点的な作品であることは間違いない。ざっくりと筋を追っていこう。


全10ページ、85コマの短編である。

主人公はあきお君と正ちゃんの二人の男の子。あきお君といえば、本作が描かれた1957年の1~3月に「たのしい三年生」にて連載された『あきれたあきおくん』という作品がある。主人公と同じ名前だが、見事に見た目も一緒。

学生帽のような見た目がしっかりした帽子がトレードマークの聡明そうな男の子で、性格の違いは読み取れないが、同一人物ではないかと勝手に判断している。

なお、本作の数か月後にも『あきおくんとろぼっと』(たのしい一年生)という2ページの作品が発表されているが、こちらのあきおくんも、同じような帽子を被る男の子である。掲載誌は違えど、同一キャラクターを使い回していると考えて良いだろう。


長いこと空き家となっていた家を、あきおくんのパパが買うことになる。ボロボロになっているので手入れをして、一ケ月後くらいに引っ越す予定である。

この空き家の前で、あきおくんと友人の正ちゃんがばったりと会う。そして、今晩、空き家に二人で泊ろうということになる。

夕方、この家の前で落ち合うと、正ちゃんは大きなリュックに荷物を詰め込んでいる。キャンプのつもりらしい。


するとそこに、いかにも怪しげな男が近づいてくる。片足が悪いのか、杖をついて歩いている。髪の毛と髭が伸び放題に伸びている。足が悪いのは、太平洋戦争で怪我をしたせいだろうか。

男はこの家をあきおの父が買ったと聞き、一瞬驚くのだが、すぐに「それは気の毒だ」と言い出す。この空き家では、毎晩夜中になると幽霊やら妖怪が出るのだと言う。

ビビって絶句する正ちゃん。あきおくんは、「からかわれているんだ」と言って構わず家に入っていく。男は「化け物に食われに行くのか、ナンマイダブ・・」と不吉な言葉を投げつけてくる。


お話としては、ここからは「しかしユーレイがいない」の定番通りに展開していく。

家に入ると、手入れが必要だと言われていた通りに、ふすまは破け、廊下の床はミシリと軋む。すると暗闇に目が光る・・、とそれは、空き家に住みついていた黒猫であった。

適当な部屋に入り、正ちゃんはリュックから缶詰やらパンやらを取り出し、一気に宴会モード。お腹も膨れて気分も上がっていく。そして、ラジオでも聞いて陽気に騒ごうとスイッチを入れる。

すると流れ出したのは、一枚、二枚、うらめしや・・と番町皿屋敷。いきなり怪談を聞いてしまって、急に我に返って怖くなる二人。恐怖を思い出したという感じである。


夜も更け、犬が月夜に嘶く。気温も落ちてきてゾクゾクしてくると、気のせいか天井の木目までもオバケに見えてくる。すっかり恐怖モード突入のあきおくんと正ちゃんである。

ちなみに僕の実家は古民家で、囲炉裏を使っていた名残で天井や柱がすすで真っ黒だった。なので、天井の木目が気持ち悪く見えていたことを思い出す。今はそうでもないが、なぜ子供の頃は幽霊の類があんなに怖かったのだろう??


さて、ここからは「8時だよ全員集合」のようなドタバタが始まっていく。(例えが古くて恐縮・・)

電気がスーッと消え、ヒュードロドロと音が聞こえてくる。障子に人だまの影が映り、「ウラメシヤー」と三角頭巾を被った幽霊が姿を見せる。思わず飛び上がると、押し入れからはケラッケラッと一つ目のオバケが出てくる。

二人は廊下を走って逃げていくと、鍵が締まっている戸の前に追い詰められてしまう。そして、迫りくる幽霊二体。すると、幽霊の服に人だまの火が燃え移ってしまい、アチチチと熱がって、逆にどこかへと走っていってしまう。


あきおは廊下に幽霊の足あとが残っていることに気がつく。足のある幽霊なんて変だと、冷静さを取り戻すあきおくん。足あとを追っていくと、奥まった部屋に明かりが灯っている。中からは「一枚、二枚・・」と何かを勘定する声。

部屋の中をこっそり覗くと、いかにも悪党な風貌の連中4~5人がたむろしている。数えていたのはお札で、どこかで強盗したお金を山分けしているのである。「あれだけ脅かしたら十分だろう」と言いながら、幽霊の服を脱ぎ捨てて男が姿を見せる。


やっぱりユーレイはインチキであった。藤子Fの世界では、そう滅多なことでは本物の幽霊や妖怪は存在していないのである。

インチキだと声を上げてしまったので、悪党たちに気付かれ、捕まってしまうあきおと正ちゃん。一味の中には、家の外で夜になると幽霊が出ると脅してきた男の姿もある。

男は、ここで種明かし。この空き家は泥棒仲間の打ち合わせ会場で、幽霊だと脅してあきおくんたちの引っ越しを阻止しようと考えていたのである。

「見られたからにはただではおかぬ」と、ナイフで凄まれるが、正ちゃんの石頭とあきおくんの噛みつき攻撃で、悪者たちの隙を作って、そこから一目散に逃げだす二人。


外へ出ると木の塀を乗り越えて、黒い影が侵入してくる。一瞬オバケにも見えるが、無害な幽霊よりは危害を加える人間の方が怖いと、気にしない。

すると、その黒い影は警官隊であった。御用御用と泥棒たちを捕まえていく警官たち。彼らはこの空き家が以前から怪しいと睨んでいたので、この夜は見張っていたのだという。

そんなにヤバイ家なら、あきおくんのパパが買おうとする前に、不動産屋に警察は教えてあげれば良かったのに・・・と、そんな感想を抱く。


夜更かしとなってしまったあきおくんと正ちゃんは、部屋に戻って朝までぐっすり眠りましたとさ・・・と、そんなまったりしたオチとなっている。


本作は藤子先生23歳の時の作品だが、この後40年ほどの作家生活の中で、同じような主題で何作も書いていくことを考えると、「三つ子の魂百まで」は真実だなと思わざるを得ない。

これはマンネリとは違いますので、要注意。藤子先生は本質的に、繰り返しの作家なのです。



初期の短編も多く紹介しています。


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