喧嘩するほど仲がいいは本当か?『ションボリ、ドラえもん』/ドラとのび太の大げんか②
僕の持論は「喧嘩するほど仲が悪い」なのだが、さすがに子供向けマンガでは当然そんな身も蓋もない結論にはならなくて、たとえ深刻ないざこざがあっても、次の話の時にはまっさらの状態に戻っている。
とは言うものの、「ドラえもん」の世界では、のび太を中心に毎話ケンカや揉め事が多発しすぎている印象も受ける。特に厚い友情が育まれているはずのドラえもんとのび太は、毎回のように揉める。パターンとしては便利なひみつ道具を調子に乗って使ってしまうのび太に対してドラえもんが怒るお馴染みの展開や、実は毒舌なドラえもんがのび太を傷つけることもよく見かける。
ドラえもんを時系列(執筆順)で読むのを趣味にしている僕なのだが、ある時1981年にのび太とドラえもんの大喧嘩が集中していることに気がついた。この頃F先生の子供たちが喧嘩ばかりしていたのだろうか? などと邪推したくなる頻度である。
そこで「ドラとのび太の大げんか」と題して、1981年に起こった喧嘩エピソード3本を3回に分けて取り上げていく。
前回の記事では、初期ドラの代表的な喧嘩エピソード『タタミのたんぼ』を取り上げつつ、『キンシひょうしき』の回を検証した。この時は喧嘩の原因が、のび太だけではなく大人げないドラえもんにもその要因があるのでは?というようなことを書いた。
『ションボリ、ドラえもん』(初出:ドラミちゃん)
「小学三年生」1981年4月号/大全集12巻
本作は喧嘩ばかりの二人だが、本当は・・・という展開の密かな感動作となっている。絶対泣けるオススメ作品である。
冒頭から二人は喧嘩モード。何かドラえもんの道具を使って、のび太が痛い目に遭ったらしい。「失敗しない道具を出せ」「のび太にはいい道具を出しても無駄」といつもの言い合いである。さらにヒートアップして、
「言ったな、中古のポンコツロボットのくせに!!」
「なんだと!!ピンボケピーマンのダメ男!!」
と罵り合って、つかみ合いの喧嘩となる。
この様子をタイムテレビで22世紀から見ていたセワシ君とドラミちゃん。セワシは「ドラえもんを送ったことは間違いだったのでは」と思い始める。一生懸命やっていることを前提にしつつ、しばらくドラミにのび太の面倒を見させようということになる。
さっそく現代へとやってくるドラミ。最初にドラえもんに会い、
「気のせいかしら、二、三ミリ痩せたんじゃない?」
と気遣う。喧嘩して腹が立っているドラえもんは、
「のび太の面倒を見るのは大変なんだ。もう世話がやけて世話がやけて」
これを物陰で聞いてしまったのび太は「自分こそ役立たずのくせに!」と怒って行ってしまう。行ってしまった後に、ドラえもんは「もううんざり、未来の世界へ帰りたい」と騒ぎ立てるのだが、このセリフをのび太が聞いていない所がミソ。
ドラえもんの帰りたいという意思を聞いたドラミは、翌朝からのび太の面倒を見ていく。ひみつ道具と共に列挙していくと・・・
・朝起きない→「ゆめグラス」+「ゆめコントローラー」→ジャイアンに追いかけられる夢を見させて起こす
・教室で居眠り→「ゆめコントローラー」→夢の中でしずちゃんに勉強するのび太が好きだと言わせてやる気にさせる
・競争で最後尾を走るのび太→「自信ヘルメット」→友だちの悪口を自分への声援と変換させて最後まで走らせる
・帰宅後すぐ昼寝→「瞬間昼寝ざぶとん」→一瞬で起きる
・宿題をやらない→「クイズパズル光線」→宿題を面白いクイズに思わせてやらせる
・「ハッスルねじ」→元気に遊びに行き、今日は人が変わったようにいきいきしているとしずちゃんやジャイアンに褒められる
ドラミの道具の使い方はお見事で、のび太の自主性を重んじてうまく背中を押してあげるように働きかける。便利な道具を渡してのび太の好きなように使わせるドラえもんのやり方とは対極にある。のび太のことを思うのなら、ドラミちゃんの方が相応しいそうだ。
ドラミはのび太の世話の隙間で、手早く家の掃除と洗濯をしてしまう。のび太のママは「ドラミちゃんが居てくれると助かるわ」と喜ぶが、ドラえもんがその言葉の裏で傷ついていることに気がつかない。
ドラえもんは、のび太が空き地でのびのびと遊んでいる様子を見て、思わず涙を零す。のび太のためには、自分とドラミが交代した方が良いのだと・・。この様子が健気で泣けてくる。自分で一度は「世話するのにうんざりしている」と言ってしまったが故にもう引き返せない。
セワシもやってきて、本当に交代することになる。ドラえもんは強がって、
「いや~嬉しいな。これでやっと楽ができる」
と喜ぶ(フリをする)。
ドラミちゃんのサポートに満足して喜んで遊びから帰ってくるのび太。ところが、ドラえもんが代わりに帰ってしまうと聞いて、途端に顔色を変える。
「嫌だ、絶対に帰さない!!」
ドラえもんはそんなのび太に
「でも…でも、僕の出した道具でいつも君が酷い目に…」
と泣きながら問う。するとのび太は、
「僕が悪いんだよ。勝手に使うからなんだよ。これからは言うことを聞くよ。昼寝しない!宿題する!だから!お願いだから!」
と、号泣しながら最上級の引き留めをする。二人の抱き合って泣く姿は、真の友情を感じさせる。
お世話になるだけならドラミの方がいいのは今回明らかになった。けれどそれでものび太はドラえもんと一緒にいたいのである。つまり二人にとっては既に世話する/世話してもらうの関係性ではないことが伺える。ある種対等の、人生に無くてはならない二人になっているのだ。
「長い目でみよう」とドラミとセワシは未来へと帰っていく。タイムテレビで様子を見ると、涙を流したことが嘘のようにドラとのび太はぶつかり合って喧嘩をしている。
「しょっちゅう喧嘩してても、ほんとは仲良しなのよね」
とドラミちゃんは納得したようである。
本作では、未来に帰る帰らないのレベルまでの喧嘩をしてしまうのび太とドラえもんだが、もはや世話する・してもらうの間柄ではない深い関係性であることが判明する。
ところがこの半年後、またまた同じレベルの喧嘩が巻き起こってしまう。それについてはまた次稿書いていきたい。
「ドラえもん」の考察たくさんやっていますので、お立ち寄りください。
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