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キテレツ・O次郎・パジャママンもさらわれる?/藤子F「誘拐」ストーリーズ④

藤子F作品は、子供向けタイトルの中にも、強盗や通り魔などの犯罪者を容赦なく登場させている。その中でも、誘拐をテーマとする作品は数多く、藤子Fワールドは誘拐犯がうじゃうじゃ存在している。なんとも物騒な世界なのである。

以前に「誘拐」を題材とした作品を紹介した記事を3本も執筆し、誘拐作品リストも作成したのだが、その時も、もしかしたら漏れがあるかもしれない、と書いた。誘拐記事は以下。

これらの記事を書いてから2カ月。なんとこの間に、新たに3本の「誘拐」作品が発見された(ていうか見落としですけどね)。なので、本稿では発掘された誘拐エピソードを3本まとめて紹介しておきたいと思う。

なお、なぜこれほどに「誘拐」エピソードが多いのかという考察は、以前の記事でたっぷりと書いているので、是非そちらもご参照下さい。

ではまず、最新の誘拐作品リストから・・。

◆オバケのQ太郎『ゆうかい魔に気をつけろ!』
「週刊少年サンデー」1964年42号/大全集1巻
◆パーマン『ガン子誘拐事件』
「小学二年生」1968年3月号/大全集3巻
◆新オバケのQ太郎『O次郎とゆうかい犯』
「小学一年生」1971年6月号/大全集1巻
◆異色短編『ヒョンヒョロ』
「S-Fマガジン」1971年10月増刊/大全集4巻
◆パジャママン『切手とゆうかい』
「テレビマガジン」1974年4月号
◆バケルくん『さらわれたのはだれ?』
「小学二年生」1974年11月号
◆キテレツ大百科『念力帽』
「こどもの光」1975年12月号/大全集2巻
◆エスパー魔美『ただいま誘拐中』
「マンガくん」1977年11月号/大全集1巻
◆エスパー魔美『エスパーもさらわれる?』
「少年ビッグコミック」1980年18号/大全集4巻
◆パーマン『さらわれてバンザイ』
「てれびくん」1983年9月号/大全集7巻
◆ドラえもん『テレテレホン』
「小学二年生」1984年12月号/大全集15巻

今のところ11本確認できている。

この中で、異色短編の「ヒョンヒョロ」と、エスパー魔美の『ただいま誘拐中』を除くと、実はほぼ同一のパターンで構成されている。能力者を誘拐したばっかりに、誘拐犯が逆に翻弄され、簡単に捕まってしまう、という展開である。

今回見ていく3本は、まさしくそのパターンで、誘拐犯が逆に可哀そうになるくらい。実に藤子F誘拐ストーリーの定番となっている。


新オバケのQ太郎『O次郎とゆうかい犯』
「小学一年生」1971年6月号/大全集1巻

ではまずは「新オバケのQ太郎」の『O次郎とゆうかい犯』を見て行こう。

60年代の「旧オバQ」でも誘拐ネタがあり、Q太郎が自ら誘拐されにいく話だった。今回は、誘拐されるのは弟のO次郎となる。

「オバQ」では正ちゃんのパパから誘拐犯に気をつけるように言われていたが、本作ではQ太郎がO次郎に、知らない人がお菓子をくれると言ってもついていくなと注意する。が、その矢先に、Q太郎の方が見知らぬ家族のお菓子に目を奪われてしまう。。

1人になったO次郎は、空き地でタバコを吸っている怪しい男になぜか興味を持つ。ジロジロ見られて警戒する男だったが、O次郎は「バケラッタ」しか言わないので、だんだん腹を立てていく。男は嫌になって逃げだすが、どこまでも追いかけてているO次郎。結局男の家までO次郎はついていってしまうのだった。

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O次郎は何度も遠くに蹴られてしまうが、そのたびに平然と戻ってくる。男たちは、偶然にも本当の誘拐犯で、正ちゃんやみっちゃんたちの写真を並べて、次のターゲットを物色していた。しかししつこいO次郎に引っかき回されて、降参してしまう誘拐犯たち。

O次郎は「バケラッタ」を繰り返すが、男たちはこれを「警察に行け」と解釈して自首をする羽目に。しかし、それでもO次郎は収まる様子がない。結局Q太郎が通訳するには、O次郎が男を空き地で見かけた時、タバコを吸ってその煙を鼻から出していたので、これをもう一回みたかっただけなのだという。

お見事な誘拐未遂事件の顛末である。

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◆パジャママン『切手とゆうかい』
「テレビマガジン」1974年4月号

では続けて「パジャママン」『切手とゆうかい』を見ていく。その前に、まず「パジャママン」とは何か、少しだけ解説しておきたい。

「パジャママン」は1974年に講談社系4誌で連載された幼児向けマンガ。「パーマン」型のヒーローもので、宇宙人(のロケット)から譲り受けた特殊な「パジャマ」を着て、悪者と戦うお話となっている。

主人公は山田タツ夫と川田エミの男女。二人とも新しく引っ越してきて、隣同士となったのだが、ひょんなことから、この両家の地下に埋もれているロケットに入りこんで、パジャマをもらいヒーローとなる。

