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悪徳船舶会社『ゆうれい船の謎を解け!』/幽霊船の謎①

たびたび藤子Fノートでは話題にしているが、藤子先生の大定番として、心霊現象や幽霊の類いがテーマとなるお話がある。

それらはたいていの場合、幽霊がいると噂されている場所に行くのだが、必ず裏で手を引いている輩がいて・・という展開となる。つまり「ユーレイは実際にはいない」というオチとなる黄金パターンが存在する。


昨年夏、「しかしユーレイはいない」と題して、同一パターンの5作品を紹介・検証したのだが、実はまだまだ取り上げていないタイトルが残っている。

そこで今回は「幽霊船の謎」と題して、文字通り幽霊船を舞台とした作品をいくつか紹介していく。なお、あらかじめ書いてしまうと、幽霊船には幽霊はいない。必ず、ユーレイの裏側には人間の手が入っている。パターンは一緒なのだが、作品ごとにトリックは異なるので、そのあたりを比較・堪能してもらいたい。


「パーマン」『ゆうれい船の謎を解け!』
「小学三年生「小学四年生」1984年6月号/大全集8巻

まず「しかしユーレイはいない」シリーズで紹介した「パーマン」の記事を貼っておく。

この『別荘のユーレイ』から約9カ月後に発表された作品が、『ゆうれい船の謎を解け!』である。同じ幽霊ものだが、舞台が別荘から幽霊船に移る。


藤子作品のキャラクターたちは、大体が幽霊を極端に怖がる人たちばかり。「パーマン」においても、パーマンを筆頭にパー子もブービーも幽霊は得意ではない。(ただしパーやんは別)

パーマンはみんなのヒーローなので、「敵」と戦ったり「事件」を解決することが最大の任務となる。しかし相手が幽霊となると別。恐怖が先んじて、事件から腰が引けてしまう

「ヒーロー活動しなきゃ」という使命感と、「幽霊が怖い」という弱腰の気持ちがぶつかり合う。本作はそんな葛藤が描かれる作品となっている。


本作は始まり方がカッコいい。

濃霧が広がる海。須倉丸と書かれた船がボウっと海上を進んでいる。別の1隻の船に乗っていた船長が、須倉丸を見て「そんなばかな・・」と言葉に詰まる。須倉丸は1ケ月前に沈んだ船なのだ。

「ゆうれい!!」

男は完全にビビって、全速力でその場から逃げ去るのであった。

このオープニングシーンは、本作の二年前に発表された「ドラえもん のび太の海底鬼岩城」のようなスケール感を感じさせる。9ページ(扉除く)の短編ながら、冒頭の幽霊船の描写で丸々1ページを使っており、あたかも大長編のような贅沢な幕開けである。


この幽霊船の謎を解こうと、パー子とブービーがパーマンに声を掛ける。ところがパーマンは、「やめてくれ!!」と話を遮ってしまう。幽霊船なんてあるわけないと断言し、そんなくだらない話題は嫌いだと、話を聞こうとしない。

パー子は「科学では説明できない不思議な出来事もある」と反論し、本当か嘘か確かめに行こうと提案する。(ブービーもウイウイと賛同する)

しかしパーマンは「そんなのパーマンの仕事じゃない」と二人を置いて帰ってしまう。「怖いもんだから」と小ばかにするパー子とブービー。


その晩。シトシトと雨が降っている。みつ夫はトイレに行きたくなったが、昼間の「あれ」の話を思い出して、布団から出られない。我慢できず、なぜかベランダに飛び出すと、庭の片隅で何者かがこちらを見上げている。

恐怖でもう一度布団を被るみつ夫だったが、ここで「僕はパーマンだぞ」と自ら鼓舞し、パーマンセットを身に付けて、庭の何者かに迫る。

「そ、そ、そ、そこにいるのはだれ、だれ、だれだ!!」

と、ヒーローのプライドで持って恐怖を乗り越えるかのような声を絞り出す。


怪しそうに見えた人物は、夜中になるまでパーマンを探し歩いてきたという青年だった。彼の依頼は海に出て幽霊船を探して欲しいというもの。沈んだ須倉丸には青年の兄が乗っていて、他の乗組員はボートで脱出したが、兄だけは帰ってこなかったという。

青年の兄は中卒で須倉丸に配属されていたが、いつ沈んでも不思議ではないボロ船だった。いい加減な船舶会社だとパーマンは感想を言うと、青年も賛同する。今度の事故も保険金目当てに沈めさせられたという噂まで広がっているという。

幽霊でもいいから兄に会いたいという青年のお願いだったが、パーマンは今回は恐怖に負けて「迷信は嫌いだ」と言って断ってしまう。


ガッカリして帰っていく青年。すると真夜中にも関わらず、パーマン宛てに電話がかかってくる。その内容は、さっき現れた男の子の相手をするな、命が欲しかったらベッドに潜っていろ、という脅迫電話なのであった。

