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のび太もパパも自慢されがち『箱庭で松たけがり』/マツタケへの異常な愛情②

お金持ちの代名詞となる食材。いくつかあるが、メロン、シャインマスカット、毛ガニ、フカヒレ、ウナギ、キャビア、マカロン・・・そんなところだろうか。

その中で、マツタケも同じ仲間に入るだろう。「たかが」キノコのはずなのに、一本数千円の値が付き、滅多に庶民がたくさん食べられる代物ではない。

よって、実際に美味しいかどうかはともかくとして、都市伝説的にマツタケの価値は高まり、是非とも食べてみたい食材の一つとなっている。

負け惜しみのように、香りがきつすぎるとか、値段と美味しさが釣り合っていないという話はよく聞くのだが、それもこれも実際に食べた人が周囲にいないので、確かめようがないのである。


さて、そんな高級食材に手が届く藤子キャラと言えば、「パーマン」であれば三重晴三、「ドラえもん」なら骨川スネ夫となる。前稿では、三重晴がマツタケの自慢をしているお話を取り上げたが、引き続いて本稿では、スネ夫のマツタケ自慢を端にした作品を見ていきたい。

前回の記事はこちら。


さて、本日もスネ夫の「不愉快で羨ましい」自慢話から始めてみたい。

『箱庭で松たけがり』(初出:箱庭シリーズ)
「小学三年生」1984年11月号/大全集15巻

一コマ目からたっぷりとスネ夫の自慢で幕開ける。今回のお題は「マツタケ」である。せっかくなので、全文を引いてみよう。

「松たけ山へ行ったんだ。もー、取り放題の食べ放題。土瓶蒸しやら焼き松たけ、松たけ飯に吸い物・・・。採りたてだからさ、香りも歯ざわりも何とも言えないんだ。腹いっぱい食べちゃった。君たちも是非行くといいよ。いや、高いから無理かな。アハハハアハハハ」

こんなのが友だちでいたら、必ずや縁を切ってしまうだろう。下手すれば手が出るかも知れない。

のび太もジャイアンも迷惑そうな顔で涎を流し、しずちゃんさえも不愉快そうな表情を浮かべる。のび太は「いつもながらあいつの自慢話は、実に不愉快で羨ましい」と実に言い得て妙な感想を述べるのであった。


いつもののび太の行動パターンからすれば、「松たけ山を出してくれ~」とドラえもんに泣きつきそうなものだが、「さすがに松たけ山はポケットに入ってないよな」と、今日は冷静さを取り戻して帰宅。

すると、のび太ではなく、のび太のパパが悔しそうにドラえもんに訴えかけてくる。パパの釣り友だちがかなりのデカさのイワメを釣ったらしく、「これで実力の違いがはっきりした、悔しかったらお前も釣ってみろ」と挑発されたと言うのである。

のび太のパパは度々釣りに出掛けており、ライバルの存在も見え隠れしている。例えば本作の一年前に発表した『海坊主がつれた』では、スネ夫風の嫌味な友人に巨大なイシダイを釣ったと自慢されている。おそらくこの時の友人に自慢されたに違いない。

ちなみに『海坊主がつれた』では、海釣りだったが、今回は渓流釣りの話題。ジャンルを股にかけて、パパは趣味として普段から釣りを楽しんでいるのである。


のび太のパパは、「忙しくて行けないだけで、釣りに行けさえすれば釣れるんだ」と強調する。そこでドラえもんはパパの意を汲んで、「箱庭シリーズ急流山」という小さな山の盆栽のような箱庭を出す。

スイッチを入れると水が循環し始めて、谷川ができる。そこへ「瞬間成長ミニチュア渓流魚のタマゴ」を撒く。しばらくしてルーペで箱庭を覗いて魚が育ったことを確認すると、パパに釣りの支度をさせて、スモールライトで小さくして箱庭の中に設置する。

自分自身が小さくなれば、箱庭も立派な急流山。パパは大喜びで渓流に入ってイワナ釣りを始めるのであった。


さて、先ほどドラえもんはこの箱庭を出す時に、「箱庭シリーズ」と口にしていた。のび太が耳ざとくそれに気がついて、他にもあるのかと尋ねると、

・ロッククライミング練習用の「岩山」
・スキー用「ゲレンデ」
・お子さま用「ハイキング山」
・スリルいっぱい「遭難山」

などがあるという。

のび太が「松たけ山」なんてないだろうね、と試しに聞いてみると、「ある」と即答。のび太は一度は諦めていた松たけ山が存在すると聞いて色めき立つ。


ドラえもんが取り出しのは松たけ狩り用「赤松山」という箱庭。赤松と言えば、松たけが生える貴重な木である。そこに松たけの菌糸を撒き、適当な陽の光と雨を注ぐと、十分ほどで松たけが生えてくるという。

のび太はすかさずしずちゃんを誘いに行き、強引に連れて帰ってくると、3人で小さくなって「赤松山」へと入山する。

すると探すまでもなく、山のあちこちに松たけがニョキニョキ生えている。カゴ何杯分も収穫し、採りたてを焼いて食べてみようということに。


その頃、ママが買い物から帰宅。「たまには松たけを・・」と購入を検討したようだが、あんまり高いので断念したらしい。家に入ると松たけの香りがするが、そんなわけないと思うママ。

しかしママの嗅覚は正しく、のび太の部屋の箱庭の中では、ちょうど松たけに火が通ったところであった。のび太たち3人は新鮮な松たけのおいしさ、香り、歯ざわりに感動し、持ち帰ってママをビックリさせようと考える。


するとちょうど渓流釣りを終えたパパも大きくして合流。パパは「こんなに釣れたのは生まれて初めてだよ」と興奮冷めやらぬ様子である。

そして、大量のイワナと松たけをママに差し出すと、突然の大収穫に虚を突かれて大混乱。「これはユメです。絶対に信じません」と半ばパニックになるママなのであった。


本作では、のび太と同時にのび太のパパも友人に自慢されて、ドラえもんを頼るという流れとなっている。

普段、人から自慢をされる経験がない僕としては、こんな嫌な奴らとは好んで友だちになりたくないと思ってしまう。特に大人になってからの友人は選べるので、是非とものび太のパパは、イヤミな釣り友だちとは縁を切るべきではないだろうか。

でも、そうはいかないものなのかな。




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