見出し画像

老後の藤子不二雄、トキを語りあう!『光陰』/シリーズ・トキノナガレ④

「時間の流れ」についての藤子作品を見てきたこのシリーズも、今回で一応の一区切り。

同じ、時間の流れというテーマでも、「キテレツ大百科」と「ドラえもん」では正反対の描かれ方をしていることを見てきた。キテレツは「たまにはゆとりを」というテーマで、ドラえもんは「時間を大無駄にしない」というメッセージの作品だった。

『光陰』「S-Fマガジン」1976年7月号/大全集4巻

今回は、異色短編の中から『光陰』という作品を見ていくのだが、「歳を取ってなんだか時間の進み方が早くなっていない?」という、誰もが感じるテーマをユーモアたっぷりに描いている。

だいぶ気が抜けたお話でもあるので、本稿でも軽やかに紹介をしていきたい。

画像1

本作の主人公は二人。藤子不二雄(藤本・安孫子)自らをモデルとした、藤木と安野である。二人ともすっかり老人で、田舎でご隠居暮らしをしている藤木の所に、安野が訪ねていくところから始まる。

二人とも見事に髪の毛がなく、藤木は安野に対して、「見間違えたぜ、つるっぱげになっちゃって」と言っていることから、もうだいぶ会っていないことが想像できる。

二人が昔コンビで漫画家をしていたかどうかは、作中でははっきりとわからない。ただ、二人の会話で話題に上る人名は、実際の人物をもじった名前であるようだ。

藤木の家にいるお嬢さんは、末っ子の久美子だと紹介されるが、実際には地子(くにこ)さんという三女がいらっしゃった。他にも寺山(←寺田)、角石(←角田)、赤坂(←赤塚)といった面々の名前が出てくるが、彼らが漫画家仲間であるかどうかは、はっきりとしない。

画像2

藤木は、静かな田舎暮らしを堪能していて、毎日仙人みたいな生活を送っているという。二人は昔話や近況を語り合い、暗くなっても電灯を点けずに語りある。

だいぶ遅く時間となってしまったので、安野は藤木の家に泊まっていくことにする。

そこで、二人は「時間の流れ」についての話題を始める。

安野「このごろ感じるんだけど、時間の経つのがやけに早いんだよ」
藤木「お前もそうか。本当にビュンビュン時が過ぎていくんだ」

安野にとっては、当然、時間の経つのが「早くなったと感じている」という話題なのだが、藤木は「実際に早くなっている」と主張する。

画像3

そこで安野は、子供の頃の夏休みを例にとって、時間の感じ方について説明する。

小学校の夏休み。前半、8月10日ごろまでの毎日は長く感じられた。ところが後半に入るとあっという間に新学期となる。

続けて人生全体の観点からも説明を加える。

物心ついてから小学校卒業までの12年間。ほとんど無限と言ってもいい長い長い時間だった。人生の折り返し地点を35歳とした時に、35歳からの35年を考えたときに、実感としてはほんの数年しか思えない。

このやりとりから、二人は70歳を超えたあたりの年齢設定だと思われる。

そして安野は、

「つまりはこういうことだ。現体験中の時間は、常に過去の時間の総和と比較される」

と、語る。

これは例えば、10歳の小学生にとっての1年は、物心ついた年齢を4歳とすると、それまでの人生の6分の1に相当する。けれど、70歳から見れば、同じ1年は66分の1に過ぎない。安野たちからすれば、単純計算で1年が小学生の11倍の短さに感じられる、というわけである。

一般的に、歳を取ると月日の経つのが早くなる理由は、上記の説明で済まされることが多いし、実際そういうことなんだろうと思う。

画像4

ところが藤木は納得しない。「絶対に時間そのものが早まっている」と主張を繰り返す。

議論が平行線なので、安野は藤木に「早まっている時間とは何か」と尋ねる。その前提として、時間の考え方がここで整理される。とても分かりやすいので、簡単に抜粋する。

<時間>
①物理的時間・・・天体の運行を尺度にして人間が決めたもの
②感覚的・生理的時間・・・人間の意識の内にある時間

対する藤木は、

「全部ひっくるめてさ。時計の針も生物の生と死も、いや、宇宙全体の盛衰もだ。それらを超えた絶対時間みたいなものがある。それが早まっている」

というようなことを答える。そして、入れ歯を飛ばすくらい興奮して話を続ける。

「俺たちが近ごろ異常を感じはじめたのは、あまりに進み方に感覚がついていけなくなったからだ。今後、時間はますます加速度を増し、急カーブを描いてある日突然終局を・・・」

・・・というような妄想を藤木は抱いているのだという。

画像5

それに対して安野は「相変わらずだな」と笑う。おそらく実際のF先生もこうした妄想のようなSF話を、安孫子先生にも聞かせていたのではないかと想像される。

さて、ここで早くもオチ。冗談話で終わったかと思いきや、藤木は外の様子がおかしいことに気がつく。「動いたような気がする、でもまさか・・・」

二人で庭に出て夜空を眺めると、ぐんぐんと動いていく月の姿。

「やっぱり動いてる。ほら、ほら月が!!」

画像6

光陰矢のごとし。個人的にも、特に子供ができてからの毎年のスピード感たるや、恐ろしいものを感じる。アラフォーなんて言葉ができて、自分がそれだ、なんて思っているうちに、もうアラフィフに突入している。このスピードは、もうゆっくりになることはないのだろうか?

このnoteを始めて200日以上が経過している。これもあっと言う間の出来事だった。作中の藤木のように、本当に実態の時間が早まっているのが正解なのでは?と思う日々である。


藤子作品、たくさん取り上げています!


この記事が参加している募集

コンテンツ会議

マンガ感想文

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?