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ベラボー、地獄を作って地獄落ち!『ベラボーの地獄めぐり』/藤子F地獄めぐり②

前回の記事で、大昔の人たちが、子供たちに悪いことをしては駄目ということを伝えるために、「地獄」という概念を作り出したのだが、今の世の中では残念ながら「迷信」や「妄言」扱いされてしまっていることを述べた。

それがこちらの記事である。

この作品では、とても一人の少年が作ったとは思えない一大地獄ワールドが描かれる。「キテレツ大百科」の中でも、抜群にスケールの大きな「発明品」である。

ただ、苦労して作ったものの、安全性を考慮し過ぎたせいか、犯罪抑止力の効果を発揮せぬまま、皆の楽しい楽しいフィールドアスレチックとなってしまう。

なお、地獄を作った地獄のご主人様だったキテレツだが、蚊を殺して殺生の罪で地獄落ち第一号となってしまい、ひとり恐怖に慄くことになる。まるで自分を怖がらせるためだけに作ったようである。


さて、この作品とよく似た展開の「地獄エピソード」がある。それが7年前に発表された「ベラボー」という作品の『ベラボーの地獄めぐり』というお話。

・・・ん、ベラボーってなんだ? という方が大多数であると思うので、まずは過去に執筆した作品紹介記事をご参照いただければと思う。

おっと、イイネが一つしかついていない(24年1月現在)。こちらの記事は3年間に出したがビュー数も300弱止まり。マイナーな作品の記事はマイナーに留まってしまうということか・・・。


と、そんな愚痴はさておき、実際的には「ベラボー」という作品は知る人ぞ知る名作となっている。ベラボーは亀の形をした宇宙生物で、事情があって地球で生活している。

そんなベラボーと地球の少年・浦島一郎が友だちとなり、ベラボーの居住空間である地下に子供たちだけが往来できる広大な「ベラボータウン」を作って、みんなで地下の町を楽しむことになる。

なお、一郎がベラボータウンの町長に任命されるが、我がままな友だちたちに振り回されたり、不満分子たちに町長選挙を仕掛けられたこともある。また、地下のことは子供たちだけの秘密であるという点も押さえておきたい。


では、そんな事前情報を頭に入れて、本作の中身に取り掛かっていこう。

「ベラボー」『ベラボーの地獄めぐり』
「まんが王」1969年3月号

普段はわりと強気なキャラクターでならしているベラボーだが、この日は変な本を読んでしまったために、急に一人でいるのが怖くなる。それは「地獄の大怪鬼」という本で、読んだベラボーは地獄が実在のものと思って恐怖したのである。

「僕はもう怖くて怖くて・・」と甲羅に入って縮こまるベラボーに、浦島一郎は、「地獄なんて迷信だよ」と笑う。

「悪いことをしたら、地獄へ行くぞって、昔の坊さんが脅かしたんだ。本当はそんなもの無いんだよ」

地獄は迷信だということを知らされて、ベラボーは「怖がって損した」と言ってプリプリする。


話は変わって、ベラボータウンは一郎と友人たちとで共有している秘密基地だが、最近、ベラボーにとって目に余る行為が目立ってきた。

ベラボータウンでは望んだものがほぼ何でも手に入るのだが、あくまでタウンの中だけで楽しむものであって、間違っても外の世界へと持ち出してはならない。地下基地の存在が外界にバレてしまうからである。

「ドラえもん」でも、ひみつ道具を大人たちに配ったり、見せびらかすようなことはしない(たまに例外はあるが)。未来の秘密を世の中にバラしてはならないという原理原則が貫かれているのだ。

ベラボータウンでは、40インチのカラーテレビや最新のゴルフクラブが買えるだけでなく、ペット屋ではライオンが売っているし、おもちゃ屋で戦闘機が入手できる。

ベラボーは、こうした秘密の流出を恐れて、皆を必要以上に取り締まることにする。タウンから出ていく子供たちを執拗に尋問し、強引に身体検査をする。これには町の住民たちもウンザリ。


ベラボーは永久に取り締まると決意し、さらにみんなを心から震え上がらせる手はないかと考える。そして「そうだ!!」と浮かび上がったアイディアが「地獄」の創造なのであった。