ここで正義感が恐怖を上回る。「気が変わった」と男の子を追いかけて合流し、幽霊船のいる海へと向かう。

「パーマンが脅されて引っ込んでいられるか!」

と、カッコいいみつ夫。こういう場面があるので「パーマン」ファンは止められないのである。


海上は今日も霧で立ち込めている。現場となった海の近くでは、灯火もつけないで一艘の船が動いている。幽霊船ではないが、何やら怪しさを感じる。

すると、目の前に須倉丸が航行してくる。パーマンはいきなりの幽霊船の登場に慄いて一度は逃げ出すが、何とか戻って乗船。すると、これは幽霊ではなく、紛れもない本物の船であった。

沈んだはずの須倉丸が、なぜ??


すると、船内から一人の男が姿を現わす。何と男の子の兄であった。兄は幽霊船の真実を語る。

・社長の命令で船底にダイナマイトを仕掛けた
・ボートに移ってから船が可哀そうになり一人で戻った
・ダイナマイトを放り出すと海の中で大爆発した
・霧の中での爆発音だったので、船が沈んだと勘違いされた

幽霊船は、やっぱり幽霊船ではなかった。そこへ先ほど見つけた無灯火の船が近づいてくる。須倉丸を今度こそ沈めようと、船舶会社の人間が探し回っていたのだ。パーマンは相手が幽霊でないとわかって、安心して無灯火船へ飛んで行く・・。


新聞では「パーマン、ゆうれい船の謎を解く」とパーマンの勇気を讃えている。パー子は「あんなに怖がっていたの」にと驚き、ブービーも「ホー」と声をあげる。パーマンは、

「やるべきことはやる! それが僕の主義さ」

と、得意満面なのであった。


正義感と恐怖感。相反する二つの感情がぶつかり合うのが、本作の魅力の一つであった。これに関連して、1960年代の「旧パーマン」においても、よく似た展開のお話がある。こちらも簡単に紹介しておこう。


「パーマン」「ゆうれい島」
「小学二年生」1968年7月/大全集3巻

海岸でキャンプをしようと海に向かったパーマン、ブービー、パー子。海岸はつまらないということで、小さな無人島でテントを張る。パーマン島と名付けて、パーマンが僕が王様だと名乗り、パー子は女王様だと続き、2号が家来となる。

と、そんな楽し気な始まり方だが、地元の漁師が島に現われ、ここは昔からゆうれい島と言って、色々怪しい言い伝えがあるのだという。3日前にも釣り人が行方不明となっているので、悪いことを言わないので早く帰れと告げる。


残された3人(二人と一匹)は、帰るか否かで牽制し合った結果、結局キャンプは続行となる。幽霊なんていないと言いつつ、怯えを隠せないパーマンたち。すると、かすかに子供の泣き声が聞こえてくる。

気のせいだと言い聞かせてテントで眠ることにするのだが、気がつくと島が海に沈んで、テント内に海水が流れ込んできている。やっぱりゆうれい島だということで、逃げ出す3人。

ところが慌ててパーマンが身に付けたマントがビニールシートだったので、一人飛ぶことができず島に残されてしまう。パー子とブービーは気づかず遠くの空へ・・。


すると、岩の中からシクシクと泣き声が聞こえてくる。早くここから逃げ出すために海に潜ってマントを探すパーマン。すると流されていたマントはすぐに見つかるのだが、岩に横穴が開いていて、そこに吸い込まれてしまう。

水道をくぐると、岩の中にほら穴ができていて、空気があって呼吸ができる。そして、そこには幽霊が・・・と思いきや、行方不明となっていた少年が座っているのであった。雨水と空気は確保できていたので、3日間、何とか生きながらえていたのだ。

水道を逆流して戻ろうにも、水の圧力が強くて進めない。そこで、6600倍のパーマンパワーで岩をぶっ壊して、脱出する。

地元警察に少年を引き渡すと、警官からは「ゆうれい島を探るとは勇気がある」と誉められて、「幽霊なんて信じませんから」と調子に乗って答えるパーマン。

すると、島に向かってパー子とブービーが飛んでくる。パーマン不在にようやく気がつき戻ってきたのだ。パーマンは癪に障るので、脅かしてやろうと海に潜り、二人の前で「オバケ!」と言って飛び出す。

死ぬほどにビックリ仰天した二人はそのまま失神。二人を抱えて帰宅する羽目となるパーマンなのであった。

こちらも幽霊はやはりいない結果に。本作では幽霊は人間の手によるものではなく、偶然にできた岩の中のほら穴に起因するものであった。

今回見てきた二作だけでも、幽霊のアイディアは全く違う。さらに「ゆうれい船」のお話を紹介するが、そちらのオチもどうぞお楽しみに・・。


「パーマン」の考察多数です。


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