1981年は喧嘩の当たり年!?『キンシひょうしき』/ドラとのび太の大げんか①

「喧嘩するほど仲がいい」とは言うものの、実生活において喧嘩する間柄が本当に仲が良いかどうかは疑問である。例えば、互いに何事も言い合えるカップルは長続きするなどとも言われるが、果たしてそうだろうか?

自分の身の回りだけで言わせてもらえれば、表立って喧嘩する大人は裏でも陰口を言い合っているし、喧嘩の絶えないカップルはやがて破局を迎える。「喧嘩するほど仲が悪い」が正解だろうというのが、僕の持論である。


と、そんな身も蓋もない話はともかくとして、「ドラえもん」の世界では喧嘩の火種はあちこちにあって、極端な話、いつも誰かが喧嘩や言い争いをしている

ジャイアンはいつも喧嘩腰だし、スネ夫も挑発的だし、しずちゃんもよく怒っている(のび太がよく怒らせる)。ママはいつも機嫌が悪い(のび太が機気分を害する)。いざこざだらけの世界なのだ。

のび太とドラえもんは『さようならドラえもん』の例を引くまでもなく、厚い友情で結ばれているのだが、やはり喧嘩が絶えない。ぐうたらなのび太と毒舌のドラえもん。ほぼ毎話衝突しているような気もする。

そこでドラえもんとのび太が喧嘩する印象的なエピソードをいくつか選らんで、その一部始終を追ってみようというのが本稿の内容となる。「ドラとのび太の大けんか」と題してたっぷり全3回の記事でお届けします。


ドラとのび太の喧嘩と言えば、実は1981年に立て続けに3回も大きく衝突しているのでここに注目する。テーマが喧嘩と言ってもいい作品ばかりである。タイトルを列記しておくと、

『キンシひょうしき』「小学三年生」1981年3月号
『ションボリ、ドラえもん』「小学三年生」1981年4月号
『ハツメイカーで大発明』「小学三年生」1981年10月号

本稿ではその第一弾として、1981年の3月に発表された『キンシひょうしき』という作品を検証するのだが、その前に初期ドラにおいて最も印象的な喧嘩のシーンが出てくる『タタミのたんぼ』を軽く見ておきたい。

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『タタミのたんぼ』「小学四年生」1974年1月号/大全集3巻

ドラえもんとのび太がお餅を食べていると、最初から9個だったらしくお互いに4個ずつ食べたので、皿にはたった1個が残された。そこで最後の1個を巡って、取っ組み合いの喧嘩へと発展する。

有名な話だが、ドラえもんはどら焼きが好きという設定は後から付け足されたもので、連載当初はお餅を大好物にしていた。

ママが仲裁に入りつつ、「もっとお餅があれば喧嘩にならなかったのに」ということで、だったらもち米から育ててお餅をたくさん作ろうということになる。

もち米作りのためにドラえもんは「趣味の日曜農業セット」を出す。究極のDIY商品である。セットの中身は「カプセル入りの苗」「打ち上げ式豆太陽」「チューブ入り雲」「かかし」「たんぼロール」となっている。「たんぼロール」にはあらかじめ肥料などが配合してある。

まずは田植え。手作業で行う。2時間後に実りの秋がくる予定なのだが、安物の農業セットだったためか「季節コントローラー」が故障しており、梅雨が来ない。急いで水をやろうと大騒ぎとなるが、今後は雨が降りすぎになってしまい、「てるてるぼうず」で雨を止める。なお、このてるてるぼうずがひみつ道具かどうかは不明である。。

台風が逸れてホッとしていると、今度はイナゴが発生。適当に苦労するよう仕掛けされているのである。

みごと大豊作となり、刈り入れ。「もち製造マシン」に稲穂ごと入れると、自動的に脱穀して精米して蒸しあげてお餅になって出てくる。つきたてのお餅をさっそく貪るドラえもんとのび太。ちょっとした苦労が報われたのだった。

が、話はめでたしでは終わらない。マシンによるとお餅は259個作れるという。これを二人で分け合うと、129個と130個になる。・・・ということで、どちらが130個食べるのかでまたまた最初のような喧嘩が始まってしまうのであった。

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この喧嘩の要因を考えてみると、のび太のお守り役であるドラえもんが、のび太と変わらない自我を発揮している事実に思い当たる。まるで兄弟喧嘩なのである。

このまるで兄弟喧嘩を発展させたのが、『キンシひょうしき』となる。


『キンシひょうしき』
「小学三年生」1981年3月号/大全集11巻

本作で使われる道具は、何でも止めさせることができる『キンシひょうしき』。この標識に止めさせたいことを書いて床に突き刺すと、その行動をどうしても取れなくなってしまう。

使うきっかけは、パパが32回目の禁煙に失敗したことである。どうしてもタバコを止められないので、標識に「たばこ」と書いて部屋で吸えないようにする。どうやら標識の効果は突き刺した部屋の中だけらしく、家中そこらに立てておくことにする。

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ドラえもんの道具を私利私欲に使わせたら世界一ののび太は、キンシひょうしきをたくさん借りて、何かに使おうと考える。

まずは部屋に「おこごと」禁止の標識を立てて、ママのお説教を回避する。他にどうしようかと考えながら昼寝を始めるのび太。また昼寝かと呆れたドラえもんは、キンシひょうしきで「ひるね」と書いてのび太の昼寝を止めさせる。

のび太はたまらず標識を手で抜こうとするが、専用のペンチではないと抜けないらしい。「宿題が終わるまでだめ」とペンチをポイと窓の外に捨ててしまうドラえもん。ドラえもんは何でも大事なものを窓から捨てると「ゆっくりドラチャンネル」でも紹介していたが、全くその通り。

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ここからはやり合いがエスカレート。「おぼえてろっ」と宿題を始めるのび太だったが、ドラえもんがとっておきのどら焼きを食べようとしているので、「どらやき」を禁止する標識を立てる。

その後のび太はしずちゃんから珍しく遊びに行っていいかと電話を貰うのだが、「でんわ」を禁止されて会話ができなくなり、呆れたしずちゃんに「もういいわよ!」と電話を切られてしまう。

仲直りしようと部屋に入ってくるドラえもんを「立入禁止」し、互いに階段や廊下を「通行禁止」にしていく二人。そしてトドメは、のび太がトイレに入ると、「おしっこ」を禁止されてしまい用を足せなくなる。

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おしっこが漏れそうと騒ぐのび太、ママも電話ができず廊下も歩けなくなって怒り心頭、パパは家の中ではタバコが吸えなくなったので屋根に上ったものの、足を滑らせて庭に落ちてしまう。

ラスト、

「どんないい道具でも、のび太が使うとろくなことにならないんだから」

とドラえもんは総括するが、二人の争いを振り返ってみると、のび太のいたずらに大人げなく対抗してしまうドラえもんにも責任があるように思われる。ドラえもんは見守り役というよりは、兄弟関係の「兄」ような立ち位置になっている。

バカな弟に対抗してしまう兄。そんな風に思えるのだが、この二人の関係は実はそんな簡単なものではない。本作の翌月に発表された二人の喧嘩エピソードを次稿で見ていく。


「ドラえもん」考察をたくさんしております。どうぞこの目次から。


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