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『久しぶりだね5エモンくん』/21エモンのご先祖様①江戸時代篇

21世紀を舞台にした近未来SFギャグマンガ「21エモン」。現実の世界も既に21世紀の「近未来」となってしまったが、本作の「未来感」は今なお色褪せてはいない。これは裏を返せば、藤子F先生が描いた21世紀の世界は、未来すぎていた、ということである。

さてそんな「21エモン」は、未来の波に乗り切れていないオンボロ旅館・つづれ屋が舞台である。つづれ屋の歴史は深く、第一話での20エモンの話を信じるならば、創業は江戸幕府開府とほぼ同時で、そこから450年も続いているのだという。つまり21エモンの世界は、2050年頃ということになる。

ただ、大全集にも収録されている「週刊少年サンデー」1968年10号掲載のグラフ記事によると、21エモンは2010年の元日に生まれて、現在は2023年で中学生ということになっている。こちらを正式な設定と考えておきたい。ちなみにパパの20エモンは1979年頃、19エモンは1949年頃に生まれたことになっている。

この設定を元に、祖先から21エモンまでの歴史と年代の辻褄があっているか、簡単に検算してみたい。

1603年頃のつづれ屋開業は市右衛門の手によるものだが、この頃に仁右衛門が生まれたと仮定する。これで考えると・・・

1600年2代目誕生
1949年19代目誕生

350年で18人目が生まれたということで、一代当たり約20年弱。戦前までは子供を産むのは早かったことを考えると、まあまあ辻褄があっている。つづれ屋の年代設定はまずまず正しいと言えるだろう。


さて、そんな長い歴史のあるつづれ屋とエモンたち。前置きが長くなったが、2回に渡って、21エモンの祖先たちがどのように生活していたのか、その暮らしぶりを検証してみたい。

今回は、週刊少年サンデーの増刊に掲載された特別編・『久しぶりだね5エモンくん』をテキストに、江戸時代のつづれ屋を見ていきたい。

『久しぶりだね5エモンくん』
「週刊少年サンデー」1968年8月1日臨時増刊

物持ちのよいつづれ屋は、ご先祖様が大事にしていた物は捨てないというしきたりがあって、時々虫干しをしているらしい。確かに『ゴリダルマ氏来る』では停電となってしまった際に行燈を出したりしてきていた。こうした古物を幾度の戦禍を乗り越えてきたのは立派である。

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ではその大事な形見とはどんなものだったか。初代市右衛門は紋付仁右衛門は提灯(近江屋と書かれたものを消してつづれ屋としている)、参右衛門と与右衛門は二代に渡って使っていたふんどし、とあまりロクなものはない。

しかし、吾右衛門の形見は豪華な箱にしまわれていて、他とは比べようもないほど立派で大事そうである。そして中身を検(あらた)めてみると・・・ただの懐中電灯であった。が、しかし! 江戸時代に懐中電灯があるわけがない。先ほどの年代計算に拠れば吾右衛門が活躍していたのはまだ1600年代であるはず。

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不思議がる21エモンたちだったが、そこに一人の男性客がやってくる。ここがつづれ屋だと言うと、その男性はオーバーに喜び、「ちっとも変っていない、あの時は世話になった」と、どうやら過去にもつづれ屋に泊まったことがあるらしい。

男の名前は、ジュゲム星のチョーキューメー。彼がやってきた記憶も無ければ、過去の宿泊カードにも名前の記載がない。モンガーは、「前に来たのはウソだと思う、なぜならこんなホテルに一度来たらこりちゃうはずだ」と軽口を叩いて、20エモンたちを傷つける。

このジュゲム人を連れてトーキョーの町を案内することになる。するとこの男は江戸もすっかり変わった、というようなことを言う。そこでこの前来たのはいつかと尋ねると、前回は「たった300年前」のことだという。ジュゲム人は長寿の宇宙人なのであった。

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ちなみにこの男の名である、ジュゲム星のチョーキューメーは、「ジュゲムジュゲム…」で始まる有名な落語噺「寿限無」から取られたものと思われる。

「寿限無」は、子供が生まれ、長寿を祈って縁起の良い言葉を並べて長い名前を付けた、という噺だが、この時の名前の最後は「長久命の長助」で終わる。このチョーキューメーが、ジュゲム人の男の名前として取られているのである。

