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初期ドラの超重要作『恐竜ハンター』/藤子Fの大恐竜博①

夏休みといえば、恐竜。恐竜といえば藤子F。

つまり、夏休みといえば、藤子Fの大恐竜博ということで、この夏休み中に全8回(以上)の予定で「恐竜」についての作品を総ざらいしていく、Fノート最大の企画がスタート!

藤子F先生の恐竜好きはファンでなくても知られており、「ドラえもん」の大長編の一作目となった『のび太の恐竜』などは、誰もが知っている国民的マンガと言っても過言ではない。

昨年も新たな恐竜の研究を踏まえた『のび太の新恐竜』というオリジナル作品が映画化された。これは藤子プロから川村元気氏へ恐竜をテーマにという発注があって制作されたという。


藤子F先生も生前に語っているが、恐竜の研究は日進月歩で、新しい化石の発見などによって次々と恐竜の造形や分類などの新事実が明らかとなっている。藤子先生は1960年頃から色んな作品の中で恐竜を登場させており、その時々の最新恐竜事情を取り入れているが、現在の有力説からは離れているケースも散見される。

よって、恐竜をテーマとした藤子作品は、最新の恐竜研究の成果と作中の表現を比較検討して読み進めなくてはならない。僕自身、恐竜が大好きではあるので、なるべく最新研究も踏まえた記事作りをしたいが、どこまで厳密にできるかといえば自信がない。


ところで、藤子作品で恐竜が登場している作品をわかる範囲で調べてみtが、「海の王子」から始まって「すすめピロン」「とびだせミクロ」「すすめロボケット」などのバトル系作品には頻繁に登場させている。

その後の作品でも、「パーマン」「新オバQ」「モジャ公」「ドビンソン漂流記」「キテレツ大百科」「T・Pぼん」と、恐竜をテーマとした作品を描いている。

さらに「ドラえもん」となると、ゲスト的に登場している回も含めれば10本以上確認できている。そして大長編において、本格的に恐竜と向かい合った傑作「のび太の恐竜」や、恐竜絶滅の謎に迫る「のび太と竜の騎士」が描かれている。「のび太の創生日記」にも恐竜が登場している。

他にもSF短編などでも姿を見せており、ともかく膨大なのである。


それらの集大成として、1990年に発売された「藤子・F・不二雄 恐竜ゼミナール」という小学生向けの新書シリーズで、恐竜への思いや最新研究についての含蓄をたっぷりと語り尽くしている。

この本では、藤子先生がそれまで描かれてきた数多くの恐竜が種類別に紹介されているなど、非常に貴重な一冊となっている。今回の記事を書くに当たりかなり参考にさせてもらった。


第一回目となる「恐竜」作品ということで、「ドラえもん」において、初めて恐竜をテーマとした作品を紹介・検証していく。

「ドラえもん」『恐竜ハンター』
「小学三年生」1970年5月号/大全集1巻

本作は「ドラえもん」の歴史においても重要なシーンがいくつも登場する。

作品が発表されたのが「ドラえもん」の連載開始から5ヶ月目にあたり、かなりの初期作品であることにまずは注目したい。このFノートの中でも繰り返し書いているが、初期ドラについては設定がまだ固まっていない作品が多く、後のルールとは矛盾する描写も出てくる。

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冒頭1ページ丸々使ってブロントザウルスと思しき巨大な恐竜がのび太の部屋にいて、のび太が飛び上がって驚くシーンから始まる。タイムマシンで連れてきたらしいが、どうやって運んできて、机の引き出しから出したのか不明である。整合性を無視したインパクト重視の一コマであるようだ。

ちなみにブロントサウルスは、「恐竜ゼミナール」では「現アパトサウルス」であるとの注釈が付けられていた。ブロントサウルスとアパトサウルスはもともと別で化石が発見されたので、別種と考えられていたが、実は同じではないかということになり、そのような表記にしたようである。

ところが、時代が進み現在の最新研究では、やはりこの2種類の恐竜が別種であるということが有力とされている。この辺り、少々分かりにくいことになっているので、興味ある方は深く調べていただきたい。

なお、ブロントサウルスやアパトサウルスは、ジュラ紀後期に生息した恐竜なので、本作が目指す一億年前にはまだいなかった可能性が高い。なので別の種類を描いていた可能性もあるので、その点も留意いただきたい。


のび太が驚いて部屋を飛び出し、再び戻ってくると、恐竜の代わりにドラえもんがいて、凄いことを言い出す。

「セワシ君と恐竜狩りに行ってきたんだ。未来の世界で流行っているんだ。面白いスポーツだよ。タイムマシンで一億年前から連れて帰る途中、この部屋で一休みしたんだ。連れて帰った恐竜はペットにするんだよ」

その後の藤子作品の時間旅行に関する緻密さからは想像もできない、雑な設定説明となっている。恐竜をペットにするために狩りをするという行為は、その後の大長編版「のび太の恐竜」で、固く禁止されていることが明示されている。「のび太の恐竜」での敵は、まさしく本作のドラえもんたちのような恐竜ハンターたちであったのだ。

