見出し画像

科学者は幽霊を信じない『ゆうれい船のなぞをとけ!!』「きゃぷてんボン」/幽霊船の謎②

「オバケのQ太郎」でがっつりオバケを主人公にしていたが、基本的に心霊現象や幽霊の類いをテーマとした藤子作品では、「実際に幽霊はいない」という展開となるのがほとんどである。

これを僕は「しかしユーレイはいない」という一大ジャンルと定義して、これまで数多くの作品を記事にしてきたが、前稿からは「幽霊船」に焦点を当てた作品の紹介を始めている。

前回の記事はこちら・・。

「パーマン」では旧パーマンにも『ゆうれい船』という話があったり、この記事でも紹介している『ゆうれい島』というお話もある。正義の味方パーマンも、相手が悪党ではなく幽霊だとビビってしまって勝手が違う・・という展開になる。


本稿では「きゃぷてんボン」という作品に登場する「幽霊船」をテーマとした作品を取り上げる。ズバリタイトルは、『ゆうれい船のなぞをとけ!!』。先の記事で紹介したパーマンのタイトルと全く同じで、内容も若干似通っている。つまりは、藤子先生のお好きなパターンということである。


「きゃぷてんボン」『ゆうれい船のなぞをとけ!!』
「てれびくん」1976年8月号

「きゃぷてんボン」は、藤子Fノートでは初登場のタイトルとなるので、まずは作品全体の概要から語っておきたい。

「きゃぷてんボン」は、小学館の子供向けテレビマガジン「てれびくん」の創刊号から5号連続で連載された。

藤子作品では、異世界からキャラクターがやってくるお話と、自ら発明品を作ってしまうお話の2タイプに大別できるが、本作は後者だ。

主人公となる少年ボンは、母親がいない父子家庭で育っている。パパは天才的な発明をする科学者だが、世間知らずでまるで子供のような大人。パパが発明品を作り、それを使ってボンが活躍するというお話である。

この設定を聞いて「パパは天才」と同じだと思われた方は、ハイクラスの藤子通である。「パパは天才」の記事もあるので、参考までに読んでいただくと良いかも知れない。


「パパは天才」と違うのは、ボンはパパの発明したロボットの「友だち」三匹と共に、事件を解決したりするヒーローものになっている点だ。

一人目の友だちはなぜか関西弁でしゃべる小型犬のようなロボット・ムック。空を飛んだりできるが、ミルクを舐めているシーンもあるので、ロボットというよりはペットのような存在である。

また、ボンはいつも変なヘルメットを被っているのだが、ここから2匹のロボットの「友だち」が出てくる仕掛けとなっている。

右の耳を叩くと出てくるのが、「ハミングバード」という小鳥型ロボット。胸のマイクロバッジを押して小さくなり、ハミングバードに乗って移動することができる。

左耳を叩くとみみずロボットの「ニョロボ」が出てくる。みみずのようにニョロニョロ動いたり、固い棒の形になって攻撃したりできる。

この3つの「友だち」ロボットを駆使して悪者をやっつける、というのが大筋となっている。


ボンには親友の女の子みどりちゃんがいる。彼女はそれほど特徴はないが、一緒に海水浴に行ったりハイキングに行ったりと、とても仲の良いガールフレンドである。

そして肝心な中心人物が、ボンの父親・丸山博士。世間知らずが過ぎて、第一話では不審者を家に入れて、まんまと発明品を奪われてしまっている。第二話では人さらいについて行ってしまい、ボンが救出する、というような事件も起こしている。


さて、そんな設定の「きゃぷてんボン」だが、本作はその第三話となる。

ボン、みどり、パパで海水浴に行く。パパは人魚の足のようなひとりでに泳げる水着を着て、一人はしゃぐ。好奇な目で見られるので、ボンはカッコ悪いということで、海岸から少し離れた場所にある島に行くことに。

パパは初めての海水浴ということで興奮して泳いでいるので、ぼんとみどりはその間に島の探検をすることに。大きな洞窟を見つけて入ると、奥からランプを持った男性が歩いてくる。

少し怪しげな表情の男性で、「日が暮れないうちに早く帰った方がいい」と忠告してくる。その理由を尋ねると、

「夜になるとこの辺の海にはゆうれい船が出るんだ。みんな怖がってこの島に近寄らない」

と脅して、自分も帰るといってモーターボートで陸地へと戻っていってしまう。


パパと合流し、幽霊船の話をすると、そんなもの出るもんか、と否定する。子供っぽい大人ではあるが、一応科学者の端くれなので、非科学的な幽霊は信じていないようである。

そのままこの島で一泊することにする3人(+ムック)。海が見渡せる丘で夕ご飯を食べていると、みどりが海の上で何かが動いたと言い出す。すると、海上では霧のようなモヤが立ち込め、みるみるうちに広がっていく。

そこへ、ボウっと船の影が現われる。幽霊船である。「出たあ!」と驚くボンたち。その中でパパは「しかし、僕には信じられん」とあくまで科学的態度を取り続ける。


そして、誰かが幽霊船に見せかけているんではないか、と推察し、それを聞いたみどりは「さすが科学者ね」と感心する。ボンは幽霊船を調べてみるということで、「ハミングバード」を出して幽霊船へと飛んでいく。

ところがぶつかってみようと、船に体当たりをするのだが、何とすり抜けてしまう。やっぱり本物のゆうれいなのか・・? 慌てて島へと引き返すボン。


島に戻ると、今度はパパが発明品の「真っ暗な夜でもちゃんと写せるカメラ」を取り出し、幽霊船に向かってシャッターを切る。すると、そこには幽霊船の姿はなく、煙しか写っていない。

よく見ると小さな船が写っているので、そこを引き延ばしてみると、それは発煙筒を焚いているモーターボートのようだ。

パパは、発煙筒で煙を出して、そこに幽霊船のスライドを投射したのだと見抜く。このあたり、いつものだらしないパパとは思えない科学者ぶりなのである。


そのボートが島へと上陸してくる。その様子を陰からこっそりと伺うボンたち。ボートから降りた男は何か荷物を持って、日中ボンが見つけた洞窟に入っていく。中には、昼間見かけた男がいて、二人は落ち合う。

2人の会話から、ゆうれい船で脅して島に誰も近寄らせないようにして、この島でピストルの密売をしていることがわかる。

パパはいち早く密売だと見抜くのだが、わかった嬉しさではしゃいでしまい、犯人たちに見つかってしまう。この辺が子供・・。


男二人にピストルで狙われるボンたち。「ハミングバード」を出して対抗しようと考えるが、ピストルの弾がボンのヘルメットの右耳部分を撃ち抜き、発射装置を壊されてしまう。

追い込まれたボンだったが、もう片方の耳からみみずロボットを出して、男たちを撃退に成功する。

ゆうれい船事件は解決だが、ハミングバードが壊れてしまったので、飛んで陸まで戻れなくなっていまった。そこで、パパのカッコ悪い人魚型水着の力を借りて、泳いで陸へと目指すのであった。


幽霊がいると思わせて人々を遠ざけて犯罪行為を行うという展開だったが、これは最近紹介した初期短編の『ゆうれいやしき』と同じネタとなる。


いつもはどうしようもないパパだが、本作では科学者らしい態度で幽霊を否定していたのが印象的。カッコ悪い人魚型水着で、最後は陸に戻れるというオチも効いている。

「きゃぷてんボン」の他のお話も、大いに見所ありなので、また別途一本の記事できちんと紹介したいと思う。



メジャーからマイナーまで藤子作品総登場!


この記事が参加している募集

コンテンツ会議

マンガ感想文

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?