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松茸泥棒VS.パーマン『マツタケ山に全員集合』/マツタケへの異常な愛情①

松茸<マツタケ>

特有な芳香を持つキノコで、赤松<アカマツ>の根本などに生えるが、とても見つけにくく希少性が高い。高額で取引されており、国産では最低一本売りで3000円くらいの値がつく。

庶民が気軽に食べることのできない高級食材であるが、その一方で、松茸は香りが強すぎてそれほど美味しいものではない、などと言われたりもする。

ただ、それも松茸に手が届かない一般市民の負け惜しみのようにも聞こえ、実際にはそれなりに美味しい食材であることは間違いなかろう。


藤子F世界では、基本的にはどこにでもある家庭の、どこにもでいる子供たちが主人公となるので、当然のごとく松茸を頻繁に食べることができる環境にはない。

しかし、庶民的な主人公の周りには、一握りの金持ちが居て、彼らは財産に物を言わせて、高級食材をいとも簡単に手に入れてしまう。そして、黙って食べておけば良いのに、必ず食べたことを自慢してしまったりする。

まあ、僕などは松茸もシイタケも区別のつかない味オンチではあるが、自慢されてしまうとちょっと話が変わってくる。やっぱり少年少女にとって、自慢されるようなものは、自分も経験したいと思うものなのである。

そこで、「マツタケへの異常な愛情」と題して、松茸にまつわるエピソードをご紹介していきたい。松茸の本格的季節の到来はこれからだが、先行して松茸の香りを(脳内で)楽しんでもらえれば幸いである。


「パーマン」『マツタケ山に全員集合』
「小学五・六年生」1983年11月号/大全集8巻

須羽家の食卓ではマツタケの話題が上っている。パパがたまにはマツタケご飯なんか食べたいと無邪気に話し、ガン子ちゃんが「マツタケってなあに」と質問し、みつ夫は「食べたことあるだろ、二、三年前」と返す。

声高らかに会話をしているので、ママは「そんなこと大声で言わないの」と釘をさす。そして例の庶民のマツタケ評を口にする。

「マツタケなんて、そんな美味しいものじゃありませんよ。もっと安くて栄養のあるおかずがいっぱいあるでしょ」

至極ごもっともな意見で、パパも「何しろ高すぎるからね」と同調する。ところがママは続けて、「それにしても・・・、一度でいいからマツタケをお腹いっぱい食べてみたいわね」と、庶民の本音を語るのであった。


この会話を経て、みつ夫はマツタケを食べてみたくなる。するとそのタイミグでカバ夫とサブがやってきて、三重晴三がマツタケ狩りに行って、マツタケご飯や吸い物や土瓶蒸しを腹いっぱい食べたと自慢されたことに腹を立てている。

みつ夫はこの話を聞いて自分から三重晴の元へ向かい、「食べた話はいいからマツタケ山がどこにあるか教えて」と尋ねる。マツタケを食べたければ、山へ取りに行けばいいんだと、考えたのである。

みつ夫は「どうしてこんな簡単なことを皆気付かないんだろう」と、パーマンになって三重晴から聞いた山へと向かう。もちろん、皆が直接山に松たけ採取に行かないのは、気付かないからではなく、気付いてもそれがご法度な行為だからなのだが・・。


聞いた通りの山に着き、赤松の林を探すとすぐにマツタケが見つかる。一本採って香りを楽しんでいると、後ろから強面の男二人が「とうとう見つけたぞ、泥棒」と言って近づいてくる。

パーマンはようやくここで、マツタケ山に入るのにはお金がかかることを知る。山の持ち主からすれば、年に一度のマツタケ採集を勝手にされては商売あがったりなのである。

パーマンが怒られていると、地主の子供が声をかけてくる。地主たちはパーマンのことを知らなかったようで、子供から正義の味方だと聞いて、非礼を詫びると共に、本物のマツタケ泥棒を捕まえてくれと頼んでくるのであった。


その夜、ブービーとパー子も呼んで、マツタケ山の監視をすることに。怪しい者を見つけるだけでなく、証拠のマツタケもセットで押さえなくてはならない。山は広いし、泥棒がいつ来るかもわからない。行きがかりとしても、途方もない任務を引き受けてしまったものだ。

そこでパーマンたち三人は、山の頂上、中腹、ふもとに分かれてのパトロールを計画する。頂上の担当が一番楽だが、ここはくじ引きで2号が受け持ち、中腹は3号、一番大変なふもとは1号の分担となる。


1号が林の中を飛んでいると、夜中にも関わらず川で釣りをしている人を目撃する。川を覗いてみると魚がうようよ泳いでいて、パーマンは手掴みをしようとするのだが、誤って川に落っこちてびしょ濡れになってしまう。

一方、探し物の名人であるブービーは、マツタケ泥棒と思しき二人組が「どっさり採れたぜ」などと言いながら車に乗り込むところを目撃する。すぐに1号と3号を呼ぶ2号。

ブービーの姿を逆に目撃した犯人グループは、「手はず通りにやればパーマンなど怖くない」と強気な姿勢を見せる。そして車を崖に寄せてそろそろと走る。何か、秘密の作戦があるようだ・・。


ブービーに呼ばれた3号が駆けつける。1号は濡らした服を乾かしていて、出遅れている。2号と3号は二人で十分だと言って、1号を待たずに走る車を止めて、マツタケ泥棒たちをお縄にしようとする。

ここで思い出して欲しいのは、任務に当たって、パーマンが「怪しい人だけではなく、証拠のマツタケも押さえる必要がある」と言っていたことである。このセリフが伏線となっていて、この後、パー子たちは犯人の車から証拠のマツタケを見つけることができずに、逆に責められてしまう。


パー子たちが泥棒扱いしたお詫びにマスクを脱げと脅されている時に、パーマンはようやく服が渇いて任務に復帰。すると先ほど落ちた川にビニール袋が大量に流れているのに気がつく。

中を検めると、それは大量のマツタケ。そして川の下流では先ほど夜釣りをしていた男が、ビニールに入ったマツタケを取り上げている。

作中では説明を端折っているが、要はマツタケを盗む男たちがいて、彼らがビニールに詰めて崖から川に落とし、流れていった先で泥棒仲間がそれをピックアップしていたという手口なのであった。


こうしてマツタケ泥棒グループは捕まり、パーマンはおみやげに一本数千円のマツタケを籠一杯に貰う。これはそのまま須羽家へと渡され、みつ夫たちはマツタケ三昧の日々を送ることになる。

みつ夫は三重晴三を追い回して、一週間マツタケを楽しんだ自慢をする。追われる三重晴は、「聞きたくない」と逃げ惑うのであった。


ちょっとしたマツタケ泥棒のテクニックがスパイスを聞かせつつ、最初から最後までマツタケをメインテーマにしたお話となっている。読んでいてパーマンへの憧れも募るし、自慢していた三重晴もしっぺ返しを食う展開も良くできている。

僕としてもお気に入りの一本である。

さて次稿では、金持ちの友人のマツタケ自慢から始まるという、本作とほぼ同じ流れの作品があるので、そちらを続けてご紹介しよう。




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