太平洋徒歩横断計画破綻す。『海底ハイキング』/ドラミ大活躍⑤
ドラえもんの妹ドラミちゃんを主人公としたスピンオフ作品、「ドラミちゃん」。あまり知られていないが、1974年に「小学館BOOK(ブック)」という雑誌で計8本が発表された。
ドラミちゃんがお世話をすることになるのが、のび太の遠い親戚であるのび太朗で、外見はのび太と瓜二つである。
のび太朗の周囲には、しずちゃん・スネ夫・ジャイアンに類する友人たちがいるのだが、のび太同様、みんなからは落ちこぼれた立ち位置となっている。
「ドラミちゃん」は小学生向け学習誌からは解放された、チャレンジングな内容を伴う作品が多く描かれ、ファンの支持も厚いものばかり。
例えば前回記事にした『地底の国探検』などは、地底人・遺跡・ダウジング等々の藤子先生の大好きなモチーフをこれでもかと詰め込んだ傑作である。
そして本稿で取り上げる作品もまた、藤子ワールド全開の胸ワク・スペクタクルとなっている。個人的には「ドラミちゃん」全8作の中で、最も完成度の高いエピソードなのではないかと考えている。
舞台はタイトル通り「海底」。のび太朗が、ひと夏の大冒険として、日本からアメリカ大陸までを、海底を歩いて横断しようと計画する。とてもいつもの短編の分量では描き切れそうもないスケールのお話である。
もっとも、きちんと枠内に収まるような展開が用意されているわけだが、海底の冒険というテーマは、藤子先生の中で未消化案件として残り、それはやがて「大長編ドラえもん」にて爆発する。
そういう意味で、本作は藤子史の中でも意義深い作品であることは間違いない。
いつもの仲間が集まって、夏休みの目標を語り合っている。カバ田(ジャイアン)は、1000メートル泳ぐこと。みよちゃん(しずちゃん)が本格的な植物採集。ズル木(スネ夫)がハワイでサーフィンの名人を目指す。
そんな話をニコニコ聞いていたのび太朗は、友人たちには毎日ゴロゴロ暮らすんだろうと揶揄されるが、そこで急にデカイことを言い出す。
いきなりの大活躍宣言で、話を聞いた3人は口をあんぐり・・。
のび太朗は家に帰り、ドラミに「あれができた?」と尋ねると、ドラミは「どこからどこまでもそっくり」だと言ってピースサインを出す。
ドラミちゃんが作っていたのは、のび太朗そっくりのロボットであった。中古ロボットを改造したらしく、のび太朗はその出来に不満を示す。
で、なぜのび太朗のコピーロボットを作ったかと言えば、のび太朗が夏休みの期間中、大冒険するので、その間、身代わりを務めてもらうためである。そして、その大冒険とは・・
である。
当然世界初の試みで、のび太朗はサンフランシスコ上陸の騒ぎを勝手に思い描いて悦に入る。ただ、とても今の科学技術では不可能な計画なので、公にはできないとは思うのだが・・。
ドラミは急に心配になるが、のび太朗は自信満々。ドラミから素晴らしい道具を貸りたので、絶対に成功すると意気揚々である。
では、簡単だがのび太朗が準備してもらった道具一式を紹介しておこう。
さあ、出発の日。日の出前に家を出る。中古ロボットが「ゲンキデイッテコイ!!」と、場違いに大声で送り出す。いきなりロボットの性能が不安視される出だしである。
ドラミものび太朗についていきたいところだが、長時間海水に浸かると錆びてしまうらしい。わりと繊細なロボットさんである。
のび太朗は、「心配するな、アメリカ土産を楽しみに待ってな」と強気に語り、「記念すべき第一歩だ」と水の中に飛び込んでいく。のび太朗は、のび太と違ってかなり勇気のある男のような気がする。
飛び込んでウニにお尻を刺されるハプニングがあったが、順調に海底を歩き出す。特に序盤は、太陽光もしっかりと届く「大陸棚」なので、海底の美しさに見惚れるようにして歩いていく。
と、ここで藤子流の解説が入る。前作『地底国の探検』では地球の内部構造を図解していたが、本作では「海底はこうなっている」という丁寧な解説が加えられている。
「大陸棚」「大陸斜面」「深海底」「海溝」と分かりやすい図と解説が一コマで紹介される。こういう勉強になる部分があるので、「ドラえもん」は親にも大人気なのだ。
ただ、この図解に、ひっそりと「火山島」の絵も描き加えられている。後の伏線となる部分を、しっかりと埋め込んでいる点には要注目である。
ここからはのび太朗の海の大冒険が描かれる。エイを踏んでしまったり、サメを水圧銃で撃ったり、コンクフードを食べたりと順調なスタート。
大陸斜面を降りていくと、どんどんと暗くなっていくが、チョウチンアンコウなど深海魚が泳いでいる。さらに深く進むと魚は一匹もいなくなり、通信機でドラミちゃんにラジオでも聞かせてとオーダーするも、怪談を流されて逆に怖くなってしまう。
まあ、のび太朗は着々と太平洋を横断しているのだが、居残りの中古ロボットの性能が、いよいよ怪しくなっていく。水撒きを頼まれ、部屋中に撒いてしまったりするので、ドラミは部屋で寝かしつけておかねばならない。
のび太朗は日本海溝に差し掛かる。今回の旅の中で一番の難所である。深海ではマリンスノーが舞い、深く潜行したクジラを目撃する。このあたりの海底の描写は、読む者をドキドキさせてくれる。
しかし、ここで大トラブル発生。鳥島沖の海底火山が爆発したのである。この伏線として、「火山島」の図解が示されていたのだ。
地震によってのび太朗は海の深い底へと飛ばされてしまう。気がつくと、海底探検道具一式を手放してしまっている。身一つで、通信機もないのでドラミに助けも呼べない。
場所もわからない真っ暗闇。絶体絶命のピンチに陥ったのび太朗の目に、光が見える。それは深海潜水艇であった。
「助けて」と潜水艇に近づくが、乗組員たちにとってはオバケとしか思えない。逃げるように急速に上昇していく潜水艇。のび太朗は「逃がしてたまるかっ」と潜水艇の一部分にすがりつく・・・。
結果、潜水艇に引っ付いて、東京湾まで戻ってくることができたのび太朗。強運の持ち主だし、根性もある。やはり親戚ののび太とは一味違う。
ドラミは泣いて出迎えて、役立たずのロボットはスイッチを切ってしまう。のび太朗はもうクッタクタということで、しばらくゆっくり休むと宣言。部屋でゴロゴロするのび太朗。
すると、庭の外からズル木たちがのび太朗を見て、言った通りのび太朗は毎日ゴロゴロしていると、馬鹿にされるのであった。
海底の大冒険。このとっておきのネタは、「のび太の海底鬼岩城」へと続く・・。
「ドラえもん」考察ばっちし。
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