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「時」はゴウゴウと流れる/シリーズ・トキノナガレ③

「時間」についての藤子F先生の著作を検証する「シリーズ・トキノナガレ」。一本目は「キテレツ大百科」の『脱時機』を題材に、ゆとりある時間の大切さについてメッセージを受け取った。

二本目の記事では「ドラえもん」に出てくる時間に関するひみつ道具が登場する話9作を一気に取り上げ、キテレツとは真逆の、のび太のゆとり過ぎる時間の過ごし方を堪能した。

そして続けて3本目となる本稿では、引き続き「ドラえもん」から、前回取り上げなかった「時間」についての傑作2本を見ていくことにしたい。名物ひみつ道具も登場してくるので、お楽しみに。。


『時門で長~い一日』(初出:『時門』)
「小学三年生」1981年7月号/大全集12巻

時間に関する「ドラえもん」の話の黄金パターンは、以下である。

ノロマなのび太が時間が足りなくて困る→
時間を止めたり引き延ばしたりすることで助かる→
その道具を使って悪戯して→
周囲を巻き込んでの大惨事となる。

そして本作は、まさしく黄金ど真ん中のパターンとなるお話である。

今回はしずちゃんの家に遊びに行く約束があるのに、ママから宿題が終わるまで外出禁止を命じられることが発端。のび太は宿題に膨大な時間がかかるので、遊ぶ時間が無くなってしまうと愚痴る。しずちゃんとの約束を破ったら、お嫁に来てくれなくなると嘆く。

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そこでドラえもんがのび太に内緒で出した道具が、「時門」である。これは水流をせき止める「水門」のように、時間の流れをゆっくりにできる便利道具である。

のび太はこのおかげで、宿題に5~6時間かかったつもりが、実際には30分しか経っていない。これに喜んだのび太は、毎度のように「時門」を借りて行こうとするが、「この道具は世界中の時間を遅らせることになるので、無暗に使ってはいけない」と、ドラえもんは注意する。

ドラえもんはのび太を追いかけるが、今月の庭の草むしり当番ということでママに捕まり、6時まで2時間やらされることになる。

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一方ののび太はしずちゃんの家に遊びに行くが、しずちゃんがピアノのレッスンまであと一時間しかないと聞き、さっそく「時門」を使うことにする。この効果で、しずちゃんとのび太はたっぷりと時間を使って、遊び疲れるまで遊び倒す。ここまで50分しか経っていない。

ドラえもんは延々と草むしりを続け、腰がメリメリ言うようになってもまだ一時間しか経っていない。

帰宅したのび太は5時から毎週楽しみにしている「宇宙ターザン」を見ることにするが、30分で終わってしまうのがつまらないということで、再び「時門」を捻る。

これによって、世の中への迷惑が襲い掛かる。詳細は以下の通りである。

・宇宙ターザンは、今週の敵をやっつけてしまうが、まだ時間があるので、来週の敵も登場する。それを繰り返し、5匹目が出てきたところで、のび太はTVの前で寝てしまう
・延々と草むしりをするドラえもんは、ボロボロになりながら庭中の草を残らず抜き取ってしまう。
・しずちゃんは6時までのピアノのレッスンが終わらず指がきしむ
・ママは夕飯の支度が終わるが誰も帰ってこないのでイライラしてくる。
・パパは仕事の終業時間にならないので、二日分の仕事をしてしまう。

ついに宇宙ターザンが過労で入院したところで、のび太が目を覚まし、ようやく「時門」が開かれるのであった。

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のび太は「狂時機」でも時間を引き延ばしている間に昼寝をしていたし、「時差時計」でも時差を直さないまま寝てしまった。寝坊助ののび太に、世の中の時間を操作させるのは非常に危険な行為であると言えるだろう。


『「時」はゴウゴウと流れる』(初出『むだ時間とりもどしポンプ』)
「小学三年生」1983年5月号/大全集14巻

これまで10本の「時間」についてのひみつ道具を使ってきた話を見てきたが、ほぼ全てにおいてのび太の時間に対する無自覚さ、大らかさが発揮されていた。あまりのノンビリ具合に、見ているこっちがイライラしてくるほどである。

