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みよちゃんを巡るゴンスケと家庭教師の対決!『ゴマスリを追い出せ』/にっくき家庭教師②

藤子作品では、時々家庭教師が登場するのだが、たいていの場合、良いようには描かれない。それどころか、教える生徒に対してゴマを擦ったり、口八丁で付け入ってきたりと、ヒール役で登場することの方が多い。

例えば、前稿で取り上げた「ドラえもん」の『にっくきあいつ』では、しずちゃんの家庭教師が、いけ好かないのび太の恋のライバルとして描かれる。ハンサムな大学生で、しずちゃんが結婚相手として意識してしまうような男なのだが、見方によれば単なるロリコンだし、かなり嫌味な性格だった。

しずちゃんには、この作品含めて計3人の家庭教師が登場するのだが、どの男も嫌悪感が先に立つようなキャラクターで、そこまでくると藤子先生の家庭教師に対する悪意すら感じてしまう程である。


さて、本稿では『にっくきあいつ』の元ネタ的作品があるのでそれを見ていきたい。「ドラえもん」の直近で連載されていた「ウメ星デンカ」の一作である。

「ウメ星デンカ」『ゴマスリを追い出せ』
(初出:ゴマスリ家庭教師を追い出せ)
「小学四年生」1969年11月号/大全集2巻

ドラえもんの『にっくきあいつ』では、のび太が好きなしずちゃんが、年上の男性である家庭教師に心を奪われそうになっているのを食い止めるお話だった。

本作でも、あるキャラクターが好きな女の子に、口の上手い年上の家庭教師がついて、ライバル視する・・・といった展開となる。物語構造が全く一緒なのだが、ただキャラクターの配置が本作はユニークなので、まずはそこを確認しておこう。


「ウメ星デンカ」も色恋沙汰がさまざま起きる作品だが、その中核にあるのは、何とロボットのゴンスケと、中村太郎君のガールフレンドであるみよ子ちゃんなのである。のび太に比類するキャラの太郎ではなく、デンカたちの侍従ロボットが人間の女の子に恋する展開が、特徴的となっている。

ゴンスケとみよ子の恋物語については、いずれ特集記事を執筆予定なので、どうぞその時はよろしく・・。

ちなみに基礎情報としてのゴンスケ@ウメ星デンカは、記事にしているので、もしよろしければ、こちらもご一読下さい。


ということで、本作は恋するロボット・ゴンスケが、みよちゃんの家庭教師に嫉妬する・・というお話。

ゴンスケは自分勝手で傍若無人な振る舞いをするロボットだが、大すきなみよ子の事は常に気にしていて、何か好かれることをしたいと考えている。この日は、デンカ一家がメザシを絶賛していたので、これを食わせようと、王様の分を引っ手繰って、みよちゃんの家へと向かう。

玄関からみよちゃんを呼んでも返事が無いので、庭を回って部屋を覗くと、みよちゃんは家庭教師と一緒に勉強に励んでいる。この家庭教師の男は、『にっくきあいつ』同様学生服を着ているが、おそらくは大学生であろう。

何やら口が上手のようで、うまいことみよちゃんの機嫌を取っている。「こんな難しい問題がスラスラ解けるなんて」「あなたのような生徒は教えがいがあるなあ」などなど・・。

対するみよちゃんも、「先生の教え方がお上手なのよ」と返して、何だかいい雰囲気。そのやりとりを窓の外で聞いていたゴンスケは、

「ナンダ!ソノヤロウ」

と大声を出す。

みよちゃんは「ヤロウなんて言わないで」と家庭教師の肩を持つ。ゴンスケは勉強ならオラが教えると言い出すが、「算数しかできないくせに」とピシャリ。上の記事を読んでもらえれわかるが、ゴンスケは数字関係(特にお金)が抜群に強いのである。


みよちゃんは、「ところで何の御用?」と尋ねたところ、ゴンスケがプレゼントがあると言って「メザシを食べろ」と突き出してくる。家庭教師には笑われ、みよちゃんにも「後にして」と窓を閉められてしまう。

冷たくされて、しょげるゴンスケ。しかし、そこでめげる男(ロボット)ではない。「アンナヤロウニ・・・負ケテタマルカ!」とのろしを上げる。

再びみよちゃんの部屋に戻って、プレゼントに面白い本を持ってきたと言って渡すと、それは「列車時刻表」の最新刊。確かに毎月出ているが・・。当然みよちゃんには受け入れられない。

