見出し画像

カツアゲ不良はもはや暴力団である!『暴力マーケットをやっつけろ!」/町のカツアゲくん③

あんまり思い出したくないことだが、町の不良に絡まれ、カツアゲを食らったことがある。僕自身は一度だけだったが、周囲の友人たちもしばしば被害に遭っていた。

カツアゲのやり方としては、突然殴ってきて、金を出せと凄むパターンや、大勢で取り囲んで静かにせびるパターンもある。これに対応するために、非力な少年だった僕らは、見せ金として1000円くらいを財布に入れておき、大きなお金は靴下の中に隠す、といったことをしていた。

悪いやつらはそこかしこにいたので、こちらも防御策を施しておく必要があったのだ。ともかくも、中高校時代は、対不良の対策に頭を悩ませていたのである。


さて、藤子作品では、いじめっ子は必ず登場するわけだが、物を借りパクすることはあっても、暴力で脅してお金をカツアゲするようなことはなかった。しかし、いくつかの作品で、外部から現れた無法者によって、子供たちがカツアゲに苦しめられる、といった展開が見られる。

そこで「町のカツアゲくん」と題して、カツアゲしてくる不良どもとの対決を描いた作品群をいくつか紹介していくことにしたい。これまで2本の記事を書き上げているので、もしよろしければ、ご一読ください。



「ドビンソン漂流記」『暴力マーケットをやっつけろ!」
「こどもの光」1971年3月号

「パーマン」「ドラえもん」のよく似たカツアゲ話を見てきたが、今回も同様パターンの作品を取り上げ、比較検討を行っていく。題材となるのは「ドビンソン漂流記」の第3話目の作品である。

まず、そもそも「ドビンソン漂流記」とは何ぞや、という方も多かろうということで、作品概要の記事があるので、まずはこちらを読んでみて欲しい。


地球に漂流してきたドビンソン。何とか自分を見つけてもらおうと、空き瓶にSOSの手紙を入れて、相棒であるロボートのパワーを使って、宇宙へ向けて発射を繰り返す。無人島に漂流して、海に手紙を入れた瓶を流すような感じだろうか。

空き瓶を探しているうちに、居候しているマサル一家のママから、ガラクタを片付けてくれたということでお小遣いをもらう。お手伝いをするとお金がもらえるということを知り、ドビンソンとロボートは家事を手伝い、ママにお駄賃をさらに貰う。


そんなドビンソンたちに文句をつけてきたのがマサルである。マサルは自分がお手伝いをしてお金が欲しかったのである。ところが、ママに「お金なら昨日もあげたでしょ」とたしなめられる。

それに対して「使っちゃったよ」とマサル。ママは最近やたらをお金を欲しがることを怪しんで、マサルを相手にせずに行ってしまう。残されたマサルはとても困り果てた様子。

このマサルの様子は、前稿での『世界平和安全協会?』ののび太とほぼ同じ。結論から言えば、お金を悪い高校生にカツアゲされているのである。

マサルはドビンソンにお金が欲しいとお願いするが、彼らもお金を溜めて、渡米してロケット基地に行くという目標があるので、お金は渡せない。それを聞いたマサルは、顔を真っ青にして、どこかへとフラフラと歩いて行ってしまう。


道端で友だちと出くわすと、みな今日は「マーケット」に行ったかどうかという話題になる。ある者は100円でかなり短い鉛筆を買わされ、ある者はゲタの片っぽを200円で買わされている。どうやら、その「マーケット」がトラブルの元であるらしい。

するとマサルは学ランを着崩した高校生と思しく不良に声を掛けられる。「今日のお買い物は?」と尋ねられ、「今行こうと思っていた」と答える。そして、半ば強制的にその男に空き地へと連れて行かれる。

そこには別の不良が待ち受けていて、背後には「スーパーマーケット 正直屋」という看板が出ている。ここがどうやら「マーケット」であるらしい。そこへ、もう一人の不良が荷物を背負ってやってくる。彼は「仕入れ部長」だという。


仕入れ部長が、「お買い得品」だと言って出してきた商品は・・
・切れてる電球=300円=停電の時に使う
・割れた茶碗=お茶を飲みたくない時に使う
・枠だけの虫メガネ
・壊れた時計 などなど・・

つまりは、ガラクタを集めてきて、「マーケット」だという設定の下、子供たちにそれらを押し付け、なけなしの小遣いを奪い取ろうということである。要はカツアゲなのである。

これは、『世界平和安全協会?』における協会の会費徴収と全く同じ考え方。要はヤクザお得意のみかじめ料の手口である。


お金を持っていないマサルは、弱りながらそれを伝えると、「何!?」と眼光鋭く睨まれる。「買えません」と声を絞り出すと、仕入れ部長が激ギレして、「ばっかやろー」と大声を出す。