幼児向けながら、次々と悪者が登場してくる物騒な世界観が印象的。これまで単行本化されていなかったが、藤子・F・不二雄大全集でまとまって読むことが可能となった。年齢層が低いヒーローものという難しいジャンルに挑戦した作品で、読み応えもあるので是非近いうちに本作に絞った記事を書いてみたいと思う。

本作はメインの連載である「テレビマガジン」での5話目にあたる。既に第二話で刑務所脱走犯、第三話で引ったくり強盗犯が町を荒らしているが、本作では満を持して(?)の誘拐犯の登場である。

友だちの切手収集自慢をされての帰り道、郵便屋さんとぶつかって手紙を撒き散らかせてしまう。一通残して郵便屋さんが行ってしまい、タツ夫が届けることに。ところが、この手紙にはとても貴重な切手が使われていて、届けた後に貰おうとお願いするのだが、受け取った女性が悲鳴を上げて倒れてしまう。

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タツ夫が届けた手紙は、娘の誘拐犯からの脅迫状なのであった。そして身代金代わりに要求してきたのは、明治32年発行の切手シートで、非常に珍しい代物であるらしい。

娘よりも切手が気になったタツ夫はエミと相談して、今晩受け渡し場に行きその場で犯人を捕まえることにする。しかしロケットは、それでは娘の身が危険だと指摘する。

案の定、受け渡し場所の公園では、警察も手が出ない。しかしエミの持ち物の人形で、ロケットが改造してくれたコアラのコアちゃんを犯人の車にしがみ付かせて、後を追うことに成功する。

パジャママンとなって犯人の隠れ家に向かい、あっと言う間に一網打尽。そこで、タツ夫は捕まえた犯人に脅迫状に貼っていた切手が余っていたら頂戴と持ち掛けるのだが、勝手に切手のコレクションを一人が使っていたことが判明し大喧嘩に発展。「悪いこと聞いちゃったかな」とタツ夫。

切手コレクターと誘拐犯を合わせた、面白いアイディアの作品である。

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◆キテレツ大百科『念力帽』
「こどもの光」1975年12月号/大全集2巻

そして最後にキテレツ大百科の誘拐ものをご紹介。本作は「念力帽」という道具と誘拐ネタを合わせた作品。「念力帽」は、「ドラえもん」の「エスパー帽」と似た道具で、これを被ると念力を起こすことができる。

ところが、配線が一本足らず未完成のままキレテツは誘拐されてしまい、何とかしてあと10センチの銅線を手に入れようとする。さらに混み入っているのが、本作はみよちゃんから誘われたクリスマス会に絶対時間通りに参加しなくてはならず、タイムリミットが決められているのだ。

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キテレツは誘拐犯の身代金要求を自ら手伝って、何とか銅線を入手して、時間までにみよちゃんの家に行かねばならない。キテレツにとって誘拐犯は怖れに足らず、むしろ時間が気になって仕方がない。そうしたギャップが本作の見所となっている。

誘拐犯に現金がないので金品を要求するようアドバイス。受け渡しの時間もクリスマス会に間に合うように早めの時間に設定させ、下手くそな字の犯人に変わって身代金も代筆し、犯人の車の故障も直してあげる。

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ところがキテレツの筆跡の脅迫状なので、ママに信じてもらえず、気になったコロ助だけが受け渡し場所まで見に行くが、そこで犯人に捕まってしまう。

結局、金品を受け取れなかった犯人、銅線を入手できなかったキテレツ、それぞれの思惑は達成されず、さらにコロ助も捕まってしまう。犯人は本気を示すため、キテレツの耳を切って送り付けることを思いつく。ここで初めてピンチ到来だが、キテレツはコロ助から銅線を拝借して、念力帽を完成させる。

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そして念力発動。あっと言う間に誘拐犯をやっつけてしまう。そして警察に電話して、自分たちは急ぎみよちゃんのもとへと向かう。約束の時間に迫っており、致し方なく、念力で自分の体を投げ飛ばすが、屋根に何度もぶつかり、到着したころには服はボロボロ。

しかも、一分遅刻でみよちゃんちに到着となるのだが、誘拐犯の隠れ家にあった時計は30分以上進んでおり、時間については全然余裕なのであった。

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以上、ざっと3作品を紹介した。冒頭で、誘拐ものは良く似た構図・展開となっていると書いたが、実際のところは各話別の切り口を添えて、全く同じにはしていない。

『O次郎とゆうかい犯』は、誘拐犯へ自ら押し入っていくタイプの作品で、「オバケのQ太郎」の『ゆうかい魔に気をつけろ!』の姉妹編と考えても良さそう。

パジャママン『切手とゆうかい』は、パジャママンが誘拐犯を倒す話で、エスパー魔美『ただいま誘拐中』やパーマン『ガン子誘拐事件』と同系統の展開となっている。

キテレツ大百科『念力帽』は、誘拐されているのに立場をわきまえずに誘拐犯を困惑させる展開で、パーマン『ガン子誘拐事件』のガン子や、バケルくん『さらわれたのはだれ?』、エスパー魔美『エスパーもさらわれる?』、パーマン『さらわれてバンザイ』などが同一パターン。最も典型的なF先生の誘拐ストーリーであると言えよう。


本稿で「誘拐」シリーズも4本目。もしまだ誘拐ストーリーが発見されたら、第5弾でお会いいたしましょう。


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