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潜水る幽霊船と空飛ぶ幽霊船「すすめロボケット」二本立て/幽霊船の謎③

「幽霊船の謎」と題して、文字通り幽霊船に関するお話を集めるこのシリーズ記事はこれで3本目。

そもそもユーレイに関するお話を藤子先生は各作品で量産しており、一大ジャンルを成している。展開は見事に似ていて、何らかのきっかけで「幽霊」の噂を聞き、主人公たちが怖がりながらもその真相を確かめに行こうとする。そして、結局は幽霊はニセモノだった、という終わり方となる。


幽霊の正体には二パターンあって、一つは偶然が重なって幽霊現象が起きてしまう自然発生パターン、もう一つは主に悪い人間の手によってあたかも幽霊がいるかのように仕組まれるトリックパターンがある。

幽霊船の記事は2本書いたが、船の幽霊ということで、とても自然に発生するようなことはあり得ず、両作とも悪者の大規模なトリックによるものであった。(詳細は以下の記事にて)


本稿では藤子先生の出世作である「すすめロボケット」の「ゆうれい船」エピソードを取り上げる。2作品あるので、両方とも紹介するが、バトル漫画の性質上悪者の手によるトリックパターンである。

船の幽霊ということでスケールはとても大きいものとなっているのも特徴的。もともと「すすめロボケット」はSF冒険活劇ジャンルなので、幽霊船という謎めいた存在は、強力な敵役としてピッタリだったに違いない。


それではまず、「すすめロボケット」の概要を解説しておこう。

「すすめロボケット」は、1962年1月に「幼稚園」で連載が始まり、「小学一年生」「同二年生」「同三年生」と学年繰り上げ方式で1965年8月まで掲載された。(ただし連載は3期に分かれている=この辺の説明は割愛・・)

本作と同時期に連載していた「てぶくろてっちゃん」と合わせて、2作品を対象に、1962年第八回小学館漫画賞を受賞している。


「すすめロボケット」の連載時期というのは、「海の王子」「ロケットけんちゃん」といった飛行機(ロケット)に乗った主人公が活躍するSF活劇作品と、「オバケのQ太郎」という日常SFギャグ漫画の端境期にあたる。

本作では「ロボケット」という人格を持ったロケット+ロボットが登場し、主人公のすすむとみちこ(みき)が、ロボケットと作戦を立てて敵と戦う。「海の王子」(冒険活劇)から「オバQ」(日常ギャグ)を繋ぐ進化の過程のような作品となっているのである。

なお本作のより詳細な解説は、別途記事にする予定である。


『ゆうれい船のなぞ』「小学二年生」1963年7月号/大全集2巻

本作は第一期にあたるお話。この期ではすすむと一緒に行動する女の子の名前はみきで、お兄さんが発明家である。その点だけ押さえて、お話を見ていきたい。

冒頭は、すすむとみきの二人で船で沖へ出て海釣りを楽しんでいるが、さっぱり釣れない様子。すると大きな獲物が引っ掛かったと思うと、なんと巨大な古い船が浮上してくる。

古ぼけて気味が悪いが、勇気を出して船内の探索に入るすすむ君。内装もボロボロで乗員の姿はない。しかし船が勝手に動き出したので、慌てて船に戻るすすむ。

古船はそのまま進んでいき、海に浮かんでいた汽船へと突っ込んでいく。汽船を沈め、すすむたちの船に向かってくるので、全速力で逃げ出す。

家に帰ると、留守番をさせられていたロボケットが、「逃げるなんて情けない、自分ならギューと言わせる」と言い張る。人間味たっぷりのロボットなのである。


幽霊が本当にいるか否かでロボケットとすすむで言い合いになったので、確かめてこようと再び海へと向かう。港から動き出した船を追って海上に出ていくロボケット(に乗ったすすむとみき)。

すると海の中から幽霊船が浮上してきて、船を襲おうとしたので、ロボケットたちは体当たりして、幽霊船の中へと入る。が、やはり誰もいない。そしてひとりでに海の中へ沈んでいこうとしたので、ロボケットはこの船を抱えて帰ることに。


幽霊船を持ち帰り、みきちゃんのお兄さんが調べてみるが、誰かが隠れているようなことはない。すると「海に返せ」と幽霊船から声が聞こえてくる。お兄さんはテープレコーダーか何かだろうと推察し、それでは海に戻してみようと提案する。

そして海に浮かべてみると、しばらくして海の中へと潜っていく。後を追うロボケットたち。すると船の下に潜水艦がくっついて航行している。幽霊船は、潜水艦が船底から操っていたのだ