ジュゲム人は2000年も生きるという。彼は既に亡くなってしまっている、4エモン、5エモンを偲んで昔を思い出す。当時は800歳だったという…。

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つづれ屋は江戸の町はずれの小さな宿場にあった。20エモンそっくりの4エモン、跡継ぎなのにやる気のない21エモンそっくりの5エモンが客引きをしているが、この当時から既に古い旅館扱いされていて、なかなか客が寄ってこない。

そこに疲れ果てた男が泊めて欲しいとやってくる。ジュゲム人のチョーキョーメー氏である。久々の来客に沸くつづれ屋。ここで、ママそっくりのおかみ、ゴンベエとオナベそっくりの使用人も登場する。もちろんロボットではない。

逃げないようにゴエモンが見張りに立つなど、どうやらつづれ屋は極度に流行っていないようである。そんな様子に「うちも落ち目だなあ」と5エモンは冷静に見ている。

ご飯を出すと、「食べ物だ」と大喜びしておひつを丸ごと平らげてしまう。空っぽとなってしまったおひつを覗いて5エモンが嘆く。

「ご飯が残っていない!僕らはいつも、お客の残り物を食べているんだぞ」

残飯を夕飯にしているとは、相当切羽詰まった状況のようである。

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翌朝、この宇宙人は無銭であることが判明。銀河系探検に来てロケット事故を起こしてしまった、というような説明をするが、江戸時代の4エモンにはチンプンカンプンである。追い出されたジュゲム人はフラフラとどこかへ歩き出す。5エモンは気になって後を追う。

ジュゲム人は山奥へ行くと、そこには円盤がある。燃料が切れて地球の引力圏を抜け出すことはできないらしい。よくわからない5エモンだったが、この男を元気づけて、つづれ屋で客の呼び込みを手伝うように勧める。

さっそく宿の前で呼び込むが、正直者ゆえ、寄り付いてきた客に対して「部屋は綺麗ではなく、飯は腹ペコならどうにか食える」と悪口を言ってしまう。昨晩バカ食いをしていたが、その時はあまりおいしくないと思っていたらしい・・。

そんな条件でも泊まろうという客の誘導に成功。しかし山奥で捕まえた変わったタヌキの見世物をしていたのが、最近商売が落ち目ということで、辛気臭い雰囲気を出している客である。

そしてその夜。ゴトゴトと二階で物音がする。灯りを付けて確認したいが油が切れていて使えない。旅館を経営しておきながら油もないとは・・。

すると、ジュゲム人は懐中電灯で明るくするのだが、当然なんだそれ!と驚く5エモンたち。その懐中電灯を使って二階のお客の様子を見に行くと、そこにはもぬけの殻。置手紙によると、宿賃が払えないのでタヌキを置いていくということらしい。

こんなことでは潰れてしまうと泣き出す4エモン。釣られるように、僕のせいだと泣き出すジュゲム人。あんたのせいじゃないよと、5エモンは慰める。やさしいつづれ屋のご先祖様なのである。

客の残した箱から、変わったタヌキが出てくる。・・・それはどう見てもモンガーである。既にペラペラしゃべっているので、21エモンの世界のモンガーとは別種であるらしい。宇宙空間で寝ていたら地球まで流されてしまったのだという。

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ジュゲム人とモンガーは、互いに地球の生物でないことを確認し、地球脱出の計画を立てる。モンガーは3キロしかテレポートできないが、それを繰り返して地球の引力圏を抜け出し、そこから宇宙船に残った燃料で文明の進んだ星へと向かう、というものである。

ジュゲムは、記念にと懐中電灯を渡す。これが5エモンの形見となったのである。星へ帰ったら宿賃を返しに来ると約束し、ジュゲムとモンガーは消えてしまう。ユメを見ているようだ、と5エモンたち。

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チョーキョーメー氏の回想はここで終わる。4エモン、5エモンの時代で、すでにつづれ屋や困窮に陥っているようである。江戸初期でこの調子なのに、よくこれが21世紀まで続いたものだと感心を深める次第である。

オチはお約束。チョーキョーメー氏は、宿賃を返しにきたはずなのに、なんと母国の星にサイフを置いてきたという。ちょっと取りに帰ると出て行ってしまうのだが、ジュゲム星は地球から17億光年離れていて、ワープ航法でも片道40年かかるという。つまり次に来るのは、往復して最低でも80年かかってしまう。どうやら、チョーキョーメー氏の宿賃を受け取るのは22エモン以降となりそうである。

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落語のようなオチがばっちり決まったところで、今回の記事はここまで。

次回は、昭和時代のつづれ屋を検証する。

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