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子供たち歓喜の秘密基地・ベラボータウン/藤子Fの地下ワンダーランド③

「藤子Fの地下ワンダーランド」と題して、F先生が愛した地下世界を描いた作品を見ていくシリーズも、3回目となる本稿で一区切り。今回は、かなりマイナーな作品だが、地下世界で子供たちが作り上げた仮想の町・ベラボータウンを舞台にしたドタバタコメディの「ベラボー」を取り上げる。

ちなみにこれまでの作品は、下記の目次のリンク先から飛んで下さい!

まずは最近の地下のお話から。

昨年、調布市の住宅街で道路が突如陥没するという事件(事故?)が発生した。原因はなんと地下40メートルの深さでの、外環道トンネルのシールド工事であることが判明した。シールドマシンが掘削していったルート上で、空洞が多数発生し、その影響で陥没が起きたということである。

「大深度地下法」に拠れば、地下40メール以深では地上権は主張できない。つまり勝手にその深さの地下を掘っても、地上に住む人たちには金銭的な補償はされないのだ。よって、住民にとっては工事自体が寝耳に水であったと思われる。

このように、地下世界は地上からは伺い知ることができないので、ある種ブラックボックスのようなものだ。例えば道路を歩いていても、どこに上下水路が通っていて、電話線・電気・ガス管などがどのように張り巡らせているのかもさっぱり分からない。たった数十センチの深さでも分からない。地下とはそういう世界である。

地下は見えないゆえに、謎めいており、古来からの伝説や、SFの格好のタネとなっている。地下都市アガルタから徳川埋蔵金まで、創作としても都市伝説としても、地下を舞台とした物語は、私たちの興味をそそるようだ。

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本作の「ベラボー」は、そうした地下世界を舞台とした、日常系SFコメディとなっている。

まずは簡単に「ベラボー」の概要について記したい。

「ベラボー」「まんが王」1968年7月号~1969年11月号(全18話)

掲載誌の「まんが王」は秋田書店から出されている月刊誌で、かつては「漫画王」という名称で刊行されていた。藤子不二雄両氏は、トキワ荘時代からこの雑誌で活躍をしていた。

まんが王からの連載依頼を受けた時、F先生は「週刊少年サンデー」で「21エモン」を連載し、小学○年生では「パーマン」から「ウメ星デンカ」へと連載が引き継がれようとしていた。

週刊誌で月4本、と月刊誌で月6本という連載量を抱え、新規の連載を受ける余裕はなかったが、かつての恩義もあって断れなかったようだ。そこで手塚治虫先生や安孫子先生のアシスタントに携わっていたしのだひでお氏に、作画協力を依頼する形で何とか連載にこぎ着けたという。

基本的にネームはF先生が描かれているが、キャラクターなどの作画については、しのだ氏が手掛けており、Fっぽくもあり、Fっぽくもないという異色の絵柄となっている。

僕はこの作品については「藤子不二雄ランド」の巻末連載で見かけていたが、あまり熱心に読んではいなかった。しかし、改めて大全集で一巻にまとまった作品を読んで、その魅力を再確認できたことは非常に良かった。

タイトルにあるベラボーが主人公ではあるが、物語は子供たちが自分たちだけの秘密の地下の町で、町の住民として遊ぶ。町長を決めて町の秩序を守る。子供たちによる大人ごっこのようなお話だ。

前回の記事で紹介した、オバQの『ぼくらのゴーストタウン』の一部分を膨らませたような話で、おそらくこれを元ネタにして「ベラボー」が発案されたと考えられる。

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「ベラボー」は全部で18作描かれたが、今回は文字数の関係から、第1話目を紹介していきたい。

『ベラボー登場』「まんが王」1968年7月号

「ベラボー」でののび太役は、浦島一郎という名前。ベラボーはカメの形をした宇宙生物であることから、名付けられた少し安直な名前である。

一郎のお父さんが冒頭から出てくるが、この人が現実的・合理的の人物で、他のF作品にはあまりいないタイプとなっている。最初の会話が面白いので抜粋してみよう。

「大体今の世の中にだね、オバケが出てきたりだね、マントをつけた子が空を飛んだりね、そんなバカげたことがあると思うかい」

一郎は、「それはマンガだから」、と言い返すが、すぐさま

「だからマンガはくだらないというのです!」

とむべもない。どうやらマンガは非科学的で読むのは無駄だと言いたいのである。そして命令はしないが、漫画は捨ててサッパリしなさい、と説得してくる。

もちろん、この父親が言っているマンガは「オバケのQ太郎」と「パーマン」のことを指す。他にもセリフでは言及されていないが、部屋には「怪物くん」や「名犬タンタン」と思われるマンガも置いてある。つまり、冒頭から藤子マンガを敵と思っている人物を登場させているのである。