ベラボーはタウンの中心である広場に、「イメージボタン」で地獄を作り上げる。おそらく、冒頭で読んでいた「地獄の大怪鬼」から想像したものと思われる。

地獄の定番キャラであるエンマ大王や、牛頭馬頭、また悪いことをした人を映し出す「じょうはりのカガミ」も設置されている。この辺りは「キテレツ大百科」の『地獄へいらっしゃい』とほぼ同じ構えである。

ただしベラボーの作ったエンマはなぜかコテコテの関西弁。「開店の準備は整ってますねん。いらはい、いらはい」とお出迎えのセリフのノリが軽いのである。これには思わず「ハーさよか」と答えてしまう浦島一郎。


エンマ様の案内で地獄をめぐる。

まず最初に針の山があるが、きちんと通常の道が整っており、今にロープウェイをつける計画だという。まるで観光地気分である。

灼熱地獄では常に6000℃の火が燃えているが、燃料費が大変らしい。

血の池地獄では、大量の血が注ぎ込まれており、デカ山は血液銀行に売ったらいくらになるかとエンマに聞いて、計算させようとする。

エンマの妙な調子の良さにベラボーの苛立ちが募り、「もっとすごいものを見せなきゃだめだ」とエンマを叱る。

そこで見せたのは、エンマの取って置き黒縄(こくじょう)地獄。言い伝えだと、殺生の罪人に対して絶望的な苦しみを与える地獄だが、エンマ様は曲芸師のように縄を渡って、一郎たちの喝采を浴びる。

ベラボーは、「ちっとも怖くない。お前やる気があるのか」と怒り狂うのであった。


この日も遅くなり、皆は家に帰る時間となる。しかしタウンを出るためには「じょうはりのカガミ」のテストを通過しなくてはならない。まずは正直者の代和木(よわき)が、テストを受けると、難なく通過。

彼が友だちの家を回ってくれて、帰りが多少遅くなっても大丈夫のように説明してくれる。彼のおかげでひとまず皆はカガミのチェックを受けなくても済む。

すっかり開店休業状態となった地獄で、ベラボーが「カガミが壊れてんじゃない」とスイッチを押すと、じょうはりのカガミいっぱいに鬼の顔が写し出され、こう告げる。

「訳もなく人を疑い、裸にし、地獄を作って脅かした。ベラボーは悪い奴だ!!」

何と、特大ブームランがベラボーに突き刺さってしまったようだ。


「嬉しやな、仕事ができましたでえ」と、エンマと牛頭馬頭はベラボーを追い立て回す。甲羅に身を隠すベラボーだが、捕まって油地獄に落とされることに。なお、先ほどまで暇だったので、油地獄ではコロッケを揚げていた模様・・・。

さすがの熱さに飛び出したベラボーは、エンマたちから逃げ回る。「キテレツ」の作った地獄は見掛け倒しのアトラクションだったが、イメージボタンで作られた地獄の設備は本物のようである。

自分の作った鬼たちに追い回され、「何とかしてえ」と半べそ気味のベラボー。一郎が助けに入ろうとするが、すっかり調子づいたエンマに凄まれて、撤退する羽目に。


そこでイメージボタンを使って、鬼退治できそうなキャラクターを生み出す。桃太郎と金太郎、あとは鬼退治で有名な坂上田村麻呂だろうか? もう一人普通の男性がいるが、モデルは不明・・。

そんな中、ベラボーは地獄から逆流して、三途の川へと逃げ出していく。ここを渡れば常世に戻ることができる。ところがそこに、しょうつか(正塚)の婆さん、奪衣婆(だつえば)が登場。

「人の着物を取るのが仕事でね」と言いながら、ベラボーの服である甲羅を剥がそうとする。ベラボーはたまらず大声で助けを呼ぶが、一郎たちは「一度見たかったんだ」と傍観の構え。

「そんな薄情なーっ」と泣き叫ぶベラボーなのであった。


地獄を作った者が地獄に落ちる。そしてやたら陽気なエンマ様。本作と「キテレツ大百科」の『地獄へいらっしゃい』では、全く同じアイディアが使い回されている。

意外な二作品の共通点が見つかって、何だか嬉しく思うのでありました。




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