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しずちゃんが何度も直視したモノとは?『無人島の大怪物』/下ネタもあるよ②

前回の記事で、「下ネタ」の語源が落語にあること、藤子先生は落語が大好きだったこと、前稿で取り上げた『倍速』の構成・オチがまるで落語そのものだったこと、を書いた。


藤子先生は下ネタを全くタブーにしておらず、国民的漫画である「ドラえもん」においても、細かく下ネタを突っこんでいる。特にしずちゃんに対するセクハラ?だったり、のび太がお漏らししたり・・・なんていうギャグがあちこちで登場してくる。

本稿で取り上げる『無人島の大怪物』は、そんなドラえもんの中でも下ネタをひたすら天丼(繰り返し)させる作品で、その徹底ぶりがかなり可笑しい。


『無人島の大怪物』(初出:変身リングとカード)
「小学四年生」1981年9月号/大全集11巻

のび太の苦手なもの、それは泳ぎである。そして泳げないことをバカにされるのも大嫌い。カナヅチコンプレックスなのである。

そんなのび太に、ジャイアン・スネ夫・しずちゃんが訪ねてきて、ドラえもんに頼んでみんなで海へ遊びに行こうと誘われるのだが、とっさにドラえもんは留守なんだとウソをつく。

するとタイミング悪くドラえもんが「僕に用?」と顔を出す。しずちゃんが「どこでもドアを貸して」と頼むと、のび太は「あれは今壊れてるんだよね」とドラえもんに意味深な目配せ。

ドラえもんはのび太の視線には全く気が付かず、みんなで海へ行こうと乗り気になってしまう。のび太の以心伝心は通用しないのであった。


ということで、5人で無人島へ。さっそくジャイアン・スネ夫・しずちゃんは水着に着替えて、海水浴の準備万端。3人は全く着替える様子がないのび太を見て、「そうか!!泳げないんだっけ!! 誘って悪いことしちゃった」と小馬鹿にして、ワイワイ海へと入っていく。

のび太は「だから嫌だったんだ!!」と悔し泣き。気持ちは分かるが、ロクに練習せずに泳げるようにはならないのだ。運動神経と努力の両方のないのび太、自業自得なのである。


そこでドラえもんが出した道具は、「変身リングとカード」・・・だったのだが、「これは簡単すぎる」と気が変わり、これを放り投げて「こっちがいい」と別の道具を取り出す。

それが「スパルタコーチ」という道具。金具のベルトとボーリング玉のような球体がコードで繋がっている形状で、一見泳げるようになる道具には見えないのだが・・・。

ベルトを腰にカチャと巻き付けると、球体がのび太の体を引っ張るように浮き上がり、そのまま海の中へと飛び込んでいく。いきなり海の真ん中でもがかせて、泳ぎの特訓をさせるという超スパルタな道具なのであった。

それでも泳げないのび太はブクブクと海中に沈んでいくのだが、この道具は溺れる前に陸上へと引き上げて、球体がお腹を押して水を吐かせてくれる。そして復活したところで、再び海の中へと飛び込ませるという、恐ろしくエンドレスな仕掛けとなっている。

嫌がるのび太が猛抗議するが、ドラえもんは「これぐらいのことしないと、君は永久に泳げないぞ!!」と、こちらもスパルタ。そして「可哀想だが君のためなんだ」と言って、のび太を放ってしずちゃんたちのところへと行ってしまう。


のび太は陸上に上がった瞬間でベルトを外そうとするが、外れない。そこで手近にあった岩を球体にぶつけると、機械が壊れてしまい、ようやく「スパルタコーチ」のド級スパルタから脱出できたのであった。

のび太は最初にドラえもんが投げ捨てていた道具のことを思い出す。捨てた場所を探すと、「変身リングとカード」がすぐに見つかる。

カードには色々な動物が描かれていて、このカードをセットしてリングをくぐると、その動物に変身できるという道具であるようだ。説明書によれば、効果は15分続くという。


魚のカードを見つけたのび太。これで泳げるということで、下半身だけをリングにくぐらせると、まるで人魚のようになる。説明書には裸になれとは書いてなかったが、のび太はなぜかこの時、パンツを脱いで魚になっている。

人魚となったのび太は、海中を魚のように泳ぐことができるようになる。海岸では、ドラえもんも混じって、みんなで楽しそうにボール遊びに興じている。

「僕をほったらかして、あんなに楽しそうに・・・」

と岩陰から怒りに震えるのび太。

そして「見てろ!!」と水中を泳いで近づき、スネ夫の足を引っ張る。続けてジャイアンの足も引っ張り、二人は軽く溺れる状態に。そこでのび太が「僕だよ」と顔を出し、怒る二人をよそにのび太は泳いで遠ざかっていく。

ところがここで変身して15分経過し、下半身が魚から人間へ・・・。そこで溺れてしまい、ドラえもんに引き上げてもらうのだが、のび太は全身素っ裸。顔を手で隠して照れるしずちゃん、大笑いのスネ夫とジャイアン。のび太は、たまらずその場から逃げ出していく。

なお、しずちゃんへの下半身攻撃は、まだまだ序の口・・・。


ドラえもんは「変身リングとカード」を使ったのだと察知し、のび太を追いかけていくが、のび太はカードで全身ネズミに変身すると、ドラえもんはあっけなく気絶してしまう。そしてのび太は、「たっぷりジャイアンとスネ夫に仕返しをしてやる」と、意気揚々なのであった。


