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ドラとバケルの奇跡のコラボ!『スターたん生』&『ジーンマイク』

1975年度の「小学四年生」は「ドラえもん」と「バケルくん」が同時に連載していた。藤子作品がダブルで読めるとは、今思えばとてもラッキーだが、実は1970年代の学習誌では良くあることだった。

しかし、1975年度の「小学四年生」はさらに特別で、二作の連載に加えて藤子先生考案のお楽しみ企画も併載されていたのである。つまりこの年度の読者のみ、藤子作品がトリプルで読むことができた超ラッキーな子供たちであった。

このお楽しみ企画は「ドラとバケルともうひとつ」と題され、毎号凝った内容が発表されていた。そのあたりの詳細は下記を参照下さい。


「ドラとバケルともうひとつ」は、毎号目が離せない企画ばかりだが、本稿では1975年6月号の企画を検証していく。

「小学四年生」1975年6月号
「ドラえもん」:『ジーンマイク』(単行本:ジ~ンと感動する話)
「バケルくん」:『ゴン太のガールフレンド』
「ドラとバケルともうひとつ」:『スターたん生』

この号に掲載されている「ドラえもん」と「バケルくん」は、単体でも十分楽しめる作品となっている。しかしこの二作を続けて読むことで一つの物語が浮かび上がり、『スターたん生』という小説形式の作品に合流する構成が採られている。

これを分かりやすく図解すると、

プロローグ→(『ジ~ンマイク』+『ゴン太のガールフレンド』)→『スターたん生』

という構成となっている。この流れ通りに作品を見ていく。


①プロローグ

読者に語りかけるような2ページのプロローグ。雑誌のスクープ記事を彷彿とさせる作りで、「天才少女円奈(つぶらな)ひとみのなぞをさぐる!」と題が付いている。

円奈ひとみは、デビューして一カ月でレコード100万枚のセールスを果たした天才少女歌手で、人形のような愛くるしい顔だちと美しい歌声を持つ、突如現れたスターだという。

彼女の生い立ちは一切不明で、ステージで歌った後はさっと消えてしまうという。そんな彼女の正体がわかったというのが今回の大特集なのだそう。そしてその真相を明らかにする前に、ドラえもんとバケルくんを読んでくれ、と締めくくられている。

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②「ドラえもん」『ジーンマイク』

てんコミにも収録されている話(タイトルは『ジ~ンと感動する話』)だが、雑誌掲載時と単行本とではラストが異なるので、そこに注目してもらいたい。

冒頭、0点を取って一人教室で落ち込んでいるのび太に、先生が一声かける。

「0点を取ったのは残念なことだが、過ぎたことばかりくよくよしたって仕方がないだろう。目が前向きに付いているのはなぜだと思う? 前へ前へと進むためだ! 振り返らないで、常に明日を目指して頑張りなさい」

この先生の励ましにいたく感動したのび太。「目はなぜ前についているか」という言葉に惚れ込んだのび太は、この感動を誰かに伝えたいと思う。

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さっそく帰り道に、しずちゃんとその友だちがいたので、この話をすると・・・

「決まっているわ、後ろについてたら髪の毛が邪魔だもの。ばかみたい」

と全く話が通じない。この後スネ夫にも聞いてもらえず帰宅。ママに対して、この話をしようとするも・・・

「答案を見るためです。早く出しなさいっ!」

と怒られてしまう。

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誰も自分の話を聞いてもらえないとプリプリするのび太。部屋に戻ってドラえもんにしっかりと聞いてもらうことに。

「あのね、目が前に付いているのは前に進むためなんだよ」

先生に言われたことと一字一句変わらないが、ここだけ抜き出しても全く感動が伝わらないドラえもん・・。反応がもらえないのび太はさらに拗ねてしまう。

そこで出した道具が、「ジーンマイク」である。これを使うと感動周波音波が出て、聞く人を漏れなく感動させることができる。今どきのインフルエンサー垂涎のアイテムである。

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これを使って皆を感動させようと町に出ると、公園でロケをやっていると大騒ぎになっている。人気歌手の桃口山枝(ももぐちやまえ)が来てるのということで、公園には人だかりができている。

ここでいくつかのポイントあり。

まず大勢の野次馬の中にバケルくんの姿が見える。クロスオーバーならではの遊び心である。ちなみに単行本でもバケルくんの姿は確認できるが、単体で読んでもこの面白さは理解できないところ。

次に公園でロケをするスター・桃口山枝(ももぐちやまえ)は、当然山口百恵を意識したキャラクターだが、外見はあまり似せていない。この年の山口百恵は人気急拡大中で、「小学四年生」誌上にもよく登場していたようで、「ドラとバケルともうひとつ」のコーナーでも、7月号で百恵ちゃんがゲスト出演する。

そして驚きなのが、本作の単行本収録にあたって、桃口山枝が西条ひろみに変更されているのである。なので、桃口山枝は雑誌でしか読めない幻のキャラクターということになる。本作が掲載されたのが75年6月、単行本に収録されたのが75年11月。半年も経たないうちにキャラクターが変更した理由は正直わからない。

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なお、西条ひろみは、西城秀樹と郷ひろみを合わせたキャラと思われる。この二人は、野口五郎を含めて新御三家と呼ばれて圧倒的な女子人気を獲得していた。

キャラ変更の理由としては、単行本で加筆された部分として、しずちゃんが西条ひろみを見て超ミーハーに狂う描写があるのだが、その効果を上げるためかもしれない。この時の狂いっぷりが凄いので抜粋だけしておく。。

