のび太VS.ジャイアン、正義の押し売り対決!『スーパーダン』/正義のヒーローごっこ①

藤子F作品にはヒーローを主人公にしたお話がとても多い。

「パーマン」や「パジャママン」がその代表選手だが、A先生との合作である「海の王子」もヒーローものだし、海の王子に連なる「ロケットけんちゃん」などのSF科学シリーズも、ほとんどが正義のヒーローが悪の敵と戦うという物語構成となっている。

変化球ではあるが、「中年スーパーマン佐江内氏」や「ミラ・クル・1」、歪んだヒーローを描いた『ウルトラ・スーパー・デラックスマン』という怪作もある。


その一方で、自分にはたいした力はないが、正義のヒーローになりたいと願う人たちも数多く登場する。むしろそっちの方が多いような気さえする。

思えば、幼少期の頃はヒーローごっこが遊びの定番であった。仮面ライダーごこ、ウルトラマンごっこ、パーマンごっこ・・・。いつの世の子供たちも、ヒーローに憧れ、できることならスーパーパワーを手にして、悪と戦いたいと思うのが普通なのだ。

子供心を掴む名人の藤子F先生は、当然子供たちが抱くヒーロー願望をテーマとしたお話や、ヒーローごっこを題材とするエピソードをふんだんに描いているのである。


ちなみに、ヒーロー願望をテーマとして、2015年には『 のび太の宇宙英雄記(スペースヒーローズ)』というオリジナルのドラ映画が作られている。

この作品は、藤子作品群において、正義のヒーローになりたいというプロットが多数残されていることから発案されたものと思うが、着眼点が実に素晴らしい。良くわかっていると、上から目線で評価させていただきたい。


さて、これから何回かに渡って、「正義のヒーローごっこ」と題して、正義の英雄を演じる人たちのお話を取り上げていく。

ただの非力な一般人(?)が、ヒーローに憧れて、無理矢理めにヒーローを演じてみた結果、どんな顛末が待ち受けているのか?様々なバリエーションをご堪能いただきたいと思う。


「正義のヒーローごっこ」第一弾はとして、「ドラえもん」初期の名作『スーパーダン』から見ていこう。

「ドラえもん」『スーパーダン』
「小学四年生」1972年5月号/大全集2巻

タイトルとなっている「スーパーダン」とは、当然「スーパーマン」のパロディである。本作は、子供たちはスーパーマンではなく、スーパーダンを好きだと言う世界観であることをまずは確認しておきたい。

まず冒頭でジャイアンの口から「スーパーダン」の特性が紹介される。

「空を飛べばロケットより早く、ピストルの弾丸も弾き返すその強さ、悪を滅ぼす男、その名はスーパーダン」

そして風呂敷をマント変わりにしているジャイアンは、「おれ、スーパーダン」と、すっかりヒーロー気分なのである。

そんなジャイアンを見てのび太は「漫画やテレビを見ると、すぐ真似るんだから」と内心辟易とする。しかしジャイアンは「この人並み外れた強さを、正義のために役立てたい」とどこ吹く風なのである。

そして、「何か困ったことがあれば助けてやる」と、ヒーローの押し売りが始まる。今のところないと断るのび太だが、「俺の腕を信用しないな」と食い下がるジャイアン。人を助けるはずのヒーローが、人を困らせるという皮肉なことになっている。


ジャイアンはしずちゃんやスネ夫たちにも正義の押し売り活動を行い、すべからく避けられて、イライラが募っていく。「ウルトラ・スーパー・デラックスマン」とほぼ同じメンタリティのようである。

このままではジャイアンの暴走が始まり、何かやらせないと八つ当たりされてしまうとスネ夫。そこで彼の提案で皆でくじ引きをして、当たった者が悪者を見つけてくるということになる。

くじ運の悪いのび太は、当然こんな時に限って当たりを引いてしまう。悪者の当てなどないと愚痴るのび太に、スネ夫は「何なら君が小さな子を虐めるとかしてジャイアンにやられろ」などと言ってくる。


困った状況に追い込まれたのび太は、家に逃げ帰りドラえもんに対応策を相談する。するとドラえもんは風呂敷を取り出して、「僕もスーパーダンだから、間に合っている」と断れという。

