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タケコプター初登場作品『未来から来たドラえもん』/ドラえもん初回特集③

真偽のほどは確かではないのだが、「ドラえもん」のように多数の媒体で同時連載をしていた作品については、藤子先生は一番若い対象年齢の雑誌から書き始めていた、と言われている。

この説を信用すると、全6誌で一斉の連載開始となった「ドラえもん」は、未就学児童向け雑誌から着手して、徐々に対象学年を上げた作品を描いていったことになる。

ただこれはあながち嘘とも思えず、初回を読む限り学年が上がるごとに少しずつ完成形に近づいていく印象を持つ。設定だったり、造形だったりが、整っていくような気がするのである。


本稿では「小学二年生」掲載の第一話を取り上げるが、だいぶ完成形(てんとう虫コミックス収録『未来の国からはるばると』)に近づいてきている感覚となる。

逆を言えば、藤子先生の「ドラえもん」への思考錯誤を強く感じ取ることのできる作品かもしれない。


『未来から来たドラえもん』(初出:無題)
「小学二年生」1970年4月号/大全集1巻

まず扉絵が興味深い。ドラえもんについては「ドラねこのロボット」と一言キャッチが付いていて、造形も体中がピカピカした光沢がある。手足が肌色なのは、初回作品は全誌で同じである。

タケコプターも描かれているが、頭に付けずにセワシが手に持って宙に浮かんでいる。のびセワシと紹介されているが、この言い回しは珍しい。(ていうか、本作のみ??)


本作は友だち集まってのかくし芸大会の出し物にのび太が困るという、「ドラえもん」頻出の展開が描かれていく。

かくし芸大会」と言えば、1970年当時絶大な人気を誇ったお正月の大型番組「新春!かくし芸大会」を読者は想起したに違いない。

お正月号ということもあって「明けましておめでとう」と一言でてくるが、テーマ的にも極めてお正月的な作品なのである。


のび太はかくし芸大会の定番、歌にチャレンジしようとするが、ママからはうなっていると勘違いされて心配される。かくし芸の出し物と聞いて、「のび太ちゃんの歌が一等よ」とフォローされるが、時既に遅し・・。

みんなのアッと驚くことがしたい、と考えながら机の引き出しを開くと、そのタイミングで光沢十分のドラえもんとセワシ君が現れて、のび太が「アッ!!」と驚くことに。


二人は名前を名乗ってすぐに、のび太の通信簿を調べ出して「ひどい」と一言。ドラえもんを突き飛ばそうとするのだが、微動だにしないので「力も弱い」と指摘を受けてします。

「変な子だ」とママに告げ口して呼び出すが、引き出しの中には何もない。ママが行ってしまうと、再びドラえもんとセワシが登場し、「変な子とは何だ」と反発する。


そして、さらに自己紹介の続き。

・二人は未来の世界、今から111年後の世界からやってきた(2081年?)
・セワシはのび太の孫の孫(セワシからみてのび太はおじいちゃんのおじいちゃん)
・のび太は何をやってもダメな男で大人になってもロクなことをしない
・タイムマシンの出口が引き出しの中になった
・ドラえもんがのび太の傍にいて面倒をみてやるので安心しろ・・

バカにするなと暴れて、ドラえもんたちを追い払うのび太だったが、ここでかくし芸をどうしようかと再び思い悩む。

さっきドラえもんたちが机の引き出しから出てきたことを踏まえて、今の手品をやろうと思いついて、机の引き出しの中に無理やり入ろうとする。

当然人間が入れる訳もないのだが、うまくいかないと分かると、ママに対して「もっと大きな机を買って」と頼む出す。この頓珍漢な動きに、セワシは「あれほどバカとは思わなかった」と呆れる。


さて、しずちゃんからかくし芸大会の呼び出しがかかる。芸の当てもなく飛び出して行くのび太に、ドラえもんは後から付いてきて、急ぐならとタケコプターをのび太の頭に付けて、勝手に連れて行ってくれる。初めてタケコプターが登場したシーンだが、この時はまだ名称は明らかになっていない


のび太に帰れと言われたドラえもん。そこでしっぽを引っ張って透明になり、しずちゃんの家へとこっそり入り込んでいく。

しっぽをスイッチにして姿を消すという機能は、初期ドラで複数回登場させているが、いつしかその設定は消えてしまう。

前稿で紹介した『ドラえもん登場!』では道具ナシで空中浮遊をしたドラえもん。初期ドラでは、まるでオバケのQ太郎のような特徴が見られる。


かくし芸大会では、しずちゃんがバイオリンを披露。しずちゃんのバイオリンと言えば、聞くに堪えない演奏というイメージがあるが、この時点ではその真逆に設定となっていたようである。

またスネ夫の容姿が、ずる賢いを絵にかいたような描かれ方で、のび太に意地悪する中心的役割を果たしている。

一方の暴れん坊ジャイアンは、スネ夫の影に隠れている様子。スネ夫とジャイアンの立場の逆転しているのは、初期ドラならではの設定・展開と考えて良いだろう。


スネ夫に引っ張り出されて、いよいよのび太の出し物の番となる。困るのび太に、透明なドラえもんが近づき、手品をやると勝手に宣言する。

そしてシーツが舞ったところで、ワンツースリーと言われた通りに声を出すと、ドラえもんが姿を見せる。

これにはタネが分からないと、友人たちに大受け。ドラえもんは帰り道に、僕が傍にいると助かるだろう、とアピールする。

この時、のび太はタケコプターを手に持って空を飛んでいる。扉絵で描かれている使い方である。


のび太はドラえもんの存在を認めつつも、パパとママを説得できるか不安に思う。「かわいければいいだけど」とのび太が言うと、「じゃかわいくなるよ」とドラえもん。

のび太はパパとママに「すごおくかわいい猫を飼おう」と相談すると、「いいとも連れておいで」と受け入れの姿勢を見せる。まだこの時は、ママの動物嫌いは発症していないようである。


・・・と、そこに登場するのが、四つ這いになって、不自然な耳を付けた、光沢ばっちりのドラえもん。両親は、「化け猫」と驚き、そのまま気絶してしまうのであった。

なお、「小学二先生」の第二話は、『野球そうどう』という作品で、こちらもドタバタが見所の快作となっている。記事にもなっているので、宜しければこちらと併読下さい。



「ドラえもん」を隅から隅まで楽しみたい人へ・・

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