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憎むべきは受験勉強? バウバウ大臣『こわい家庭教師』/にっくき家庭教師④

藤子作品にはときどき家庭教師が登場する。その反面、不思議と塾通いのシーンはあまり描かれない(スネ夫とかが行ってるけど具体的な塾の場面はなし)。

そして登場する家庭教師は、大体の場合において、嫌な奴と相場が決まっている。例えば、好きな子の家庭教師は、その子にとっての年上の憧れの人になりがちで、主人公は嫉妬に苦しむことになる。

そんな話を二本程記事にした。

続けて、自分に家庭教師が与えられるケースもある。藤子ワールドの主人公は、のび太に代表されるように、成績が芳しくない子ばかりので、親が無理して家庭教師をつける。。。という話になりがち。

その場合においても、家庭教師はゴリゴリと苦手な勉強を押し付けてくるので、主人公は嫌で嫌で仕方がない。何とか逃れられないか、と思案することになる。

そんな記事も前回書いた。


本作で紹介する作品は、後者のパターン。すなわち、自分自身に嫌な家庭教師が付与されることになる展開の一本。前稿で取り上げた「オバQ」の『ガリベン先生』では、単純に勉強一筋のガリベン男だったのだが、今回はキャラクターが悪い意味でエスカレートしているようだ・・・。


「バウバウ大臣」『こわい家庭教師』
「小学三年生」1976年10月号

今回で取り上げる作品は、はっきり言ってかなりマイナーな「バウバウ大臣」の中の一作となる。

この作品は「ドラえもん」全盛期の1976年に、「小学二年生」「小学三年生」「小学四年生」の3誌に並行して発表されていたもの。各誌7~8話だけ描かれ、わりと短期間で終了してしまった作品となる。

内容としては、異世界キャラが平凡な少年のもとにやってきて、一緒に暮らすことになる・・・という藤子不二雄両先生が得意としてきた王道パターン。


本作における異世界キャラは二人(二匹?)いて、それが犬のような外見のバウバウと、猫のような雰囲気のミウミウである。宇宙から地球に飛来してきたのだが、彼らの目的は、自分たちの星の王子様を探し出すことである。

少々ややこしいのだが、バウバウとミウミウは、アマンガワ星という美しい星の出身なのだが、この星は100年前にすい星との衝突で破壊されてしまい、彼らは他の星で生まれ変わった姿なのだという。

バウバウは元大臣、ミウミウは女官だったようで、彼らが言うには、主人公の少年・星野大二はアマンガワ王国の後継者となる王子様であった。その証拠としては、大二には額と両手とおへその位置に、ちょうど十字となるほくろがあることだという。

ほくろの位置だけが証拠となると、全宇宙には該当者が大勢いそうなものだが、大二は全くそんな自覚はないし、本作中では本当に王子か常に曖昧なまま進行する。

王子の生まれ変わりかはっきりしないのに、バウバウ大臣たちが大二を王子様扱いして、何かと王冠を被せようとしたりするドタバタが、本作の中核ストーリーとなっているのである。(チンプイに似ているかな)


もう一点設定を説明しておくと、バウバウは口から不思議な道具を吐き出したり、ミウミウは「ミウ電気」という隠された人間の能力を発揮させることのできる電気ショックを与えることができる。

大二は王子様扱いされ、それを嫌がったりする一方で、バウバウ・ミウミウの力を借りて何か問題解決したりする。そんなエピソードが「バウバウ大臣」の骨子である。


さて、少々設定説明に手こずったが、ここでようやく本作の内容に入る。

星野大二、通称大ちゃんは、通信簿で1を貰ってしまうような勉強が苦手な男の子。親は息子の学業の不安から、家庭教師を雇うことにする。ところがこの家庭教師は、スパルタ式を公言するような厳しい人物で、「殴っても蹴飛ばしてもやらせる」と息巻く。

今では体罰で勉強させてもダメと言うのが当たり前の社会だが、時代のせいなのか、大二の母親は目の前で息子が殴打されても、結局「よろしくお願いします」と、採用してしまう。


暴力を背景に、この家庭教師は大二に「毎日問題集を一冊ずつやれ」と命じてくる。ところが、横暴な家庭教師を見たバウバウは、「王子様と殴った!?許せぬ!!」と顔を真っ赤にして怒り、戦いを申し込む。

いつものいじめっ子カバ口(川口)相手であれば、すぐに撃退してしまうバウバウだが、この家庭教師は高校の空手部長ということで、逆に返り討ちにあってしまう。


かくして、物差しでバチバチと叩かれながら、大二は勉強を開始。するとしばらくして、この先生も持ってきた教科書を広げて、自分の勉強を始める。話を聞くと、大学を二度落ちていて、今年三度目の受験を控えているのだという。

つまりこの家庭教師は涙の二浪生で、その苦労を思って「勉強しろ」と語気を強めていたのだ。


その後、バウバウの作戦、星空のスライドを映して夜になったと思わせて、家庭教師を帰らせることに成功。

そして、手が空いた大二に書類を渡してサインをしろと迫ってくる。ところが、この書類は、アマンガワ国立大学を開くための法律案だと聞くと、大二は「大学があるから苦労しているんだ」と激怒して拒否。

しかししかし、家庭教師が戻ってきて再びスパルタ勉強をさせられそうになったので、サインを押すから助けてくれと懇願する。

かくして「ミウ電気」を浴びた大二は、能力が開花。家庭教師が持ってきた問題集をあっという間に解き終わってしまう。これで、大手を振って家庭教師の下を離れられる。


空き地にて、大二はバウバウとミウミウに、何で大学が必要か聞くと、「教育ほど大事なものはありませんぞ」と諭される。ただし、授業料はなし、週休4日、ミウ電気を掛けるので、入試もなしという形態だと説明を受ける。

誰でも入れる大学とあっては、それはまるで夢のよう。本作の連載時は、受験勉強が過熱していった時代であり、大学進学率は27.6%と約十年で3倍以上に膨らんだ年であった。

先ほどの家庭教師も、二浪しているわけで、受験戦争の被害者の一人であると言えるかもしれない。なので、夢のようなアマンガワ大学の話を、大二を追ってきた家庭教師に聞かれてしまい、

「お願い!!俺も入れてくれ。入れなきゃ殴るぞ」

と迫られてしまうのであった。


「家庭教師」をテーマとした作品はこの頃かなり集中的に描かれていたが、その背景には受験勉強の過熱、大学に進学させなきゃという親の思いがあったのではないかと、本作を読むと気付かされる。

大学と聞いて拒絶反応を示した大二を見るにつけ、憎むべきは家庭教師なのではなく、受験勉強なんだと思う次第である。



少しマイナー作品も取り上げています!


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