この何の変哲のない風呂敷は、未来の世界の子供たちがスーパーダンごっこに使うものだという。どうやら22世紀でも「スーパーダン」は人気コンテンツであり続けているらしい。

この風呂敷、子供向けのおもちゃとはいえ、最低限のヒーロー活動は可能な効果がある。

・空を飛べる(地上数十センチ浮かび上がる)
・スピードはとてもゆっくり(歩く方が早いくらい)
・空気銃のたまを跳ね返す(しかしそれなりに痛い)
・レントゲンみたいに物を通して見える(壁に目をかなり近づける必要)

これなら何とかジャイアンにも対抗できるだろう。


さっそくのび太はスーパーダンとなって空き地へと向かう。ジャイアンの姿はないが、スネ夫やしずちゃんたちに「この力を正義のために役立てたい」とヒーロー宣言をする。

弾丸も跳ね返すというので、スネ夫たちは石を投げつけるが、確かにビクともしない(もちろん痛いことは痛い)。そして大きいブロックを投げられ、これを拳で撃破する。拍手喝さいを受けるが、手はヒリヒリしている。

この未来の風呂敷は、ヒーローごっこにはちょうどいいが、実際のヒーロー活動をできるほどの力はないという、絶妙な塩梅となっているようである。


のび太もスーパーダンになったと聞いて「俺の商売敵になる気か!」とジャイアンは激怒。ついにスーパーダン同士、相まみえることになる。

空き地の真ん中で、激突するのび太とジャイアン。激しくぶつかり合った結果、ジャイアンは敵わないと判断して逃げ去っていく。

のび太は「僕が本物だとわかったか」とガッツポーズで勝利宣言するが、鼻血も出ているし全身傷だらけ。スネ夫は「それにしちゃ、やっと勝った感じだけど」と冷静にツッコミを入れるのであった。


何はともあれスーパーダンの地位をキープしたのび太は、「もっと腕を振るいたい、どこか悪者はいないかしら」と先ほどのジャイアンのような、はた迷惑な存在になる。

悪者など身近にいないと、のび太から逃げ去っていくしずちゃんたち。これまたジャイアンと同じように「活躍できないじゃないか」と苛立っていくのび太。

「ウルトラ・スーパー・デラックスマン」ではっきり描かれていたが、非力な人間が思いもよらず力を得てしまった時に、正義の押し売りを始めてしまうというテーマが本作でも描かれているようだ。


活躍したいのび太に、そのチャンスが巡ってくる。「ドロボー」という大きな声が聞こえてきたのである。

「スーパーダンに任せて!!」と言って現場に向かうと、声の主はどこかのおばちゃんで、ドロボーと言うのは魚をくわえて逃げ出した黒猫のことであった。

猫はとある一軒家へと逃げ込む。のび太は「壁を通して見られるんだ」と言って家の中を覗くと、そこはお風呂で怖そうなおじいさんが湯舟に浸かっている。

のび太の声が聞こえたじいさんは、「誰じゃ、いやらしい」と窓からお湯を被せてくる。魚泥棒を追っていたおばさんともどもびしょ濡れに。

黒猫は魚をくわえたまま、家の屋根へと上がっている。のび太も何とか電柱を足場にして屋根の上へと昇る。「フーッ!」と黒猫は毛を逆立てて戦闘モードとなり、スーパーダン(のび太)との対決に。


ゴロニャゴと立ち向かってきた黒猫ともみくちゃとなり、「いてえ」とダメージを受けるのび太。するといつの間にかマントを猫に奪われており、そのまま飛んで行ってしまう。

傷だけらになっただけでなく、屋根に一人取り残されるのび太。おもちゃレベルのスーパーダンとはいえ、猫一匹に敗れるとは・・・。

そんなのび太を見て、「何をやらせてもダメだなあ」と呆れるドラえもんなのであった。


「ドラえもん」には、本作含めてのび太(もしくはジャイアン)がヒーローになりたがるお話が複数存在する。もはや恒例行事と言えなくもない。

本作同様、おおよそロクなことにはならないのだが・・・、それらも次稿以降で紹介していくので、どうぞお楽しみに・・・。




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