本作は、そうした「時間」ものの、集大成のような作品となっている。

その日は、のび太は多忙であった。先生からは明日は絶対に宿題を忘れないように酷く注意される。スネ夫からは貸した本を返すよう言われるが、この本が物置に紛れ込んでしまい、探すのに数時間は掛かってしまう。オマケにママからは、往復二時間はかかるとなり町のおばさんの所へ荷物を届けるようお願いされる。

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宿題に少なくとも4時間、本探しに3時間、お使いに2時間。合計すると9時間もかかる計算である。とても寝る前に終わる気がしない。ところがのび太は、何やら余裕の表情を浮かべて、昼寝をしてしまう。

どれほど経ったのか、のび太は起きだして、タイムマシンを使って10時間ほど遡ろうとするが、なんと故障して修理中であった。のび太はドラえもんに道具を出してくれるよう頼むが、これが悉く手元にない。

・「時門」 → 借りてた会社に返した(レンタルだったのか!)
・「逆時計」 → ドラミに上げた
・「マッド・ウォッチ」 → どこかで落とした

と、これまで登場した時を操る道具が、全て無くなっているのである。と、ここでようやく大慌てとなるのび太。

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そんなのび太に対してドラえもんは、時の流れを可視化できる「タイムライト」を取り出す。ライトを照らすと、ゴオゴオと時間が急スピードで流れていく。そして時間の大切さについて、語り出すドラえもん。

「よく見ておくんだね。君が昼寝してる間も時間は流れ続けてる。一秒も待ってはくれない。そして流れ去った時間は二度と帰ってこないんだ」
「仮に一日三時間、時間を無駄にしたとして、月に90時間、年に千八十時間。十年なら一万時間以上。こうして無駄に流れていったんだよ」

取り返しのつかないことをしたと、ここで初めて時間の大事さを知るのび太。ドラえもんは、反省するのび太を見て、今度だけは助けると言って、「むだ時間とりもどしポンプ」という道具を出してくれる。

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足で踏むタイプのポンプで、踏めば踏むほど時間を引き戻すことができ、風船の中に時間を貯め込むことができる。そして古い時間ほど重くなるので、ある程度までしか貯められない。よく考えられた設定である。

ヘトヘトになって何とか十時間ほど取り戻すことに成功。そこでコックを捻れば、のび太だけの十時間が流れ出す。さっそく捻ると、ドラえもんが動かなくなり、世界中の時間の流れも止まったようだ。

さっそく宿題に取り掛かるのび太。しかしいつものパターンで、難問に引っかかって進まなくなり、頭を休めようと、そのまま昼寝へ・・・。と、動きの止まったドラえもんが目に留まり、「また無駄使いするところだった」、と自主的に反省して起き上がる。

そこで、しずちゃんに教えてもらおうと思いつき、しずちゃんの部屋へと上がり込むと、ちょうど宿題に取り掛かっている。そしてノートを勝手に覗き込むなどして宿題を終える。

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その後スネ夫の本を物置から探し出し、ママのお使いも終える。ちょうどそこで時間切れとなる。

動き出したドラえもんは、のび太が用事を全て終えたと聞いて泣いて喜ぶ。のび太もいくら僕でもそれほどバカじゃない、と誇らしげ。

ドラえもんは、「これからも時間を大切に…」と声を掛けるが、のび太はそれを否定。

「いや、それは違う。今日みたいな時に使うために、大事な時間を残しておかなくちゃ」

と言って、昼寝を始めるのび太。「丸っきりわかってない!」と呆れ果てるドラえもんなのであった。

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なお、本作でレンタルだったことが判明した「時門」だが、本作の2年後に発表される『のび太の0点脱出作戦』で、もう一度使われている。どうやらまたレンタルしたのか、改めて購入したものと思われる。


今回調べてみて「ドラえもん」には、想像以上に時間を操る道具が数多く登場していたことに驚いた。これはF先生の趣向もあったかと思うが、読者のニーズに答えていた部分も大きかったように思う。

自分の子供を見ていてもわかるが、子供は毎日とっても忙しい。そんな多忙な子供たち読者にとって、時間がいかに大事かを藤子先生はよくご存じだったということだ。

なので、手を変え品を変え、時間についてのひみつ道具を出し続けていたのではないだろうか。

このシリーズ、もう少し続きます!


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