本作のポイント①:初期ドラならではの雑なタイムトラベル設定

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続けて、のび太もやってみたいと言い出すが、ドラえもんが凄く危ないスポーツだと諭す。ドラえもんは自分のように勇気が必要だと言うのだが、そこでネズミが出てきて大きく取り乱す。

ドラえもんがネズミが嫌いだという設定は、本作の一カ月前に発表された『ねずみこわーい』で初登場したものだが、ここでさっそく二回目が使われた。

本作のポイント②:ドラえもんのネズミ嫌いが定着

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結局、のび太を連れて恐竜狩りに行くことに。この時準備としてバターとジャムが必要と言われて、のび太は弁当のことと勘違いし、だったらと缶詰やバナナなどたくさんの食糧を集めてきて、乱雑にドラえもんのポケットに詰めていく。このシーンは、後ほど非常に重要な伏線となるので要注目。

さあいよいよ一億年前に出発。いつもの引き出しからタイムマシンに乗り込むのだが、なんと「タイムマシン」が実際の絵柄として登場するのは、今回が初めてなのである。

デザイン的には、大きめのライトのような部分が、本作ではメーターのように描かれている。また時間移動の表現が、縦方向に落ちていくように描かれているが、少し経つと前方へ進むように表現されるようになる。

本作のポイント③:初めて「タイムマシン」が描写される(若干デザインが違い、移動表現も異なる)

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一億年前・白亜紀の世界に着くのび太たち。ドラえもんは、恐竜狩りに必須の「細胞縮小き」を出そうとするが、のび太が詰めたお弁当がたくさん出てきてしまう。

この「細胞縮小き」は、「スモールライト」のような効果の道具だが、何度も光線を当てて小さくしすぎると、元に戻せなくなる。操作ミスで大きさが戻せないとなるとトラブルも相当起こったと予測され、その後「スモールライト」が発明されたのではないかと勝手に考えている。


最初はのび太が恐竜を撃つはずだったがうまくいかないので、ドラえもんに選手交代。のび太は持ってきたジャムとバターを頭や顔に塗られて、恐竜のおとり役となる。ジャム・バターはお弁当のために持ってきたのではなかったのだ。

バター・ジャム塗れののび太が歩いていると、ティラノサウルスらしき肉食恐竜にすぐに見つかり、追いかけられる。それを待っていたドラえもん。のび太と違って、恐竜狩りには慣れているので僕は慌てないと、余裕を見せる。

「この落ち着きが、素人と玄人の違いだ」

十分恐竜を引きつけて、「細胞縮小き」をポケットから取り出す! ・・・と、出てきたのは大和煮の缶詰。ここでものび太が無理やり持ち込んだ食料が次々と取り出され、「ハレハレハレ」と完全に取り乱すドラえもん。

この慌てっぷりが大爆笑で、インパクトも強かったため、以後ドラえもんは慌てると求めていない道具を出す慌てん坊というイメージが定着してしまう。

本作では、のび太がポケットにお弁当を詰め込んだせいで、このようなことになってしまったので、ドラえもんが慌てん坊だからとは言えない。少々ドラえもんには気の毒なエピソードとなってしまった。

本作のポイント④:のび太のせいで、ドラえもんは慌てると必要な道具が出てこなくなるという設定が確立

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ティラノサウルスに二人とも捕まり、まずドラえもんが食べられるが、ゴリとなって、ペッと吐かれてしまう。続けてのび太も口に運ばれそうになるが、とっさにメガネのレンズで太陽の光を集めて、恐竜を火傷させて脱出に成功する。のび太くん、賢い!

メガネは恐竜に取られてしまったまま、火山が噴火したので、慌ててタイムマシンで現代へと戻る。すると、パパが「不思議なこともあるものだ」と新聞を持って部屋に入ってくる。それは、一億年前の恐竜の化石がメガネを掛けていたというビッグニュースであった。

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かなり乱暴なお話だったが、初物尽くしのドラ史上重要な作品ということはご理解いただけたものと思う。

ちなみに本作を描いた翌月、初期ドラえもんのライバル・ガチャ子登場の『きょうりゅうが来た』で、さっそく二回目の恐竜エピソードが登場する。

ここでは恐竜が見たいと言い出したのび太のために、ガチャ子がタイムマシンでティラノサウルスを現代に連れてきてしまう、というお話だった。これも相当乱暴な展開だが、やはりスモールライトのような道具で恐竜を小さくして、難を逃れている。

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藤子Fの大恐竜博シリーズも第一回目からだいぶ長くなってしまったが、「ドラえもん」における恐竜エピソードはまだ序の口。ゲスト的出演をいくつか挟みながら、5年後に読切版の『のび太の恐竜』が描かれることになる。

次稿では、その『のび太の恐竜』に繋がるお話を取り上げてみたい。どうぞお楽しみに。


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