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パーマン、辞表を提出す。/パーマンの美学①

大げさではなく、僕の人生を方向づけた「パーマンの美学」を描いた作品について、3回に分けて記事にしていきます! 本稿はその第一弾。

承認欲求という言葉を、最近よく耳にする。

一般的に承認欲求は、自己承認欲求と他者承認欲求に大別される。前者は自分で自分のことを認めてあげたいという欲求で、後者は人から認めてほしいという欲求のことである。

多くの人がこうした欲求を持つことは非常に理解できるし、僕もその一人である。自分が苦労して何かを達成した時には、自分で自分を褒めてあげたいし、人からも評価して欲しいという気持ちが浮かぶのは、すごく全うなことである。


ところが、我らがヒーロー「パーマン」は、そうはいかない。

まず自己承認については、パーマン一号=みつ夫は、自分なりに頑張っているのに、優秀なパーやんが良い所を全て持っていってしまう。自分の力がふがいないといつも感じて、ジェラシーを覚えたりしている。

他者欲求については、正義のヒーローということで、活躍すれば皆からチヤホヤされ、尊敬もされるが、その対象はあくまでマスクを被った姿であって、その中身のみつ夫に対するものではない。

みつ夫は、中身の少年としては、平凡な男の子であり、どちらかと言えばクラスの中でもバカにされる方に分類される。普段はバカにされ、マスクを被ると尊敬される。自分がいくら活躍しても、その声援は、マスクの中の人間までは届かないのだ。

かと言って、自分がパーマンの正体だと明かせば、スーパーマンによって「パー」にさせられてしまう。いや、動物にされてしまう。


つまり、みつ夫にとってのパーマン活動は、自己・他者、両方の承認欲求が満たされない、いわば報われない行為なのである。


今回から全3回に渡って、報われないパーマン職に対して、みつお夫がどのように葛藤し、それを乗り越えたいったのか、そういうことが良くわかるエピソードを3本選び、じっくりと検証していきたい。


まず本稿では、自己承認欲求が満たされないことに嫌気を差して、パーマン活動に辞表を提出するという話を見ていく。

『パーマンやめたい』
「週刊少年サンデー」1967年32号/大全集2巻

いつものように(?)銃をぶっ放すギャングたちと戦うパーマンたち。ところが、賢く敵をやっつけるパーやんに対し、パーマン一号はドジを踏んでしまう。

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事件は解決するがパーマンは、パーやんと比較して自分がパーマンに向いてないのでは、と考えるようになる。コピーロボットには、「いないよりまし」、と言われ、ますます傷つくみつ夫。

そこで、みつ夫はパーマンセットをスーパーマンに返し、「辞表」を提出すようと決意する。そうとなったら、形から入るみつ夫は、墨をすって本当の辞表を書こうとする。

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その様子を見ていたブービーとパー子は、パーマンを辞めようとするのを、止めさせようとする。まずパー子は、みつ夫を褒めたたえる作戦にでる。パーやんと比べて落ち込むみつ夫に、「あなたは人が良すぎるだけ、でもそれは尊いこと、わたしたちのリーダーとして頑張ってほしい」、と上手に持ち上げる。

気分を良くしたみつ夫は、パー子に「お世辞がうまいや」と返すと、「うまいでしょ」と素直にパー子は答えてしまう。これに気分を害し、みつ夫の辞める気持ちはますます固まってしまうのだった。

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パー子たちは、次にパーやんを呼んで、対策を考えることにする。パー子は、「何とかして自信を取り戻させたい、わざと簡単な事件を解決させたりとか・・」とパーやんに相談する。ところがパーやんは、「そんなインチキは失礼、放っておいた方がいい」と答える。

パー子たちは、冷たいパーやんに愛想をつかし、何とかブービーと二人でみつ夫を立ち直させると言って飛んでいく。その様子を見ていたパーやんは、

「心配いりまへん。パーマン一号はちゃんと自分で立ち直れる男やと僕はにらんどる」

と言って、立ち去っていく。頭のいいパーやんは、みつ夫のことをよく理解しているのである。

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一方のみつ夫は、書き慣れない辞表に手間取っていた。そこに、パー子の嘘電話が掛かってくる。踏切に爆破物を置いたという脅迫する内容である。みつ夫はさっそくパーマンになって、指定の踏み切りへと飛んでいく。

しかし、パーマンを現場に呼んだはいいものの、爆弾などは用意していないパー子たち。無駄骨を折った形のパーマンは、より一層辞める決意を固くしてしまう。

パー子たちは、今度はみつ夫の家を爆破すると予告し、本物に見せかけるために、大量の花火を用意して、これで脅かせばいいと考える。これもだいぶ浅知恵なのだが…。

ところが、みつ夫の庭で花火を点けようとしていると、みつ夫の妹ガン子ちゃんに、「昼間から花火?」と見つかってしまう。慌てたブービーは、火を着けたネズミ花火を、他の花火の入った袋に入れてしまい、「シュボン!」と爆発を起こす。

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真っ黒こげのパー子とブービー。すると二回の窓からみつ夫が顔を出し、「うるさくて昼寝ができない」と抗議される。「あんたのためにやっているのだ」とパー子たちは腹を立てるが、それはみつ夫ではなくコピーロボットだった。

本物のみつ夫は、パーマンになって事件を探しに行ったのだという。パーマンを続けることにした理由は・・・、

「面倒くさい辞表なんか書くくらいなら、パーマンになっていた方が楽だって」

と、コピーロボット。見事な骨折り損のくたびれ儲けな、パー子とブービーなのであった。

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本作では、辞めたいと言ったみつ夫の悩みは比較的浅いものだった。辞表を書くことと、パーマンを続けることを天秤にかけて、辞表を書く方が面倒くさいと思った程度である。

承認欲求の話を持ち出せば、自己承認欲求が低くなり、パーマンを辞めたくなったわけだが、気分が変わってパーマンを続けることにした。あまり自己承認欲求にこだわらない性格なのかもしれない。


次稿では、他者承認欲求の欠落によって、やはりパーマンを辞めたい、というお話を検証する。こちらの方が完全にこじらさせているが、どのようにみつ夫は乗り越えたのだろうか?? 乞うご期待!


パーマン考察、たくさんやってます!


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