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恋する欠陥ロボット・ゴンスケ @ウメ星デンカ/ゴンスケ大活躍②

藤子作品において同一キャラクターが複数のお話に登場するケースは案外少ない。安孫子作品にも登場するスーパーサブの「小池さん」や、ドロンパが居候し「ドラえもん」では野球ボールで窓ガラスを何度も割られる「神成さん」や、複数の作品に顔を出す売れっ子マンガ家の「フニャコフニャオ」あたりが有名だろう。

そしてもう一人忘れてはならないのがロボットのゴンスケである。ゴンスケは「21エモン」でもともとはイモ掘り用として作られたボーイのロボットとして登場。粗野な言動と金で人を動かそうとする歪んだ性格の持ち主だが、イモを作りたいという欲求に忠実な青春真っただ中のキャラクターでもあった。

「21エモン」におけるゴンスケの活躍については下記の記事をご覧ください。

続けて本稿では、「21エモン」と重なる時期に学年別学習誌などで連載されていた「ウメ星デンカ」におけるゴンスケの活躍を見ていきたい。


まず時系列を確認すると、「ウメ星デンカ」は1968年9月号から「パーマン」を引き継ぐ形で小学館の学年別学習誌などで連載が始まった。その数か月後「週刊少年サンデー」では1968年いっぱいで「21エモン」が連載終了となり、1969年の年頭から「ウメ星デンカ」にバトンタッチされる。

つまり数カ月程度「21エモン」と「ウメ星デンカ」を重なって連載されている時期がある。この時は「ウメ星デンカ」にはゴンスケは登場していない。

その後サンデーでの連載が進み、69年20号『強力ゴンスケ号S』にて初登場を果たす。あたかも一本のTVシリーズの出演を終えたスターが、別のTVシリーズに出演したかのような登場の仕方なのである。


「21エモン」ではイモ掘り用のロボットだったが、本作ではスーパー召使いロボットのプラモとして登場する。

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プラモのパッケージでは筋肉隆々のように見える力強いゴンスケだったが、完成品はいつもの細身の体つき。太郎が作ったせいか、なぜか部品の歯車が二つ余ってしまい、出来損ない感を漂わせている。

性格は、「21エモン」で培われてきた粗野でわがままで金儲けのうまい点が引き継がれている。ちなみに『かわいいゴンスケ』というエピソードで公式のキャラクター紹介がされている。

それによると、電子頭脳を持っていて、数字が大好きとなっている。実際、数字ばかりの電話帳を読書しているシーンもある。

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ゴンスケは、働きには対価となる給料をよこせと言い出し、週休二日制やボーナスや個室も要求してくる。主な仕事は袋の糊付けの内職で、最初のうちは嫌々仕事をしていたが、慣れてくると短時間でノルマを達成したり、もっとうまく糊付けする男に弟子入りしたりする。

ウメ星王一家の召使いではあるが、当然尊敬などしたりしない。ベニショーガがデンカは偉いのでもっと尊敬しろと命じると、

「ナンデ王子ガエライダ。王ノ子ニ生マレリャバカデモマヌケデモ王子ダゾ」

と至極真っ当な返しをされて、ベニショーガは応答に窮する。


お金儲けがうまいという点も「21エモン」と同じで、給料を溜めて逆にベニショーガに貸し付けたり、密かに「マルカシ・ローン」というローンの会社を経営したりする。この会社では一カ月で10割という暴利の貸し付けを行っているが、「返せるやつにしか貸さない」方針らしく、独自の審査眼を持っているようだ。

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また、「ウメ星デンカ」にはナラ子というデンカを好きになるこれまた乱暴な女の子が登場するのだが、一度ゴンスケと対決することになる。無茶苦茶キャラ同士の激しいぶつかり合いが期待されたが、共に対峙してだけで実力を認めあい仲よくなってしまう。


「ウメ星デンカ」のゴンスケで最も特徴的なのは、恋するロボットであるということだ。ここが21エモンから追加された設定である。

初登場の回から、太郎のガールフレンドみよちゃんに一目惚れしてしまい、その後も何度も気を引こうとしたり、デートに誘ったり、物を贈ったりする。みよちゃんに馴れ馴れしくする家庭教師に嫉妬したり、振られればロボットなのにゲッソリする。

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ナラ子とデンカ、ゴンスケとみよちゃんのダブルデートの経験も二度ほどあり、ロボットとのデートを嫌がるみよちゃんを困らせたり、逆にグイグイと迫る姿をナラ子が見て、デンカにも見習ってほしいと言わせたりする。

なお、デートに行く際にはシャワーを浴び、ポンズクリームを顔に塗り、ポマードで頭の毛(のような部品)を固めるなど、身だしなみにも気を使う

この一方的にみよちゃんを好きになるゴンスケの恋エピソードは、また別の稿でしっかり紹介してみたい。

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このようにやりたい放題、好き放題、人間のように恋をしたりと、とてもスーパー召使いロボットとは思えないゴンスケ。そんなゴンスケをみてベニショーガは粗悪品を掴まされたと思い、買った会社に修理を頼もうとする。するとそこへゴンスケを作った会社「ゼネラル・ロボッツカンパニー」のサービス員が現れて、ゴンスケ・タイプのロボットに重大な設計ミスが出たので、新製品と交換すると申し出てくる。

「ゴンスケ・タイプ」のロボットと言っている部分が要注目で、ゴンスケはある種の大量生産型のロボットであるということを意味している。21エモンでのゴンスケも、かつてこのゼネラル・ロボッツカンパニーで作られたのではないかと仮説が成り立つ。

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この原稿を書くために「ウメ星デンカ」全作を読み返したが、ゴンスケが登場してからは、ほぼゴンスケ中心のお話になっていることを強く実感した。ゴンスケが周囲に迷惑をかける話がほとんどだが、中にはゴンスケ目線で進む物語もある。

特に「少年サンデー」では初登場からほぼ全話で物語の中核となる。ただしどぎついキャラでもあるので、低学年の学年誌では登場シーンが少ないのも特徴的。特に「幼稚園」では一本のみ登場し、この時は一人だけ掃除をさぼる行動を取って、最後で荷物の下敷きになってペラペラとなってしまう。

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まだ皮肉の通用しない幼児向け作品において妥当な使われ方であろう。


「21エモン」は特に後半になると、星間旅行に飛び出す展開となり、これをF先生は気に入っていたが、途中で打ち切りとなった。ゴンスケの清濁併せ吞むキャラクターも、F先生にとってまだまだ伸びしろを感じていたに違いない。

なので「21エモン」が終了すると、すぐに「ウメ星デンカ」に移籍させて、ゴンスケキャラの魅力を深めていったに違いない。しかしあまりにキャラ立ちしすぎて、サンデー誌ではほぼ主人公を取って代わってしまう。特にみよちゃんを好きになって、恋するロボットとなると、読者の感情移入もしやすくなった。

今回「21エモン」「ウメ星デンカ」と読み進めることで、ゴンスケは二つの作品を通じて、魅力がどんどんと深掘りされる稀有なるキャラクターなのだということが確認できるのである。


藤子作品の考察たっぷりやっています。


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