やはり人間の手によるものであった。潜水艦だけ切り離れ、ロボケットと戦闘になるが、相手が幽霊でなければ、もはや敵ではない。あっと言う間に倒してしまうロボケットであった。


『空とぶゆうれい船』「小学一年生」1965年2月号/大全集3巻

続けて同じく「すすめロボケット」から「ゆうれい船もの」をご紹介。こちらは「第二期」の作品で、すすむのガールフレンドの名前がみちことなっている。なぜか名前が変わっているが、外見やお兄さんが発明家であることは変わらない

本作ではすすむとみちこで雪山スキーに行くのだが、あまりスキーが得意でないのと、天候が悪化してしまって、遭難直前。ロボケットも一緒に来ていたのだが、道に迷ってはぐれてしまったようだ。

すると、山奥なのになぜか大きい船が一艘置いてある。すすむが中へ入ってボロボロの船内を隈なく見ていくが、誰もいない。すると、船がひとりでに浮かび上がっていく。仕方なく飛び降りるのだが、気絶してしまう。


雪山のロッジで目を覚ますすすむ。ロボケットも合流している。すすむは幽霊船だと言うが、ロボケットは信じない。このあたりの流れは、『ゆうれい船のなぞ』とほぼ一緒である。船が沈むか、空に浮かぶかの違いだけ。

みちこのお兄さんに幽霊船の話をすると、東京では、空とぶ幽霊船が旅客機を襲ったりしていて、そのニュースで持ちきりだと言う。さっそく調べてみようということで、お兄さんから写真を撮ってくるよう頼まれる。


空飛ぶ飛行船が、飛行機を襲っている現場に割って入ったロボケットは、船体に体当たりするのだが、穴が開いても平気で飛んでいる。そこでロボケットは力づくで船の帆を掴んでぶん回し、確保に成功する。

みっちゃんのお兄さんに持ち帰り、調べてもらうことにする。しかしエンジンはなく、一匹の真っ赤な蜘蛛が這っているのみ。明日、明るくなってから再調査をしようということになるが、翌朝、飛行船は忽然と消えている。やはり本物の幽霊船だったのだろうか・・?


お兄さんは、昨日すすむが撮った写真を現像する。すすむが待っていると、昨日捕まえた赤い蜘蛛から針金のような糸が出て、すすむを捕まえたかと思うと、そのまま空へと連れ去ってしまう。すすむが糸の先を見ると、なんと幽霊船がすすむを吊っている。

一方、お兄さんの写真の現像が終わる。特殊なカメラだったようで、被写体を透き通して写すことが可能。今回の写真を見てみると、幽霊船の船内には何も映っていない。やはり幽霊船? と思っていると、写真の上の端に何かが写っている。

ここを引き延ばしてみると、それは飛行機。こいつが上方の雲の中から、糸を引いて幽霊船を操っていたのである。『ゆうれい船のなぞ』では船底の潜水艦に操られていたが、今回は上空の飛行機によるものだった。


正体が分かれば、あとは戦うのみ。ロボケットは幽霊船を追いかけ、さらにその上の飛行機を探し出す。飛行機とは遭遇できるが、先に捕まっていたすすむを人質に取られて、一度はロボケットも捕まってしまう。

すすむとロボケットは蜘蛛の糸で縛られたまま一緒に海へと放り込まれるのだが、蜘蛛の糸は塩に弱く、溶けてしまう。・・敵はなぜ、糸の弱点を知らなかったのか・・。

そしてロボケットに乗り込んだすすむは、飛行機に反撃し、あっという間に操縦不能にさせて、「幽霊飛行機」にしてしまうのであった。


2作続けて「すすめロボケット」の幽霊船のお話を見てきたが、かなりの共通点があった。一応簡単に整理しておこう。

『ゆうれい船のなぞ』
海釣りで遭遇。
勝手に潜水する。
ロボケットは幽霊を信じない。
船底の潜水艦で操縦していた。
幽霊だと脅して仕事をしやすくしていた。

『空とぶゆうれい船』
スキーで遭遇。
勝手に飛行する。
ロボケットは幽霊を信じない。
上空の飛行機で操縦していた。
幽霊だと脅して仕事をしやすくしていた。

海か空かの違いがあれど、ほぼ同じネタの使い回しと言ってもいいかもしれない。ただ、幽霊船と戦う、幽霊船の謎を解くというモチーフは、以前の記事でも紹介したように、その後の作品でも繰り返し使われることになる。

ネタの使い回しは藤子先生の手抜きではなく、幽霊ネタが特別に好きなのだと解釈する方が良かろう。


さて、幽霊船の物語の紹介はここまで。まだまだ未紹介のユーレイネタも多いので、また違う切り口でご紹介できればと思う。


藤子作品を様々な切り口で紹介中です!


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