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二人の喧嘩から見えてきた事実とは?『ハツメイカーで大発明』/ドラとのび太の大げんか③

ドラえもんを時系列(発表順)に読むことで色々と発見があるのだが、ある時、1981年にドラえもんとのび太が大喧嘩するエピソードが3本続いているのに気がついた。

特に前回記事にした『ションボリ、ドラえもん』と本稿で見ていく『ハツメイカーで大発明』は、展開や構造がかなり似通っており、姉妹編と呼べる作品となっている。

『ションボリ、ドラえもん』では、ドラえもんとのび太の喧嘩が絶えないので、セワシ君がドラミちゃんを送り込んで代わりに世話をさせようと考えるお話。

ドラミはのび太を自主的に行動させる道具の使い方をするのだが、これによってのび太は生き生きした一日を過ごす。その様子を見てドラえもんは未来に戻ろうとするが、それを聞いたのび太は「帰ってほしくない」と泣きながら引き留めるのだった。

このエピソードでは、道具の使い方はドラミちゃんとの方が相性良かったのだが、それとは関係なくドラえもんと一緒にいたいというのび太の意志が明確となる。単純に世話をしてもらいたいのではないのだ。


また、考えてみれば、ドラえもんの定番パターンは、

のび太が困る →助ける道具を出す →別の使い方をして困る結果になる

となることが多くて、その過程でのび太はしばしばドラえもんと衝突する。

その衝突を面白おかしく描いたのが『キンシひょうしき』である。のび太の道具の使い方が原因で喧嘩に発展するのだが、のび太の挑発に乗ってお世話係の立場を忘れて喧嘩してしまうドラえもんのせいだとも言える。

本作を見る限り、ドラえもんの中でも、既にお世話する・しないの間柄に留まっていない関係性が生まれているように思われるのである。


『ハツメイカーで大発明』
「小学三年生」1981年10月号/大全集12巻

それでは続けて『ハツメイカーで大発明』を見ていく。本作も大喧嘩→ドラミちゃんが仲裁という流れが出てくるし、ドラミちゃんの道具の使い方はのび太の自主性を重んじるという点は一緒。しかし話は全く別方向へと進んでいく。

のび太は「ジャイアンやスネ夫に苛められた時に、サササッと逃げ出す道具が欲しい」とドラえもんに要求する。呆れたドラえもんはいつものように毒舌で言い返す。

「そんな道具よりも、苛められないようにしっかりしろよ。でないと、いつまでたっても意気地なしで、のろまで、みんなに馬鹿にされて…」

この発言にのび太が反発し大喧嘩に発展。「もう面倒見切れない」とドラえもんは未来に帰ろうとして、「のび太は帰れ二度と来るな」と追い返す。前回を上回る対決っぷりなのである。

のび太からすればドラえもんは最後の頼りの綱だが、そこで毒を吐かれると酷く気分を害してしまうのだ。

未来でもドラえもんの怒りは収まらない。セワシは「おじいちゃん困っているだろうな」と同情するが「うーんと困ればいい」とドラえもん。のび太が泣いて謝らない限り帰るつもりはないという。

この「泣く」というのが後半への布石のセリフとなっている。またそういうドラえもんに汗の一本を流させて葛藤を表現している点も見逃せない。

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ジャイアンたちに追い回されて弱るのび太の元にドラミちゃんが現われる。のび太は「これから面倒を見て欲しい」とお願いするのだが、ドラミは「それは無理よ」とあっさり拒否。落ち込むのび太にドラミは「ハツメイカー」という機械を出す。

欲しい道具の作り方を教えてくれるというDIY推奨のひみつ道具である。完成品が出てこないのがミソで、「手作り説明書」とどんな材料でも入っている「材料箱」を使ってのび太自身が自作しなくてはならない。あくまでドラミの道具は、困った人を間接的に後押しをするタイプが多いようである。

のび太は「いじめっ子に追われたらパッと逃げられる道具が欲しい」と「ハツメイカー」に要望すると、「ゴキブリぼう」という道具の作り方説明書が出てくる。サササッと逃げ出せる道具が欲しかったのび太にとって、ジャストフィットの道具である。

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ドラミに励まされて「ゴキブリぼう」は見事完成。これを使ってまずはお説教をしようとするママからサッと逃げ出す。外ではジャイアンとスネ夫が待ち受けているが、こちらもサッサッと移動することで全く捕まらない。のび太は自分で作った道具でジャイアンたちを負かして大満足。