「ね!ね!のびちゃん、なんて感動的な歌かしら。心の底からジーンとなるわ。ウキーッ」


単行本ではこの後オナラネタが出てオチが付くのだが、雑誌版では別の展開が待っている。山枝ちゃんがロケで歌い出し、それを聞いたのび太がジーンマイクを手に自分も歌ってしまい、見物客を「じいん」とさせる。

その場に居合わせた売れっ子作詞家の早川先生が、のび太に声を掛けてくる。君の歌が素晴らしいので、自分が審査員をしているサクラテレビの「星(スター)への階段」という番組に出てみないかとスカウトしてきたのである。

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③「バケルくん」『ゴン太のガールフレンド』

ゴン太は「ドラえもん」のジャイアンポジションのキャラクターだが、バケル一家の長女ユメ代のことを好きになってしまい、カワルはいつも当惑している。

本作でも何かとユメ代にちょっかいを出してきて、しつこくするものだから、ユメ代は困ってしまう。そんなゴン太の名ゼリフ。

「俺って一日に五回はユメちゃんの顔を見ないと食欲が落ちて、飯を五杯しか食えないんだ。つまりそれほど好きなんだよな」

ゴン太は普段どんだけお代わりしているんだろうか?

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ユメ代はゴン太のアプローチから逃れるため、タレント用に作られた美少女人形を探し出し、こちらを好きにさせようという作戦を考える。

美少女に変身してゴン太の前に姿を見せる。ゴン太はそれでもユメ代の方が好きだと言っていたのだが、無理やり近づいてゴン太にお世辞を使ったりして、興味を自分の方に仕向ける。名前を河合伊奈と名乗りつつ、実は自分はタレントなので住所は教えられないと告げる。

ゴン太に見たことないと言われたので、美声を聞かせてうっとりさせる。ユメ代から気をそらす作戦は見事に成功したようである。

ゴン太と別れた後、別の男性が声を掛けてくる。それは高名な作曲家の恩知先生。歌の下手そうな名前である。恩知は「君は実に魅力的な少女でスターの素質がある。審査員をしている「星への階段」に出演してくれ」とスカウトしてくる。「ようしやってみよう」と河合伊奈(カワル)は決意するのだった。

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④スターたん生

ということで、のび太とバケルはそれぞれスカウトされて、同じオーディション番組「星への階段」に出演して、スターの座を競うことになる

小説形式にてその顛末が書かれたのが「スターたん生」である。それなりに長文のでかいつまんでストーリーをご紹介。

「星への階段」に出場することになった伊奈とのび太。まず伊奈がゴン太の声援を受けながら歌い、95点を獲得する。5点の減点はのび太を推した早川先生によるもの。

続けてのび太が緊張の中ジーンマイクで歌い上げこちらも結果は95点。5点減点は伊奈推しの恩知先生の採点である。

「歌声はのび太、でも顔がマンガなので・・」と評が真っ二つに分かれて、もう一度歌いあう優勝決定戦を行うことになる。休息時間中に、すったもんだがあり、伊那が人形に戻ってしまい、それをのび太が踏んづけて伊那になってしまう。

伊奈の姿でジーンマイク片手に歌い上げたのび太は、歌+外見を手に入れたことにより、採点結果は見事100点。文句なしの優勝である。

番組終了後、バケルがのび太たちに変身人形の秘密を教えて、のび太もマイクの秘密を打ち明ける。ドラとバケルの二大キャラの融合が見られた決定的瞬間である。

ここで、冒頭のプロローグ、円奈ひとみの話に戻ってくる。河合伊奈が芸名を円奈ひとみとして、ジーンマイクを使って歌手デビューしたというわけである。

ちなみにのび太が月水金カワルが火木土に円奈ひとみの姿になって歌番組に出て、日曜日は二人とも遊びたいので活動はなし、なのだとか・・・。

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本作で完全なクロスオーバーを果たしたドラえもんとバケル。この流れの中に、映画にもなった『ぼく、桃太郎のなんなのさ』が描かれている点に注目しておきたい。

『桃太郎』では、最初からドラえもんたちとバケルが親しくしているので、単行本で初めて読むと、「え?知り合いだったの」と疑問符が浮かぶ。しかし、この年の「小学四年生」読者は、「ドラとバケルともうひとつ」に慣れ親しみ、自然とその世界観に入り込めたというわけである。


最後に補足情報を。70年代と言えば本作のモチーフとなっているオーディション番組「スター誕生!」(略してスタ誕)全盛期であった。全国の予選を勝ち抜いたスターの卵たちが、歌合戦形式でガチンコ勝負していく超人気番組だった。

司会はやはり時の人だった萩本欽一。審査員は人気の作詞家・作曲家・芸能雑誌記者が名を連ねていた。この番組で合格してスターの道を歩んだ芸能人を列挙しておくと・・

森昌子(デビュー第一号)、桜田淳子、山口百恵、シルビア、城みちる、片平なぎさ、岩崎宏美、ピンクレディー、小泉今日子、中森明菜、岡田有希子…

これはほんの一部。次々とスターが生まれて芸能界の地図を一変させたと言われるオバケ番組であったのだ。

「ドラえもん」では、こうした芸能人をパロディしたキャラが何人も登場してくるので、一度集めてみたいものである。


藤子作品の考察をたくさんやっております。


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