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三匹の仲間と、世間知らずの天才パパ。異色のヒーローマンガ「きゃぷてんボン」をご紹介!

小学館から「テレビ教育雑誌」と銘打って、「てれびくん」が創刊されたのが1976年5月(6月号)のこと。

今でも刊行が続いている老舗雑誌だが、子供の頃、親戚の家で定期購入していたこともあり、ほぼ毎月読んでいた記憶がある。

ただ、あまりテレビを見ている家庭でも無かったので、それほど読むところがなく、楽しみはもっぱら「ドラえもん」の新作であった。

そんな「てれびくん」の創刊号から新連載された「きゃぷてんボン」という作品がある。大全集が刊行されるまでは、かなりマイナーな作品の位置づけであったが、極めて藤子F先生らしいテーマが描かれたお話であった。

本稿では本作の概要と、第一話の展開を追いながら、その魅力を語ってみたいと思う。


「きゃぷてんボン」
「てれびくん」1976年6月~10月号(全5話)

本作のジャンルは少年ヒーローもの。発明家であるパパが作った乗り物や不思議な道具で悪者と戦うというお話である。

特徴的なのはパパは天才科学者でありながら、全く社会性がなく、まるで幼稚園児のように人間として未熟者なのである。そして何かの理由で母親はいない、父子家庭なのだが、パパの代わりに息子の方がしっかり者という設定となっている。

この設定を聞いて、藤子Fファンがまず思い浮かべるのは「パパは天才」だろう。まるで子供のように無邪気なパパと、頼りない親の代わりに家庭を支える息子という関係性がまるで同じなのである。

こちらの作品については、かなり前に記事化しているので、宜しければご参照下さい。

「パパは天才」では、基本的にパパの発明品を使った楽しいエピソードが重ねられるのだが、母親の不在がのぼる君に影を落とすシーンが時おり描かれ、これがともかく切ないのである。

それに比べると、これから見ていく「きゃぷてんボン」は、ヒーローものの要素を強めることで、切なさはほとんど見受けられない。

同じような構成の作品ながら、本作と「パパは天才」がこれまで比較されてこなかったのは、二作品の主眼が異なるからなのかもしれない。


「きゃぷてんボン」の主人公はタイトルからわかる通り、ボン君である。いつもヘンテコなヘルメットを被っているが、このヘルメットこそがパパの傑作発明品であり、重要なヒーローアイテムである。

パパの名前は作中では登場しないが、対外的には苗字で丸山博士と呼ばれている。「パパは天才」同様、社会性がゼロの父親で、良くここまで生活してこれたなと感心するほどに、世間を知らない。

「キテレツ大百科」のキテレツや、オバQに出てくる町の発明家エジサンなど、藤子世界の発明王たちは、その天才的頭脳と引き換えに、社会性を失う傾向にあるようだ。


本作は全5回の連載で終わってしまうが、最終回らしい終わり方にはなっていない。まだまだ続けるつもりだったのかもしれない。

ちなみに「てれびくん」では、本作に続けて「ドラえもん」が始まる。「ドラえもん」は連載開始から単行本が発売されるまでは、今のような人気作品にまで成長しておらず、一時は打ち切りの話も出ていたとされる。

ところが、本作連載時の1976年には人気はうなぎ上りとなり、「てれびくん」にも掲載されることになったと思われる。そして、「てれびくん」での最初のドラえもんの連載作品は、妙にぶっ飛んだエピソードだらけとなっている点も覚えておいて欲しい。

また、「きゃぷてんボン」終了と入れ替わるように、小学館から新創刊となった「マンガくん」という雑誌で、「エスパー魔美」の連載が始まる。小学館との蜜月ぶりがよくわかるというものである。


「きゃぷてんボン」の全5話は、藤子先生が幾度も使っているモチーフが使われている。全5話のタイトルとテーマだけまずは抜粋してみよう。

『ボンと三匹の友だち』1976年6月号
『パパ救出大作戦!』1976年7月号・・・「誘拐」
『ゆうれい船のなぞをとけ!!』1976年8月号・・・「ゆうれい船」
『千面相VSきゃぷてんボン』1976年9月号・・・「怪人千面相」
『怪獣のすむ山』1976年10月号・・・「UMA/現代の恐竜」

この内、既に3話目の『ゆうれい船のなぞをとけ!!』は記事にしているので、一応チェックをお願いしたい。

こちらの記事でだいたい「きゃぷてんボン」がどんな作品かは理解できてしまうと思われるが、本稿では簡単に初回をレビューしていく。


『ボンと三匹の友だち』
「てれびくん」1976年6月号(創刊号)

タイトルの通り、本作の主人公であるボンには、三匹の友だちがいる。三匹の仲間を引き連れたチームのキャプテンということで、「きゃぷてんボン」ということらしい。三匹の仲間の話題は、後ほど作品を見ていく中で触れてみたい。