ドラミは「なるべく早くお兄ちゃんと仲直りしてね」と言って未来へと戻っていく。


一人になったのび太。続けて空飛ぶ機械を作ろうと考える。この時「タケコプターなんてつまらない」と軽くドラえもんをディスる。ハツメイカーが出したのは「空中歩行機」の作り方説明書。

完成品はその名の通り空中を歩ける道具だが、両足を常に動かし続けて飛ぶので結構疲れるのが難点。飛んでいるのび太を羨ましがる友だちにはる夫と安男の姿が見える。

のび太は何でも発明できると豪語して空を飛び回るのだが、しずちゃんから「一年中いつでも見られる花壇が欲しい」と要望されて引き受けることに。

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一旦家に戻るとそこへドラえもんが戻ってくる。ドラミにうるさく言われて帰ってきた、謝れば許すという。ところが「ハツメイカー」が軌道に乗り出しているのび太は「何で謝るんだ」と言い返してまたも大喧嘩

のび太はしずちゃんの依頼に従って「オールシーズン花だん」を作成。春夏秋の3シーズンの気候が常に保たれる仕組みの道具である。

他にもどんどん道具を作ろうと家に戻るのび太の前にスネ夫が現れる。のび太を取り逃がした責任を押し付けられてジャイアンに暴力を振るわれたので、仕返しがしたいのだという。のび太は「お前も僕を苛めた」ということで拒否するが、発明料1000円を提示され「転ぶ」。

スネ夫の要望は「どんな強いいじめっ子でもやっつけられる道具」。これに従って「ファイタースーツ」を作るのび太。見た目はガンダムのモビルスーツを少しかわいくした感じ。

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ファイタースーツで土管を一瞬で壊してしまう光景を陰で見ていたジャイアンは震えあがり、のび太に「どんな強い相手でもいじめられる道具」を出すよう泣きつく。「10円やる!断ったらぶん殴る」と相変わらず滅茶苦茶である。

仕方なく「ハツメイカー」でジャイアンの要望に応えると、スネ夫とよく似たモビルスーツ、じゃなかったファイタースーツが完成する。「10円払ったのに負けたら許さない」と脅してジャイアンは空地へと向かう。

絶対に負けない道具同士の戦いとなるわけだが、これはまさしく故事成語にある「盾と矛」。「矛盾」している一戦となる。困り切ったのび太の所にドラミが再びやってきて、事の経緯を聞くや、とにかく様子を見に行こうと空地へと向かう。

ファイタースーツ同士の死闘が始まり、ドシンドカンと激しくぶつかり合う二人。ドラミもこの事態において「手に負えないのでお兄ちゃんに頼んで」と白旗を上げる。

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そこで「ハツメイカー」にドラえもんと仲直りする機械を求めると、「ドラえもんとなかなおり機」の設計図が出てくる。用意するものはランドセルと玉ねぎ。仕掛けは簡単で、手をつけたランドセルを背負うと、その手でみじん切りの玉ねぎの入ったボールに顔を押し付けて、強制的に涙を流させるというもの。

これを使って、「泣いて」ドラえもんに謝って、ようやくドラえもんの許しを得るのだった。

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ドラえもんに事情を話すと、「絶対に負けない機械同士の戦いだって!」と衝撃を受け、嫌々二人の仲裁に入ろうにも蹴られて相手にされない。そこで「応援を呼んでくる」とどこかへ行ったかと思うと、ジャイアンとスネ夫の母親を連れてきて、二人の喧嘩を止めさせるのであった。

「やっぱりドラえもんは頼りになるなあ」とのび太はドラえもんにどら焼きを差し出して感心する。今回の仲裁はひみつ道具に頼らないアイディアで決着させたわけで、このあたりの「人間力」がドラえもんの魅力なのだとわかる。

ところが母親に叱られたジャイアンとスネ夫はドラえもんを逆恨みして、仕返ししようと家の前で待ち伏せする。ドラえもんはたまらず、のび太の作った「ゴキブリぼう」を貸してと頼み、のび太は「頼りないなあ」と呆れるのであった。

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のび太とドラえもんの大人げない喧嘩エピソード3本を見てきてわかったのは、ドラえもんの最大の魅力はひみつ道具ではなく、人間力なのだということだった。

人間らしい2人だから喧嘩もするし、厚い友情も芽生えるのである。


「ドラえもん」考察たくさんやってますので、是非遊びに来てください。


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