対する家庭教師も貸そうと思って本を持ってきたと言って、「少年少女世界名作全集」を渡すと、こちらはみよちゃんにヒット。「本当に嬉しいわ」→「あなたにはこういう高級な本がピッタリです」と流れるような、お世辞のやり取りが行われる。


そこへおやつをもって、みよ子のママが部屋に入ってくる。ここでも『にっくきあいつ』同様に、家庭教師はママを徹底的に喜ばせる。

・いつ見てもお若くてお綺麗
・だから綺麗なお嬢さんが生まれた

と、分かりやすいおべんちゃらを並べる。しかし褒められて気分が良くなるのは当然で、みよちゃんもママも大喜び。聞いていたゴンスケは、苛立ちのあまりママの持ってきたおやつの饅頭をパクパクと全部食べてしまう。

『にっくきあいつ』でも、透明になったのび太が饅頭を平らげていたが・・。


その後海外旅行の話題になり、ゴンスケが無理やりにみよちゃんを海外旅行に連れ出そうとして、家庭教師に「頭のネジが緩んでる」とバカにされる。怒ったゴンスケが家庭教師を木槌で叩こうとするのだが、みよちゃんに「乱暴する人嫌いよ。もう来ないで!」と追い出されてしまう。

かくして、ゴンスケは腑抜けとなってしまうのであった。


酷く落ち込んでいるゴンスケを、デンカ一家が気にする。デンカたちにはいつもは強がるゴンスケだが、今回は「ウワ~オ」とデンカに抱きついて号泣。事の次第を説明する。

一家はゴンスケの話を聞いて、「そんなのと付き合うのはみよ子にためにならない」と盛り上がる。そんな家庭教師は駄目だと忠告しようということで、まずは太郎が説得に名乗りでる。


太郎はみよちゃんを家の外に呼び出し、「お世辞ばっかり聞かされるとバカになる」と忠言。みよちゃんは「先生はとってもいい人よ」と反対する。そこへ、そば耳を立てていた家庭教師が姿を現し、「みよ子さんは立派だなあ」と声を掛ける。

「案の定だ」と眉をひそめる太郎だったが、ここで聡明な家庭教師は、太郎について持ち上げる。「彼のようないい友達を選ぶみよ子は立派だ」と言うのである。これには、一発で心を開いてしまう太郎。

結局、「あんないい人は見たことない」と気持ちよくなって帰宅する太郎。太郎を見たデンカたちは、騙されたんだ、と憤る。ゴンスケも悔しがる。


そしてここからは、家族が代わる代わるみよ子に言い聞かせると言って、出掛けていく。王様・王妃は、たった一コマで懐柔され、普段は厳しいベニショーガも、巧みな家庭教師のゴマスリに乗せられてしまう。

最後の砦となったデンカは、お世辞が聞こえないようにと耳栓をしてみよ子宅に向かう。


その頃、家庭教師はみよ子を散歩に誘う。その道すがら、「いつまでも仲良しでいましょうね」と優しく声を掛けたりしている。

ところが、意外な伏兵が現れる。

急に子犬が家庭教師を噛みついてくるのである。家庭教師はオーバーなほどに、「死ぬ死ぬ」と泣きさけぶ。犬の飼い主はみよ子ちゃんよりもかわいい感じの女の子。すぐ手当をしますと言って、家庭教師を屋敷の中に連れて行く。


・・・ところが、家庭教師は家に入ったきり出てこない。待ちぼうけとなっているみよちゃんの影が伸びていて、時間の経過を強く感じさせる。ゴンスケとデンカも合流するが、さらに待たされる。

すると、「なんだ、まだ待ってたの?」と言いながら、家庭教師が門から出てくる。隣には、先ほどの可愛い女の子。すると家庭教師の男は、

「僕、ここんちの家庭教師になるの。君んとこより月謝がいいもん」

と、あっさり宗旨替え。


「こっちの子の方が可愛いから」、ではなかったので何だか許したくなる気分だが、と~っても調子の良い男だったのである。


本作は「家庭教師」ものの輪郭が固まった作品で、これが後に「ドラえもん」に繋がっていく。そして、さらにもう一作似たようなお話が別作品に登場するので、次稿ではそれを見ていきたい。

もう少しお付き合い下さい。。



「ウメ星デンカ」だって考察しちゃう!


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