本作はまず、登場人物の紹介から始まる。

学校の帰り道、ボンが帰宅していると、ガールフレンドのみどりちゃんに「宿題を教えて欲しい」とお願いされる。ぼんは、のび太たちとは違って、普段の成績も良いらしい。

そこで帰りが遅くなると、自宅へ電話するボン。本来の家庭であれば、「あんまり遅くならないでね」などと親から声を掛けられるところだが、ボンは逆に電話口でおやつの場所を告げたり、変な人を入れないようにと戸締りを促したり、タバコの火に気を付けてなどと注意をする。

電話の後のボンとみどりの会話から、ボンの家庭は父子家庭で、パパは偉い発明家だが、精神面では丸っきり子供みたいな人物であるということがわかる。


さて、キャメラはパパのいる自宅へと移る。まるで船の前方部分のような風変わりな外観の家である。そこへ一人の男が尋ねてくる。

出迎えたのは、ムックという小さな草のような形態のロボットで、なぜか関西弁でしゃべってくる。埒が明かないので、男は「人間はいないのか」と騒ぎ立てる。

するとここで丸山博士が登場。小柄でちょび髭の白衣姿の中年男性で、出迎え早々に「あんたは変な人ですか」と、男に不躾な質問を投げかける。いくつかのやりとりから、かなりの変人であることがわかっていく。

男は博士が珍しい発明をしていると聞いて訪問したことを告げ、仕事に役立つものがあれば譲ってもらいたいと申し出る。男はパパ念願の発明のお客様であったのだ。


変な人ではないという自己申告を受けて、男を家の中に入れてしまう博士。散らかった部屋を片付けさせたりした後で、いくつかの発明品を紹介していく。

一つ目は7つのレンズのついた眼鏡。これをかけると、7台のテレビで7つのチャンネルを同時視聴できるという。レンズが七個あっても、目は二つなので、あまり意味を成さないような気がする。

二つ目は「あかどめクリーム」。これを塗ると垢が出なくなるので、死ぬまで風呂に入らずに済むという。垢は出なくとも、臭いとか清潔感は失われるような気もするが・・・。

三つ目は「強力ウルトラせんぬきロボット」。2mくらいの頑強そうな巨大ロボットだが、できる仕事はビンの栓を抜くことだけ。しかも抜いた後に、自分でビンの中身を飲んでしまうという。ほぼ何の意味も成さないガラクタなのである。


まるで役に立たない発明品ばかりだが、4つ目に出した道具は「さいみんライト」という、照らすとすぐに眠らせてしまうという懐中電灯。これまでのガラクタとは打って変わって、いきなりノーベル賞ものの発明品である。丸山博士は、やはり天才であるようだ。

男はどれどれとライトを手にした途端、パパとムックを眠らせてしまう。何と男の職業は泥棒で、このライトを使って、銀行や宝石店を狙おうというのである。


ボンが帰宅するとパパが眠っている。起こして事情を聞くと、「さいみんライト」が盗まれたという。みどりちゃんは警察に届けようと促すが、ボンは「悪者は僕が捕まえるよ、僕と三匹の友だちが」と、拳を振り上げる。

三匹の友だちの一人は、冒頭から登場している関西弁ロボットのムック。後の二匹はボンの被っているヘルメットの中にいるという。右耳をポンと叩くと、チチチ・・と超小型の鳥型ロボットが飛び出してくる。その名は「ハミングバード」、二匹目の友だちである。

さらには胸につけていた「マイクロバッジ」を押すと、ボンの体はみるみる小さくなって、ハミングバードに乗り込めるようになる。ボンはムックと共に、泥棒の車を追うことにする。


ムックは匂いに敏感らしく、泥棒のにおいを嗅ぎつけて、後を追う。あっと言う間に追いついて、男の乗せた車を持ちあげてドガンと投げ飛ばす。ハミングバードは、小さくてもかなりの馬力があるのだ。

大破した車から男が這い出てくる。「さいみんライト」を返せとボンが迫ると、男は「これのことかね」とライトを取り出して、光をボンとムックに当てる。二人はあっさりと眠ってしまう。

男は「子供のくせに」とボンのヘルメットを蹴飛ばすのだが、左耳のボタンを押してしまったらしく、ヘルメットからピョンとミミズのようなロボットが飛び出す。

ロボットの名前は「ニョロボ」。ボンの言っていた三匹目の友だちである。

ヘルメットから出てくるときは小型だが、すぐに大きくなる。ニョロニョロとみみずのように動いたかと思うと、棒状になったり、ロープのように長く伸びる仕掛けとなっている。

ボンが眠っている間に、ニョロボは泥棒を捕まえてしまう。とても優れたお友だちである。


これにて一件落着となり、ボンは帰宅するが、「変な人は入れちゃいけない」と命じられたパパは、今度はドアを開けてくれない。ボンは、父親の発明品でヒーロー活動ができる一方で、天然で世間知らずの父親の性格に苦労しているのである。


さて、初回の説明はこんなところ。次稿では、続けて四話目を取り上げる。



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