マンガ=役に立たない、というこの父親の思想は、この時期藤子先生たちが実際に言われていたことであるように思う。敵対心のようなものが見え隠れする。

ちなみに本作では父親が小言めいていて、母親はおっとりしているキャラクターとなっており、F作品では珍しい父母像となっている。

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マンガを捨てたくはない一郎は、隠し場所を探して家を出る。すると亀の甲羅が道端に置いてあって、これに躓いて倒れてしまう。すると、甲羅から顔を出したカメに「気をつけてくれよ」と注意される。これがベラボーとの最初の出会いだ。

その後、ベラボーが友だちたちに捕まり、ラグビーボールのような扱いを受けているのを見つけた一郎は、持っていたマンガ3冊とで交換して助けてあげる。この時、ジャイアン的なガキ大将・デカ山が登場。このデカ山とは幾度となく揉めたり、先々では「ベラボータウン」の町長選挙で競うことにもなる‥。

ベラボーを救い浦島太郎になって気でいた一郎。しかし甲羅から首を出したベラボーは、「良く寝た」とだけ言って、風船のように膨らんで空を飛んで行ってしまう。

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不可思議な現象を見せつけられた一郎は、すぐに帰宅して百科事典で調べることにする。しかし当然辞典に載っている訳もなく、父親に聞くことに。しかし、口をきいて空を飛ぶ亀と聞いた父親は激怒。一郎が隠そうとしていたマンガを見つけて、こんなものを読んでいるからデタラメを言うのだと、難癖をつける。

「父さんはな、科学で証明できないことは信じないのだ」

非科学的なことを愛でるF先生の主張とは真反対の意見を持つ父親。一郎にとっても、F先生にとっても受け入れ難い人物像である。

「そんな非科学的なカメがいるならここに連れてこい」ということで、マンガを人質に取られた一郎はベラボーを探しだすことにする。すると、空飛ぶ円盤を探しているベラボーと再会するのだが、ベラボーは不思議な動きをしあと、すっと地下へと消えていってしまう。一郎は後を追って、ベラボーがしたように赤い石の前でトントンと跳ねると、あら不思議、空気のように地面を突き抜けて行って・・・辿り着いたのは、地底の大グラウンドであった。

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広大な地下世界を探し歩くと、部屋の片隅でベラボーが「ピロロロロ」と泣いている。なぜ泣いているのかというと、実はベラボーは宇宙人の同伴者(ペット?)で、1万5000年かけて地球にやってきたのだが、宇宙人は戸締りを忘れていたと言って帰ってしまい、地球に置き去りとなったのだと。

途方もない時間をかけて宇宙人がやってきて、すぐに帰ってしまう話というと、「21エモン」の『久しぶりだね5エモンくん』に登場するジュゲム星人を想起させる。


野蛮な星に取り残されたと嘆くベラボーだったが、一応デカ山にマンガ三冊で助けられた恩を返すということで、一郎の父親と会って、人質となっているマンガを取り返すことにする。

マンガの世界を許せない父親とベラボーの対峙。目の前のベラボーを信じることのできない父親だが、ベラボーによって空を飛び、気がおかしくなってしまう。

それでは困ると父親の記憶を消すベラボー。理屈に合わないことが信じられない父親との対決は、次回以降に持ち越しのようだ。

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一郎はベラボーと友だちになろうと提案する。ベラボーは、ご主人が3万年経たないと帰ってこないということで、その提案を受諾。代わりに地下の別荘を貸してくれると約束する。

巨大な秘密基地を手に入れた浦島一郎。

「この素敵な秘密基地が僕らのものなんだね。ここでうんとマンガを読むぞ!」

と息巻くが、ベラボーには

「ユメがないな。もっとでっかいこと考えろよ」

と諭されるのであった。

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「ベラボー」は第二話『すてきな地下基地』で友だちを地下世界に呼び寄せ「ベラボータウン」を作る。ベラボーが一郎を町長に任命し、無理やり皆に尊敬させる、というお話。

第三話『ベラボータウン完成』では、一郎を町長として認めたくない、ガキ大将・デカ山との対決が描かれる。

この辺りをもう少し詳しく説明したいところだったが、各話32ページの大ヴォリュームの作品ではあるので、ひとまず「ベラボー」の記事はここまでとしたい。変に勢いのあるF作品の中でも異質な作品ではあるので、また別の切り口で紹介をしたいと思う。

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