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のび太のパパの名前が違う?『地下鉄を作っちゃえ』/地下鉄作っちゃえ②

新しい電車路線の敷設計画が発表されると、今度はどことどこが繋がるんだろうと、少しワクワクする。けれど、その数は僕の子供の頃に比べればぐっと減っている印象を受ける。

一つには路線網が広がり、渋滞が解消されつつあることだったり、地上を走る路線だと用地買収の高騰などがその理由だと考えられる。

地下鉄についても地上ほどではないにせよ、敷設用地を確保するにもお金がかかるし、浅い地下は何かしらで使われてしまっているので、深く掘らなければならなかっりして、やはり建築費用の高騰の問題がのしかかっている。

いくつかの地下鉄の延伸計画は生きているようだが、大江戸線や副都心線が開通したような驚きはもう味わえないかと思うと残念である。


さて、東京のみならず、全国の主要都市で地下鉄がバンバン開通していた1960年~70年代に、藤子作品では数作地下鉄を作るお話が出てくる。特に「オバケのQ太郎」と「ドラえもん」で、わりと有名な2作品があるので、こちらを取り上げていきたい。

前回の記事では、オバQの『Qちゃん鉄道』という作品を紹介したが、これは歩いて学校に行きたくないという正ちゃんの願いを叶えるべく、Qちゃんが大量のモグラを使って地下鉄を掘ったお話であった。


本稿ではパパの満員電車による通勤地獄を解消するべく、会社までの地下鉄を作ってしまおうというエピソードをご紹介していく。

「ドラえもん」『地下鉄を作っちゃえ』(初出:ちかてつ)
「小学一年生」1973年12月号/大全集6巻

コロナ禍で変わったことと言えば、通勤ラッシュの解消が挙げられる。最近は人出が増えているとは言え、以前のようなギュウギュウ詰めの通勤地獄はすっかり身を潜めている。

上の方でも書いたが、通勤ラッシュ解消のために、長年にわたって電車の便数が増えたり、新しい路線が作られたりしたことも功を奏していると言えるだろう。

本作は通勤ラッシュ、通勤地獄が社会問題化していた時期に発表されている点をまずは確認しておこう。


のび太とドラえもんとママで都心のデパートに買い物に出掛けていたが、その帰りにパパと合流して、一緒に電車で帰宅することに。おそらく新宿駅と思しき駅のホームで電車を待つのび太たち。

見切れているが、次の駅が「みなみ・・・」となっているので、おそらくはここは小田急線のホームで、次の駅は「南新宿」のことであろう。

藤子先生は毎日藤子プロに出勤するべく、普通のサラリーマン同様小田急線を使っていたので、その経験が反映されている。なお、のび太たちの隣には石ノ森章太郎先生っぽい男性も立っている。

さて、ホームには人が溢れかえっており、のび太は素朴な疑問が浮かぶ。

「この人たちみんな電車に乗るの?」

そうそう、こののび太の気持ちは良くわかる。ホームには人が溢れかえっているのに、既に満員の電車入ってきた時など、「え、この人たち乗れるの?」って思ってしまう。


案の定、車内押し合いへし合いの帰宅ラッシュに巻き込まれて、のび太たちは悲鳴を上げる。ママも含めて「毎日あんな電車で通っているの」と疲れ果てるが、パパは「慣れてるからね」と涼しい顔。

のび太は帰宅後、パパがかわいそうだということで、何とかしてあげたいと考えていると、何やらグッドアイディアが閃いたよう。それは、パパに地下鉄をクリスマスプレゼントにしようという、スケールのデカイ話であった。


「地面に穴掘って・・」と地下鉄ごっこの延長で考えているのび太と違って、物事が良くわかっているドラえもんは、「無茶な」とそのアイディアにビックリ仰天。「穴掘り機」ならあるけど・・と渋々のび太の計画を実行することに。

さしあたり、庭をスタート地点にして、地下に潜り、会社の方向へと穴を掘り進めていくことに。掘りながら進むので、当然スピードは遅いし、川にぶつかってしまってコースを変えなければならなくなったり、硬い岩盤は機械を休ませながら進行させたりと、前途多難な工事が待ち受ける。

「穴掘り機」から出てみると、のび太は土の中を掘っている音が聞こえる。他にいるわけないとドラえもんは答えるが、果たして空耳だったのだろうか?


その後何日か掛けて、遂に地下鉄工事は終了。クリスマスイブの晩、サンタに扮したドラえもんとのび太が、パパにプレゼントを渡す。なぜかバレバレのサンタの正体に気が付かないパパは、驚きながら箱を開けてみると、定期券が入っている。

この定期券が藤子ファンの間では有名なアイテムで、その理由はのび太のパパの名前と年齢が初めて記されたからである。「うち」と「会社」の往復定期で、「野比のび三殿 36才」と書かれている。

のび太のパパと言えば「野比のび助」として知られているが、最初の段階では「のび三」であった。まだ連載が始まってのび太のパパは、兄弟姉妹の数も曖昧だったりと設定が固まっていなかったのである。


翌朝、パパが出勤するタイミングでのび太たちが「夕べの定期を使ってよ」と促すと、「本当に使えるの」と驚くパパ。

前稿での『オバQ鉄道』では、鉄道の動力源に難ありだったが、今回は未来の技術を持つ頼れるドラえもんがいる。地下には完成した線路と一緒に、一両ではあるが、それなりに立派な電車が用意されている。

ドラえもんとのび太は帽子など被って、すっかり車掌気分。そしてパパを乗せて会社へと走り出す。五分で着くという高速移動で、「これはいいや」とシートに寝転んだりして喜ぶパパ。通勤ラッシュから考えれば、完全に天国である。


ところが、しばらく進むと電車が急停車。外ではのび太たちが掘った線路上に、クロスするように穴を掘り進めている作業員たちが大勢いる。彼らは本物の地下鉄を掘っているのであった。

こうなると別な道を進むしかない。「穴掘り機」に乗り換えて、会社まで穴を掘り進めることに。ところがこれまでの無理がたたったのか、マシンが壊れてしまい、穴掘りはストップ。

手作業で掘ろうとするが、土台無理な話で、すぐに3人は疲れ果ててしまう。のび太とドラえもんは、「僕らが余計なことしたからだ」と大泣きしてパパに謝る。ところが優しいパパのび三は、

「泣くなよ。パパのためにやってくれたんだもの、嬉しいよ」

と逆に泣けることを言って慰めてくれる。


親子の絆が温まったところで、ドラえもんが掘っていた穴がどこかへと繋がりそうだということに気がつく。なんと掘ってきたところの先がどこかの地下通路に繋がっており、上はマンホールになっている。

そして、マンホールを開けると、偶然にもそこは会社のすぐ目の前。泥だらけの格好にはなってしまったが、パパは無事、遅刻することなく出社することができたのであった。


地下の通路を歩いていると、この壁の向こうはどうなっているんだろうと考えてしまうことがある。複雑な地下の連絡路などでは、この真上の地上はどの辺だろうかとわからなくなってしまうことも。

その意味で地下空間は、情報が少なく、そのために「地下の謎」なんていう都市伝説が作られてしまうのかもしれない。

そんなことを考えつつ、本稿の筆を置く。




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