残された3人。お腹が減ったということで、スネ夫とジャイアンが木の実か何かを探そうと、森へ踏み込んでいく。しずちゃんは「猛獣でもいるんじゃないかしら」と心配したので、海岸でお留守番。

森へ入っていく様子を見ていたのび太は、百獣の王ライオンに変身。一人になっていたスネ夫に襲い掛かり、スネ夫の海パンを引きちぎってしまう。

ライオンが出たと逃げていくスネ夫。下半身のアレが丸見えのまま、しずちゃんの方向へキャーと走っていき、しずちゃんも全裸のスネ夫を見てキャーと逃げていく。


悲鳴が聞こえたようだと立ち止まるジャイアン。どうせのび太がミミズでも見たんだろと嘯いていると、のび太が今度は大蛇に変身。シャーッとジャイアンの海パンを食い破り、ジャイアンもギャーと全速で逃げていく。

「だ、だ、だ、大蛇!!」と叫びつつ下半身丸出しで、しずちゃんの方向へまっすぐと走り込んでくるジャイアン。完全にアソコをガン見してしまったしずちゃんは「もうイヤ!!」と顔を手で隠す。

こんな時しずちゃんが余裕のある大人だったら、武さんの蛇は小さいのね、何てジョークで返したのだろうか。・・・そんな訳ないか。


大蛇だライオンだと下半身丸出しで騒ぐスネ夫とジャイアン。「こんな島嫌よ、帰りましょ!!」と音を上げるしずちゃん。3人はどこでもドアのあった場所へと走っていく。

3人が逃げていくコマを良く見ると、スネ夫とジャイアンは葉っぱを下半身に巻きつけているように見える。急ごしらえの天然パンツであろう。


コンドルに変身し、先にどこでもドアのあった場所へ飛んでいくのび太。「僕をバカにした罰だ」と言ってドアをどこかへと隠してしまう。どこでもドアが見当たらず、「帰れなくなった!!」と泣き出す3人。

これでのび太の仕返しは一応完了したはずだが、ここから調子に乗るのが彼の懲りないところで・・・。

どこでもドアで家に戻り、ママからおやつに梨を貰う。一個自分で食べた後、残りを持って無人島に戻るのび太。腹を空かせているジャイアンたちに、「食べな、野生の梨を見つけたんだ」と言って渡す。


帰れなくなってパニックに陥っている三人は、ドアがない、ドラえもんがいない、ライオン、大蛇、と大騒ぎ。のび太はここで、「狼狽(うろた)えるな」とピシャリ。そして、よくぞここまで言えるというような、恥ずかしい励ましのセリフを紡ぐ。

「ピンチの時にこそ一人一人の本当の姿が現れるものさ。どんなときも勇気をもって進めば、必ず道は開けるのだ!!」

と、松下幸之助もビックリな演説をぶつ。ところがしずちゃんにはこの空疎なセリフが響いたようで、「頼もしいわ」とのび太を手を取る。「のび太のくせに偉そうに」と納得のいかない、ジャイアンとスネ夫。


梨を食べて落ち着きを取り戻した一行は、ライオンや大蛇がいるはずがなく、腹ペコで幻覚を見たのだということに記憶がすり替わっていく。

のび太はもっと脅かさないと駄目だと考え、一人探検だと言って森へと向かう。今度は恐竜(Tレックス)に変身して、三人を脅し、そこへのび太が登場して恐竜をやっつける、というシナリオを思い浮かべる。

この計画を実行するには、もう一人恐竜に変身する役が必要。そういうことで、ドラえもんを恐竜に変身させて八百長試合をしようと考える。この時、のび太は変身直前なので、素っ裸であるのにご注目。服を着ぬまま、ドラえもんを探しにいくのび太。


ドラえもんが気絶していたあたりに、ドラえもんの姿はない。すると一体の恐竜が背後からのび太に迫ってくる。ドラえもんが先にリングをくぐったのだと思ったのび太は、恐竜に八百長試合の話題を話しかけると、そこへドラえもんが「勝手なことするな」と言って姿を見せる。

・・・すると、この恐竜は・・・?本物??

ギャアーアーとこれ以上ない悲鳴を上げて逃げ出すのび太。ドラえもんを恐竜がいまにも食べようというところで、ドロンと姿を小さなトカゲに変える。どうやら、のび太がセットしておいたリングをくぐったのは、トカゲだったのだ。


悲鳴を聞いてしずちゃんたち3人が集まってくる。すると、気絶したのび太が仰向けにひっくり返っており、完全に下半身も露出している。「小さなトカゲを見てひっくり返っている」とバカにして笑うスネ夫とジャイアン。

もう4度目となる同級生男子の下半身を間近で目撃したしずちゃんは、「も~、いやいやいやっ」と顔を赤らめて叫ぶのであった。


なぜか全裸にならないと変身できないひみつ道具。同級生3人の股間を繰り返し直視させられるしずちゃん・・。

夏休みを使っての無人島での海水浴という、場合によっては大長編にも繋がりそうな中編(21ページ)だが、構成としては、しずちゃんが男の子のアソコを見て叫ぶというシーンの繰り返しという、見事な「下ネタ」に終始した一本であった。



「ドラえもん」について語っています。


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