すると、リーダー格の不良が「やめろ」と制止する。そして、慇懃無礼な態度を取ってくる。

「俺たちゃ暴力団じゃねえんだぞ。ちゃーんと品物を差し上げて代金をいただいている正直者なんだ。お客様は丁寧に扱え」

「ありがと」とホッとするマサルだったが、これはもちろんヤクザな手口の第二弾である。ここから、第三者的な言い回しで脅しをかけてくる。

「かわいそうな人だなあ。きっと何か悪いことが起こるよ。気の毒で気の毒で泣けてくるぜ。せめて命だけでも助かるといいが」

これを聞いて完全にビビってしまうマサル。しかし金が無いので、ここから立ち去るしかない。


そこへマサルの後を付いてきたドビンソンたち。不良たちのガラクタを見て、これを片付けたらお金がもらえるかもしれないということで、勝手に片づけてしまう。

不良たちは怒って、時価3650円を払えと脅してくる。しかしどこ吹く風のドビンソンたちは、「どこかで見つけて弁償するよ」とほぼ相手にせず、空へと飛んで行ってしまう。


さて困り果てていたマサルだったが、意外にも不良たちに対抗することを決める。被害に遭っている仲間を集めて、「マーケットをつぶせ!!」という掛け声のもと、「みんなで団結して、もう買わないと申し合わせよう」と盛り上がる。

ところが、その盛り上がりに水を差すように、「俺嫌だよ」と言って普段は暴れん坊の源二が、大けがをして歩いてくる。彼曰く、買い物を断ってから、10分置きに石や棒が飛んできて、結果大けがをしてしまったのだという。完全な見せしめである。

これで勢いを完全にそがれたみんな。マサルだけが根性を出して、「だからこそ僕たちは力を合わせなきゃいけないんだ」と皆を鼓舞する。・・・が、皆の表情は暗いまま。


そんなマサルの様子を不良の一人が見ていて、リーダー格の男に報告。「ヌガー」と怒りを露わにして、「マサルを痛めつけよう」と言って顔を真っ赤にする。

そんなところへ、マサルが皆を引き連れマーケットへとやってくる。「僕たちもうマーケットでは何も買わないことに決めました!」と威勢よく発言するマサルだったが、気がつくと友だちは全員どこかへと姿を消している。源二への見せしめが功を奏したのである。


みんなに裏切られた形となったマサルはそこから逃げ出し、先生に知らせようと言うことで学校に助けを求めようとする。しかし、不良たちに行く手を遮られ、先へ進めない。

ドビンソンがいたので助けを求めるのだが、ガラクタ探しに忙しいと言われ、どこかへと飛んで行ってしまう。頼みの綱にも逃げられてしまうマサルだったが、この時のドビンソンの行動が、ラストで生きてくることになる・・・。


結局三方からゆっくりと取り囲まれ、「ご一緒に散歩を」などと言われつつ、人気のない小高い丘へと連れて行かれるマサル。この不良たちにゆっくりと囲まれる描写は、個人的に少年時代にカツアゲを食らった思い出と奇妙な合致を見せる・・。

取り囲まれ、ボコボコにされる寸前に、「やっと見つけたよ」と言ってドビンソンがロボートに乗って飛んでくる。マサルが助けを求めると、ドビンソンは「手出しは許さんぞ」と割って入ってくれる。

ドビンソンは一発殴られてフラフラするのだが、すぐに調子を取り戻して、熱風を掛けたり、「カサカ」という呪文で不良たちをひっくり返していく。さすがの悪どもも、ドビンソンの不思議な力には太刀打ちできない。

たまらず逃げ出していくのだが、そこへ追い打ちを掛けるように、「返すものがあるんだ」と言って、大量のゴミを三人の頭上からドサドサと落として下敷きにする。

ドビンソンたちは、マーケットのガラクタ商品を片付けて、それを返せと言われたので、律儀にゴミ捨て場を回って、ガラクタを集めていたのである。


・・・ということで、今回のカツアゲしてくる男たちも気持ちよく撃退された。これまで3作品を見てきたが、全て高校生の不良が小学生をターゲットにするお話であった。

ガキ大将とは全く別次元の悪者を倒す展開なのだが、これは大人のドラマに置き換えれば、町のヤクザに立ち向かう小市民のお話となる。子供の世界も、大人の世界も、日常を生きる善良な市民にとって、暴力は常に悩みの種なのかもしれない。



藤子作品多数取り扱っております。


この記事が参加している募集

コンテンツ会議

マンガ感想文

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?