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日常のほほん系『あきれたあきおくん』/藤子F初期作品をぜーんぶ紹介⑯

1951年12月。藤子F先生が18歳になったばかりの月に「天使の玉ちゃん」でデビューを果たす。このデビュー作を皮切りに「大全集」で読める初期作品をほぼ発表順に記事化してきたが、前回までで1956年までが終了した。

本稿からは藤子F先生が23歳となった1957年に発表された作品を記事にしていく。


藤子先生にとっての1957年は、前年からペースを上げて、多くの作品を発表した一年であった。具体的に1956年から付き合いが始まった「少女」「漫画王」「幼年クラブ」といった雑誌に、引き続いて短編・連載を多数発表した。

その中では「幼年クラブ」で全12回で連載した「しゃっくり丸」が楽しさ抜群のお話となっており、また別の機会に記事化する。

またこの年から講談社の学年誌が続々創刊されて、藤子先生の活動ベースとなった。別の記事にもしているが、キャリアの最初の頃は、F先生が最も活躍していたのは小学館ではなく、講談社の雑誌群であったのだ。


本稿で見ていく『あきれたあきおくん』は、新たに創刊された講談社の学年別学習誌「たのしい三年生」の創刊号から3回に渡って連載された作品。

藤子先生は1957~58年にかけての「たのしい三年生」で、多様性の満ちた作品を次々発表している。ホーマーのギリシャの叙事詩詩「オデッセイ」をマンガ化した『ユリシーズ』や、A先生との合作SF『星の子カロル』など、描かれている作品の幅は広い。

本作は、小学生の日常を楽しく描くお話で、SF(少し・不思議)要素が全くないことが逆に特徴的な作品となっている。


『あきれたあきおくん』
「たのしい三年生」1957年1月~3月号

主人公は(おそらく)小学三年生のあきお君。タイトル通り呆れた行動を繰り返す少年である。はるこさんというガールフレンドがいる

1話4ページの作品で、3話描かれたので、全部で12ページのお話である。F先生が得意とした日常生活系作品の走りとなる内容で、後年よく見かけるF先生のモチーフがたくさん埋め込まれている。

ひとつひとつ検討していこう。


『宝さがし』「たのしい三年生」1957年1月号

お話は「1月号」ということで「お正月」がテーマとなっている。F作品はオバQ、ドラえもんと日常系作品が続く中で、「お正月」はとっても大事な季節を感じさせるモチーフだった。本作はその原点とも言える作品である。

寒がりのあきおはこたつから出ようとしないが、パパから渡された手紙を開いて、「寒いなんて言ってる場合じゃない」と家から飛び出していく。

その手紙には謎の男からのメッセージが書かれていたのである。

あきおくん、素晴らしいお年玉をあげよう。宝の埋めてある場所をこの手紙に書いておく。なぞのおとこ

お年玉を求めての宝さがしというテーマは、その後のF作品頻出の題材である。「オバケのQ太郎」の『為左衛門の秘宝』や、「ドラえもん」の『のび左エ門の秘宝』などがすぐに思い浮かぶ。

これらの話を知っていると、本作のオチも予想ついてしまうのだが、そこは知らないふりをして読み進めて欲しいところ。

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あきおは、はるこさんと合流して宝探しを開始する。最初のヒントは、

宝物は二本柱の下の白い男が隠し場所を知っている

というもの。勘のいいはるこは、二本柱が鳥居のことだと気がつき、神社に向かうと雪だるまがあるだけ。

ところで、あきおたちが宝探しをしている脇で、一人の怪しげな外国人がやはり何かを探している様子。あきおは、自分たちの宝を狙っているのではないかと勘繰る。

その男から身を隠して木に登ったあきおは、バランスを崩して雪だるまの上に落ちてしまう。するとバラバラとなった雪だるまの中から、地図が出てくる。手紙に書かれた「白い男」とは雪だるまのことであったのだ。


この地図に従ってあきおたちは進むと、防空壕のような穴が見つかり、その中へと入っていく。すると一匹の子犬と紙切れが落ちている。紙を見ると、

外で遊びなさい。丈夫な体は何よりの宝です。父から

と書かれている。この宝さがしとは、こたつから動こうとしないあきおを外に出すための作戦であったのだ。

宝が無かったことを嘆きながら、白い犬を抱きかかえて、穴を出る二人。すると、怪しかった外国人が「ココニイタノカ」と近寄ってきて、子犬を抱きかかえる。この男は宝ではなく、迷い犬を探していたのである。

外国人からお礼の入った包みを貰う。家に帰って包みを広げると、中からは高級そうなオルゴール。あきおは「ばんさい、宝は本当にあったんだ」と喜び、意外な展開に驚く父親なのであった。

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『雪あそび』「たのしい三年生」1957年2月号

2月号ということで、今度のテーマは「雪」。藤子作品では「ドラえもん」などの2月号で雪遊びやスキーをテーマとした作品を描くのが定番となっていて、本作もまたその原点となる。

言わずもがなF先生は少年時代を雪国の富山県で過ごしている。雪国においてスキーは体育の授業で必修科目となるなど、極めて日常的なもの。そうしたことから、都会が舞台となる「ドラえもん」などにおいても、2月ともなれば町中に雪が積もり、そこでスキーをしたりするのが一つのパターンとなっている。

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本作ではストーリーのようなものはほとんどない。雪が降ったのでスキーをやろうとしたり、雪だるまを作ったりするだけのお話。

友だちの男の子が雪のお城を作ったというので見に行くと入り口だけ。落とし穴を掘ったと喜んでいる少年が、掘った場所を見失って自分が落ちる。そんな4コマ漫画のようなネタが綴られる

ラストは、何かをみんなで作ろうということになり、はるこがうまく誘導して、皆に雪かきさせて歩きやすい道を作りました、というオチとなる。


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『おつかい』「たのしい三年生」1957年3月号

「あきれたあきおくん」のタイトル通りのお話。あきおが急ぎのお使いを頼まれるのだが、野球をやったり犬と戯れたり他所の家に上がり込んだりと全く用事を済ませない、というストーリーとなっている。

ママに頼まれ買い物に出掛けるが、野球に加わっていきなりホームラン。しかしボールが怖そうな犬の傍に転がってしまい、ボールを取ることができなくなる。

遠くまで飛ばした責任ということで、あきおが犬に近づくが、そのままボールを咥えて犬は歩いて行ってしまう。恐る恐るついていくと、犬は一軒の家へと入っていく。

門の所で様子を伺っていると、その家のご主人が現われ、事情を話すと中に入れという。

「買い物に出たっきり帰ってこない」と母親。「ボールを取りに行って戻らなくなった」と野球のチームメイトたち。双方があきお君を探し回る。するとあきおは、先ほどの家に上がり込んで、お茶をご馳走になりながら主人と談笑している。思わず「あきれた」と声を出すママと友だちなのであった。

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3作ざっと見てきたが、驚くほどに事件が起こらない。ほのぼの癒される日常系マンガなのであった。

なお、翌年の「たのしい三年生」で『あきおくん火星へ行く』という作品が掲載されているが、この作品は大全集未収録なので、いまだ読めずじまい。「あきれたあきおくん」と関連性があるのかどうなのか、知っている方は是非教えて下さい!


初期短編の考察、順々にやっています。


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